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60.噂話

山頂の環境は本来、植物の生育には適さないものだった。

元々は岩肌であったその場所には植物たちの生育に

必要な栄養素に乏しかった。

しかしその裂け目から洩れ出る魔素により魔花たちの

生育にはむしろうってつけの環境となっていた。

魔花たちは豊富な魔素が染み込む大地にしっかりと

その根を下ろした。



ミッションコンプリートとドヤ顔をして研究室に

戻れば猫たちは兄妹とちょうど王都に向かった所だという。


『色々と複雑な状況になってきていてだな・・・』

『結構頻繁に王都に行かなきゃなのよね・・・』

「しかし、無事に戻られて安心いたしました」


ちょっと暗そうな雰囲気で、それでも少しの間の旅に出た主、

あるいは友との再会を喜んだ。

出立時に見せたその怒気のせいか、ニンゲンの兄妹は

余計、リッチを怖がるようになってしまっているそうで

またちょっと内心傷ついてしまった。

だがしかし今回は仲良くなるための秘策がある。

きっとサプライズを喜んでくれるだろう。




リッチが魔花の採取のために出立してから情報収集に王都に来た

猫、歌、ローブはちょっと予想だにしていなかった状況に困惑した。


【魔王】の出現とこの世界では最強の部隊とも呼べるはずの

【魔王討伐隊】の敗走に王都は混乱を極めていた。

討伐隊は魔王はおろか、その先兵にすら歯牙にもかけぬ扱いで

軽くあしらわれたらしい。

その畏怖すべき事実は王都を恐怖のどん底に叩き落とした。

しかし希望はある。

【女神の少年】のパーティーは西の魔獣を見事討ち果たしたという。

その激戦での傷を癒すために今は西の都市で療養中らしいが

凱旋すればきっと魔王すらをも討ち果たしてくれることだろう。

少年たちも傷が完治したら魔王討伐に向かうことを約束したらしい。

その瞳には相応の覚悟が見て取れたとか。


ちょっと待って。

何でおチビちゃんと友だちが戦わなきゃいけないのさ!?


傷を負ったという少年に対してハラハラと心配で

猫は背の毛を逆立たせたがその話はその逆立った

背筋を凍らせた。


いつの間にか当初の予定であった少年との合流は

もはや不可能な状態となっていた。

合流して一緒に魔王と対峙するのも魔王側として

少年に対峙するのも本当にご勘弁願いたい。


異世界でできた友だちだよ。何と魔王なんだ。

わ~そうだったんだ。悪い奴なんていなかったんだね。

めでたしめでたし。

そんなハッピーな物語になることはちょっと無いな

とういうことは誰でも理解できた。


話をややこしくしているのは別の希望も語られていることだった。

人と言うものは絶望の中では希望に縋りたくなるものだ。

討伐隊の中には魔王の先兵と思われたその獣を以前に

目撃していたものがいた。

南の大都市に旅行に行った際に目撃した女神が駆っていた

獣そのものだったという。

あの獣は本当に魔王の手先なのだろうか?

討伐隊には何の被害も出ていない。

逆に魔王の手からその力なき者たちを無駄死にさせまいと

女神の遺志を継いだ獣が道を阻み、守ったのではなかろうか?

事実、時間が経っても魔王はこちらに手を出してこない。

それはあの獣が魔王と戦ってその侵攻を阻んでいるからでは無いのか?

そんな話も王都内でまことしやかに語られていたのだ。


猫たちは何度も王都に赴くと、やったことも無かった

情報戦を繰り広げた。


女神の従者たる獣は魔王と戦ってくれている。

もしかしたら山を登れなくしたのはその聖獣の力であって

逆に魔王の侵攻を阻むためのものなのかも知れない。

いや、とっくに魔王は獣に討たれて封印された。

その封印を守るための濃霧なのかも知れない。

だから何の心配もいらないさ。


猫たちは毎日の様に王都に脚を運んでは噂を流した。

それには人間の兄妹も協力してくれたことで、あっという間に

王都中にその話が広がり王都内の意見を二分していた。




さて今日も元気に王都で噂話と精を出していたところで

巨大な青に彩られた蝶が王都の上空に舞うようにして現れると

北の山頂を目指してヒラヒラと羽ばたいていった。

まるで鱗粉の様に蝶が落とすその魔力には人を惑わす力があった。

ああ、リッチ達が帰ってきたんだね。

その魔力からリッチの魔法だということはすぐに理解できたし

それはほっと一安心だがこの状況は・・・?


遂に魔王が王都に侵攻しだした。

いや、あの綺麗な姿を見ただろう?

むしろ王都を守るために現れた女神の遣いではないか?

ならば人を惑わすようなことをするだろうか?

人を簡単に惑わせるからこそ魔王にも効くのでは?

いやもしかしたら別の魔王が助太刀に来たのかも知れない。

ならばあの聖獣がまたやっつけてくれるさ。

いやいや、だから女神の遣いが聖獣を助けにきたんだって。


余計に大混乱に陥った王都の姿にもうどうにでもなれ~っと思った。

噂が噂を呼んでもう制御できるものでも無くなってきたし、

一定の効果はあった気もする。

何としても少年と魔王の戦いは避けなくてはならない。


とりあえずリッチ達の無事も確認したいし

戻ることにしようか。


戻った猫たちと合流すると全員で山頂から外に出た。

青い魔花が、いつの間にか現れた泉を美しく彩るその光景に

誰からともなく感嘆の声が漏れた。

幼い兄妹たちは故郷の花が咲き乱れる姿に涙を流して喜んだ。







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