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55.【女神】と【魔王】

そういえば犬がまだ帰ってきていない。


まさか!?と全員一瞬思ったが、買い出し組は早々に

帰ってきたし、ダンジョンで狩りをしていた

最高の感知能力を持つ黒蛇をその背に乗せた最強最速の暴を持つ

飛竜の魔王ペアの狩りだって一瞬だった。


実際、そんなに時間は経っていないし、そろそろ獲物を咥えて

しっぽを振って戻ってくる頃なのかも知れない。








時は少し前に遡る。


交易と観光で賑わっていた南の大都市をその身を犠牲にして

守り抜いたという【女神】という存在への信仰は急速にこの世界で

広まっていた。


この世界でも古来より魔素を元にした神話の類は無数にあった。

その多くは胡乱なもので、言わばおとぎ話の様に語られている

モノではあったのだが、今回の女神の降臨はそんなものとは訳が違う。

都市の象徴であった【王の路】を人ならざる力で破壊し尽くした

魔獣すらをも一瞬で葬って見せた女神のその麗しい姿を、

イヌーの王に乗ったその神々しい姿を都市中の人々が目撃していたのだ。

南の都市は観光地で賑わっていたこともあって当時多くの観光客、

王都に住む者ですら何人もその様をその目にしていた。

その話を聞きつけ、観光に赴く者が国中から押し寄せ始め、

そして女神への信仰は国中で広がり始めた。

魔獣の誕生以来、絶望しか無かった暗闇に包まれたこの世界に

光を齎し、そして希望を与える存在が遂に現れたのだ。

同時にその人々のために戦う【女神】と相対する存在、

人に仇なす存在である【魔王】も同時に語られることとなった。




多くの信仰を得た女神は劇的にその力を伸ばした。

同様に預かり知らぬ間にその加護を受けていた者たちも

その力を恐ろしい速度で成長させていった。


そうして磨き上げられていったその力は黒蛇にはるか遠くにいる

ニンゲンの幼い兄妹の危機を知らせることとなり、

そうして兄妹の元に急ぐ飛竜の雄大な姿は【魔王】と同一視され、

その存在への畏怖は更に【女神】への信仰を深めていく結果となった。


ここにいる魔物たちが地上で魔力を行使できるようになったのは

そのためだった。女神から分け与えられた力は不思議な輝きを

その魔力に齎し、その性質を大きく変化させたのだった。








ずっとそれらの存在を見守っていた女神は思わず

地上で魔力を行使し始めた魔物たちのその姿をモニターに

食らいつくようにして見ていた。

その魔力にあるこの輝きは・・・


あれれ?これってもしかして私の力なんじゃ??


ようやく魔物たちに分け与えた力の量と質を見誤っていたことを、

そして魔物たちが急速に伸ばす自らのその力と同様に成長し始めたことに

ようやく気が付いた。

やっちゃった!?と慌てるよりも前に、まぁこの子たちならいっか・・・

と思う方が存外に、自らも本当に意外に思ってしまう程に先だった。

この世界で見てきた中でも特に好ましく思う存在たちだ。

例えその力を認識できていたとしても、その力を分け与えることには

何の躊躇も無い。

事実、魔王と呼ばれているその存在たちはその力を

異種族であるはずの幼く力なき人間の兄妹の危機を救うことに

使ってくれたではないか。


まぁ、その力を分け与えた者たちこそが自らと相対していると

されている者たちだということに自らに対する強烈な皮肉を

感じもしたけれど・・・


自らが救うと誓ったこの世界で私が何を為すべきかなのかはまだ解らない。

それでもこれはきっと私自身が選択したことだったんだろう。


・・・私自身?


そういえば自らの存在を認知してから、私は何をしたかったのだろう?

神と呼ばれ、そう呼ばれるからにはこうしなきゃって思って・・・

ただただ正しくあろうとしていた。


そこに私自身の考えはあったのだろうか?


善悪の定義に、正しいと言われるその道は、

その道が本当に正しいんだって誰が教えてくれるの?

そしてそれが正しいって誰が保証してくれるんだろ・・・?


何よりその正しいと信じるその道には私自身は在ったのだろうか?


この世界を救う。


何で救わなきゃいけないんだっけ?

何を救わなきゃいけないんだっけ?

正しいことって何なんだっけ?

いやそもそも正しいことって何なの??


本当の意味での自我を持ち始めた女神はその産まれた問いを

自問自答に繰り返した。








『まずいわね・・・』

『わんちゃん、その魔王討伐隊ってのと鉢合わせちゃってるみたい』


戻らない犬の気配を何の気なしに探った黒蛇が感知して

思わず口にしたその言葉に弾かれる様に全員がその姿を見た。


まるで終わらない禅問答を繰り返し続けていた女神も同様であった。





ほんの少しでも面白いと思って頂けましたなら

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しっぽを振って喜びます。

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