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58.【リッチ】

「ワシの英知を甘く見るでないわっ!!」


有無を言わさず飛竜と黒蛇にニンゲンの守護、

デュラハンにはそんな二匹のための獲物の確保、

ゾンビの少女には自らの補助を、

歌とローブと猫には王都での情報収集を勢いのまま

指示するとリッチは犬の背に乗った。


「大船に乗ったつもりで任せておけばよいわいっ!」


良く解らないままに犬はその背にリッチとゾンビの少女を

乗せて走り出した。


あっという間に役割が決まって犬のその疾風の様な脚力で

消えたリッチの姿にしばらく呆然とし・・・

そしてしばらくたって、ようやく凍り付いた場の空気は

動き出した。


『私、何か踏んじゃたかい・・・?』


猫が何かやっちゃった?と心配になって口を開いた。


『いや、それはないと思うのだが・・・』


主人の激昂など、見たことも無かった

デュラハンは戸惑いながらも応えた。


『あんたが唯一このダンジョンで狩れなかったって

 だけのことはあるわね』

『結構な力を持ってるじゃない』


『全くだ』

『あれ程の力を持っていたとはな・・・』


その言葉と共に発していた、もはや殺気とまで呼べるほどに

放つ怒気とあの魔力は魔王と呼ばれる存在たちから見ても

なかなかに油断ならぬものだった。


「(う~ん・・・)」

「(合っているかどうかは解らないんだけど・・・)」


歌の言葉をローブはそのままに訳した。

きっと私で言えば音痴って言われたことだったんじゃないかって。

猫や飛竜、黒蛇で言えば弱いって言われたことなんじゃないかって。

デュラハンやゾンビの少女がその主人に頼りないって

言われたことなんじゃないかって。

もしかしてプライドを踏みにじる行為だったかもって・・・


あ~、なるほどね・・・

そりゃ、キレるわ・・・








リッチは恐らく自らが初めて感じる怒りに冷静さを失うことを

その裏ではその理性がきっと理解していたのだろう。

無意識に自らを諫める存在としてゾンビの少女を従者として選んだ。

犬に休憩も与えずに進もうとする生まれて初めて見る激昂する主に

恐る恐るとゾンビの少女がどうか犬を休ませてあげる様にお願いした。


いかん、ワシはどうかしておる・・・


はっとようやく冷静になってすまぬすまぬと犬の脚を止めた。

昼夜、全力で走り続けていた犬は疲れ果てていた。

少女から持ってきていたおやつをもらって水を飲むと

すぐに蹲る様にして寝入ってしまった。


「悪いことをしてしまったのう・・・」


その言葉通りに疲れ果てた犬の姿を見て反省の色濃く

落ち込むその主の姿はいつもの主人と変わらぬものだった。

異変を感じて不安になっていた少女もその姿に安堵したようだ。

自らを気遣う少女のその姿にリッチは更に反省し・・・

そしてアンデッドとして産まれ、ある意味で死んでしまっていた

感情と呼ばれるものを初めてぶっ放してみせた自らに興味を沿いだ。


生まれてこの方、世を退屈と思ったことは無い。

知りたいことはいくらでもあったし、そのために

やるべきことも尽きなかった。

ただひたすらにその好奇に任せて存在してきたが・・・

いつの間にか従者、共に歩んでくれる者たちができた。

そして友と呼べる者たち。

その存在たちは自らの傍らでその好奇とは何の関係も無い、

その道を歩むには何の必要ともしない感情と言うものを揺さぶった。

そう、それは本来必要もないはずのもので・・・

【怒】というネガティブとも呼べる感情のはずなのに

なのに何と素晴らしいものなのだろう。

そしてそれを齎した傍らにいる存在たちを自らの好奇を満たす

その存在意義だったもの以上に本当に愛おしいと思ってしまう。

世に存在するということはつまりはこういう事なのか。

どうやら死んでいる身でも世に存在するというだけで

時に色々とその生に彩りを与えるものらしい。


自身の感情と呼ばれるものと傍らにいるもの・・・

リッチは長き生を歩んでいたがどうやら本当に大切な宝物の

存在に気付いてしまった様だった。


「本当にすまぬな・・・」


リッチは少女と今は泥の様に眠っている犬の頭を思わず優しく撫でた。

ちょっといつもと違う主の様子に少女は戸惑いの色も見せてたが・・・

その表情にはそれ以上に喜色を隠せていなかった。


冷静になったリッチは思考を張り巡らせた。

さて、啖呵を切った以上、何とかしなければ恰好が付かんのう・・・


















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