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53.地上の魔物

予定では翌朝からいよいよ少年の元へ向かうはずだったが

ちょっと事情が変わってしまった。


翌朝、兄妹を連れて一行は山頂の裂け目から地上に出ていた。

幼い兄妹たちは皆の補助が無ければ真っ暗闇なダンジョン内では

何かを見ることすら出来ない。

別に地上にいる程の光源の確保をすることは難しくはないし、

魔素を含まない食べ物だって調達しようはあるのだが、

それでも1日ずっとダンジョン内にいては幼い兄妹にとって

精神衛生上の問題があるだろう。


そこでも兄妹の遊び相手に犬は進んで買って出ていた。

骨遊びに夢中になっている犬と兄妹たちを見守りながら

新たに生まれた答えの出ない難題について話し合った。


『一度、また王都に行ってみようかね・・・』

『この世界のニンゲンがどんな生活しているのか

 ちゃんと見たことなんて無かったからねぇ・・・』

『それにこのままじゃ違う問題もありそうだよ』


自分たちの味覚は獲物の魔素の濃さに直結していた。

捕らえた獲物はそのままもぐもぐ食べるだけで十分であったが

ニンゲンの幼い兄妹はそうはいかない。

魔素は残らず抜き取っているが魔物の肉は気味悪がって

なかなか手を付けないし食材から確保しなければならないだろう。

それにとりあえず焼く、煮るといった行為はできるが

する必要もない料理なんて誰もできるはずが無かった。

家事の手伝いで簡単な料理は兄妹でも作れるそうだが

そもそも自分たちには調味料の概念が無い。

もちろん手持ちに在る訳も無いし、それもどこかで

調達してくる必要がありそうだ。


幸いなことリッチの研究室にはかつての冒険者たちが

残したニンゲンの通貨が山ほどあった。

幼い兄妹に言わせれば見たことがない程の大金らしい。

自分たちには不要のものだ。今回は大いに役に立ってもらおう。


ただその買い出しといった行為にもそれなりにリスクが伴う。

常識の欠如からくる不信感は拭えないだろう。

いっそ盗んできたほうが簡単だし確実だがそもそも

食材はともかくとしても調味料などは自分たちにはわからない。

例えば兄妹に塩が欲しいと言われ、それが白い粉だと言われても

自分たちにその判断が付くのかどうか・・・

それに万が一でもバレることがあれば少年の名と幼い兄妹の将来に

傷がついてしまう。


「まあ、あの子らも連れていくしかないじゃろう」

「少なくともワシらよりはニンゲンの常識を知っておるじゃろうて」


引率に猫と歌とローブがいれば危険なことには

絶対にならないだろう。

その間に犬には兄妹たちが食べられる獲物を地上で

調達してもらおうか。犬を置いて出かければ自分も連れてってと

また猛抗議するだろうが役割を与えれば犬は性格的に

そっちに夢中になってくれるだろう。

リッチたちは兄妹たちのために【リッチ式魔素バッテリー】の

ニンゲン対応版を作らなければならないし、飛竜と黒蛇はその間に

自分たちの方の食材の確保を行ってくれることになった。


役割も決まったところで犬に兄妹たちのために

魔素のない獲物を持ってきてほしいと教えてみると

意外とすんなりと理解した様だ。

瞬く間にウサギの様なものを捕まえて持ってきてみせた。

ニンゲンの食べ物を貰って食べた記憶があるからだろう。

かつてご主人様たち、ニンゲンが食べていたモノには魔素が

含まれていなかった。

意外に一番ハードルが高いんじゃないかと思った犬に魔素のない

獲物を捕まえてきてほしいと伝えることが簡単にできたことで

一安心した。

犬の能力を考えれば一匹でも獲物を捕って持って帰ってくることには

何の問題も起きないだろう。





後方では地上で魔力を纏う飛竜と黒蛇に興味津々といった

様子でリッチが話していた。


「本当に魔素が抜け出る感触は無いのかの?」


『そうだな・・・ダンジョンと何も変わらぬ感じだ』


『もちろん、ダンジョンと違って補充はできないけれどね』


いくら魔力を抑えているとはいえ、リッチは魔素研究の

専門家だ。その言葉には偽りがないことを感じることができた。

魔力を使うことでできる言わば固体の穴はやはりあるようだが・・・

魔力そのものが、まるで粘度をもったかのように不思議な輝きと共に

その穴を塞ぎ魔素が必要以上に抜け出ていくのを防いでいる。


ふむ・・・

自分たちの魔力とは一体何が違うのか?


その質の違いを見るためにリッチはその手に少量の魔力を

込めはじめた。魔素が霧散していく様を見て比べようと思ったのだ。


・・・ん?


魔素が抜け出ていく感触が無かった。

いやいや、そんな馬鹿なとリッチは更に魔力を込めた。


「何でじゃあっ!?」


急に素っ頓狂な声を上げるリッチを皆が思わず見てみれば地上で

ダンジョン内と同じように魔力を纏う姿があった。


『おお、うぬにもできたではないか』

「(わぁ~、すごい)」

『見ただけでコツを掴むとはやるじゃない』

「流石、我がご主君!!」

「リッチ様、早くも地上での魔力の使用方法を発見されたのですか?」

「創造主のお力は流石に想像を超えるものですね」


魔物たちの驚きと称賛の声が聞こえたが今は

リッチの耳には届いていなかった。

魔素の専門家として、いち研究者として、

こんなことはあるはずが無いし、

あってはならないことなのだ。


魔力を纏ったリッチは地上を文字通り飛んでダンジョンに戻ると

目についた魔物の首根っこを掴んで地上に引きずり出してきた。

ジタバタともがき苦しむその魔物からはやはり魔素が

凄まじい速度で抜け落ちていった。

その魔素の霧散する様は、もしや魔物の魔力、あるいは地上の性質が

変化したのか?というリッチの仮説を棄却していた。


リッチはそのあまりにも衝撃的な事態にすさまじい速度で

その思考を加速させていったが、掴んでいる魔物が魔素を失いすぎて

いよいよぐったりしてきたことに気がつくと、すまんすまんと

大慌てにダンジョン内に戻ってリリースした。


「ちょ、ちょっと皆も魔力を使ってみてくれんかの?」


いや、流石にそれはという普通だったら誰も試そうともしない

お願いだったし、もがき苦しみながら命の根源たる魔素を失う

魔物の姿をちょうど見たばかりだった。

が、もはや固い絆で結ばれていた魔物たちはリッチの

そのお願いを何の疑念も無く試してみせた。

そしてその場にいた全員が地上で魔力を纏うことが出来てしまった。


魔力を抑えていたことで鈍っていた五感も元に戻り

地上の美しさをその五感で真に感じることで

感嘆の声と驚きの声が口々に漏れた。


「何が起こったんじゃあ!!」と混乱しているリッチを

余所に地上の齎すその美麗な景色を皆で楽しんでいた。


王都に買い出しに行く旨を伝えると兄妹は大喜びした。

やはり魔素を避ける生活をしているとしても王都に対する

憧れはあるのだろう。


さて、不思議なこともあったが行動開始するかっ!!






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