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62.個人の趣味

青い庭園となった山頂を楽しんでいると

日が傾き始めた。


楽しい時間はあっという間だ。


さて帰りましょうか・・・というところで別に

リッチの研究室に戻る必要も無くなったことに気が付いた。

もはや地上で自由に魔力を行使することができる魔物たちは

ダンジョンに帰る理由も無くなっていた。

魔力が使えない漠然とした焦燥感から解放された以上、

別に地上にいる事には何の不都合も無い。

むしろ望むところと言えた。

研究施設があるリッチたちはその研究のためには

戻る必要もあるだろうが、そもそも巨体の飛竜と黒蛇に

至ってはその皆の拠点たる研究室に入ることもできないのだ。


「たしかに、ここに住居を移すとなりますと」

「このままではいささか不便ですね・・・」


外の世界はその悪天ですら、魔物たちにとっては花鳥風月

そのものであったのだが、傍らにいる猫やもう随分と泳ぎに

慣れたのか、はしゃぐニンゲンの幼い兄妹をその背中に乗せて

しっぽを振り回して泳いでいる犬たちにとっては

どちらかと言うと不快に感じるものだった。

自分たちも慣れてしまえば煩わしく感じてしまう

ものなのかも知れない。

幸い今日は快晴そのものだがそれがずっと続くわけもなく

ずっと野ざらしで過ごす訳にもいかなかった。


「問題は場所ですな・・・」


リッチの魔法を持ってすれば庭園を造った様に

住居などは簡単に生成できるのだが・・・

その庭園を造ったことで山頂に残ったスペースは

少なかった。

研究室の様なこじんまりとした居住スペースは

作れなくも無いが、飛竜や黒蛇にとっては快適とは

言い難いだろう。


『別に私等はダンジョンで寝てもいいけどね』

『入り口は十分に広いしな』


『皆で過ごせないんじゃ、別に拠点を移す意味も無いじゃないか』


悩む皆に気を遣った黒蛇と飛竜の意見は猫に即座に棄却された。

その皆が激しく同意する否定の言葉は嬉しくもありつつも、

かと言ってどうすれば良いのか・・・


「いっそ、この山頂を削り取ってしまうのはどうじゃ?」

「この入り口の上に住居を構えれば魔素の補給もむしろ楽じゃろ?」


地上に住居を構えたとて、魔素の補給や美味しい獲物を求めて

ダンジョンに潜る必要はあるだろう。

庭園を創造したところで絶好調な今日のリッチの冴え渡っていた。

その意見に皆は同意したが、それ故に心配事もすぐに思いついた。


「じゃがのう・・・」

「麓から山頂の形が見えるのかはわからんが」

「また【王都】の方で変な噂にならんかの?」


ただの岩肌とは言え鋭く空を突き刺すように聳え立つこの山頂の

とんがりが無くなれば【王都】に住まう人々はそれを

禍々しい棘が取れた吉兆と思うのか古くから王都を象徴する

聖山の形が変わった悪兆と捉えるのか・・・


「きっとその心配は要らないとマスターは仰っております」

「・・・私もそう思います」


情報戦を繰り拡げるために王都にしょっちゅう向かっていた

歌やローブには険しい山の麓から山頂なんて見えるものでは無かったし

あるいは肉食獣の遠視を持つ猫にはその形が捉えられていたのかも

しれないが今は何よりリッチ自身が作った濃霧に包まれている。

魔力の少ない人間がそこを見通すのは不可能だろう。


『まぁ、それにどっちの転んでも、もうどうにかできる状態じゃないしね』


リッチの青い蝶の出現にポジティブとネガティブが同時に一斉に

広がる様を見て来たばかりだ。

今更、それがどうなったとて構うものでもないだろう。

むしろじっくりと腰を据えて次の策をみんなで話し合う場所が

あった方が色々と捗るはずだ。

それに正直言えば、猫からしても皆で過ごせる憩いの場が整う

のであれば嬉しいものだ。


決まったとあればそこからは早かった。

リッチは地の魔法で山頂を削り取るように均すと削り取った山頂を

利用してまるで城のような住居を作り出した。

デザインやら部屋割りやら何でも言ってくれて構わぬぞという

リッチにその趣味が全開に発揮されて頭骨で装飾されまくっていた

禍々しいその城の外観には問題しか感じない皆の批判が集中した。


「せっかくのこの庭園にはまったく似合わない」


満場一致の意見に何でもと言っておいて何なのだが

渋々と皆の意見通りにリッチはその外観を修正しはじめた。












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