表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

61/77

61.青

山頂からの視界には遮るものは無く、ただ大地を

一望することが出来た。

幾分か近くなった空の元でその壮大な眺めを楽しみながら、

それぞれが旅路で交わったものたちと親しく言葉を交わし合い―――

山頂は殺風景ではあったが、その群れにとっては

それでも本当に大切な場所だった。


今、山頂で群れの眼下にあるものは殺風景な岩肌などでは無かった。

いつの間にか出現した泉は近づく空をより深く青く映した。

そして魔花たちはその更なる青を誇る様に咲き誇っていた。




思い思いにその群青の景色を楽しむ姿にリッチと少女は

もちろん期待通りの反応ではあるのだがそれでも実際に

目にすれば思わず頬が緩んでしまう。

ふと裾を引っ張られ目を移すと自分を怖がっていたはずの

幼いニンゲンの兄妹が思わず笑みを零していたリッチと少女の

裾を掴み泣きじゃくっていた。


「あ・・ありが・・・」


その言葉は感泣に邪魔されてしまい、うまく出てこない。

それでもリッチと少女はその頭を優しく撫でて応えた。




ばしゃんと水音が響くと歌が泉で泳ぐ姿が見えた。

水中を驚くほど自在に泳ぎ楽しむその姿はずっと一緒に

旅してきた犬や猫も久しく見ていなかったものだ。


「(こんなに綺麗な泉は初めて・・・!!)」


リッチの魔法で産み出された純粋な水もそうであろうが

水中から見上げるその空の青さとそれを彩る青い花・・・

そしてその傍らには地上の旅で得た最高の仲間たち。


うん、この世界は本当に素晴らしい。


自らが感じた激情をそのままにその歌に込めた。




出会った時のことなど、もうとうに忘れているのかの様に

犬は群れの仲間が水に落ちてしまったと思いこんだのか

仲間に向かって必死に吠えると迷いなく泉に飛び込んで

その手足を動かした。

泳ぐなんて初めてのことだったが不器用な犬かきでも

ゆっくりと仲間の元に進んだ。


長い旅路で産まれていたその絆はその危機に水に対する

恐怖心を忘れさせた・・・

のだが水の中が意外に心地よかったのか

初めての水泳が楽しかったのか歌の元に辿り着くころには

犬の水面に出ているそのしっぽはブンブンと振られていた。


自らの元に一生懸命にたどり着いた犬に歌は歌を

止めないままに笑いかけ、ローブが代わりにと

犬の頭を優しく抱きとめた。


その様子に猫は穏やかに目を細め・・・

飛竜と黒蛇もそれに続きながら、そしてその歌に込められた

思いに馳せた。


旅に出て本当に良かった。


万感の思いでその歌に聴き入った。




そんな穏やかな空気の中、別の意味でその歌に

魅せられてフラフラと兄妹が泉に向かわない様に

三人のアンデッドがその魔力から守っていた。

でもその歌はしっかりとその三人と二人の耳にも届き―――


「そうじゃ、落ち着いたら」

「三人でピクニックに行くぞ」


「ピクニック・・・?ですか??」


「まだ、あんたは森と言うものを見ていないでしょう?」


「森だけではなく、」

「まだまだ世界にはワシらが見るべきことはたくさんありそうじゃ・・・」




「お兄ちゃん・・・」

「きっと悪いことばっかりじゃないよね・・・?」


兄の手を握りながらおずおずと

その妹は言葉を紡いだ。


「うん・・・」

「きっと世界は悪いことばっかりじゃない・・・」


自分にも言い聞かせる様に兄は呟くと妹の手を強く握り返した。








読んで頂きました皆様に

心より御礼申し上げます。



作者の一番の趣味であるサーフの釣り、

ヒラメシーズンが開幕してしまったので

絶対また更新が遅くなる!

書けるだけ書いてしまえ、何ならラストまで!!

と思いましたが到底無理でした。


ちょっと更新頻度が遅くなるかと思いますが

物語の最後までお付き合い頂けますと幸いです。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ