51.来訪
犬が研究室のドアにめがけてしっぽを振り回して
あまりにも吠えたてるのでゾンビの少女は
「どうしたの?お散歩に行きたいの?」
と研究室のドアを開けた。
開けてみればそのすぐ向こうには飛竜の眼光鋭い顔があって
少女はとりあえずすぐにドアを閉めた。
・・・えっ?
もう一度確認するようにそろ~っとドアを開けると
『ほら、やっぱりここだったでしょう?』
『うむ、我では全く感知できぬな・・・』
飛竜の他にもう一匹、強大な魔物の姿を確認し、
やっぱりすぐにドアを閉じた。
・・・今、何がいたの?
困惑する少女を余所に犬は「開けて~」と言いたい様に
鼻を鳴らしながらカリカリと少女越しにドアを引っ掻いていた。
昼夜の感覚が乏しいダンジョンの中とはいえ今が夜の深い時間
だということはわかる。猫も歌も今は眠りこけている。
長い議論が終わり、食事も終わって犬も遊び疲れた頃に
明日から行動開始っ!!今はゆっくり休もう!!
と皆で気合を入れて3匹が眠りについてからどのくらいだったろう?
急に起き出した犬がドアに向かって吠え出したのだ。
犬というフカフカのベッドを急に失って歌はゴチンと床に
頭を打ち付けていたが少し寝苦しそうに喘いだだけで
猫を抱きながら揃って寝息を立て続けていた。
リッチの隠蔽の技術は完全に研究室の存在をダンジョンから
消し去っていた。
強者となるアンデッドたちがずっと滞在していた研究室は
魔素の感知ができないものでも解るほどにダンジョンの中でも
ひと際に異質なものになっていたがその異質すぎる気配が全く外に
漏れ出さない程にその技術は全ての情報を遮断していた。
それを見破ったのは犬が初めてだった。
尤も研究室内部からも外の情報は全く解らない。
そのため、念のためにとデュラハンがいつも外を
監視してくれていたのだが3匹の友が訪れてからは
談笑することが多くなったこともあり、ずっと研究室の中にいた。
ドアが開いたその瞬間には外にいる飛竜と黒蛇という
絶対的な強者の気配が研究室に流れ込んだ。
その気配にリッチとデュラハンは反射的に武器を取ろうとして
そういえば、犬たちと飛竜は友だちだったことを思い出した。
『まあ、仕様がないのう・・・』
かつて研究の一番の邪魔者であって粗暴のイメージしかない
飛竜だが猫たちから聞く限り随分と丸くなっているらしい。
確かにかつての飛竜であれば、見つかってしまえばいきなりブレスでも
吐きかけてきただろうがそれをしないということならば
そういうことなのだろう。
特に飛竜に害意が無いと判断したリッチは悲し気に鼻を鳴らす
犬のためにもドアを開けてあげる様に少女を促した。
ドアをあけ放つと勢いよく飛び出した犬は再会を祝うように
飛竜と黒蛇の周囲をしっぽを振って吠えながら走り回って喜んだ。
『『ふふ・・・』』
その犬の様に2匹の魔王たちからは同時に笑みが零れた。
犬が齎したその喧騒と心地良い寝床がいつの間にか
無くなっていた寝苦しさとで夜も深いというのに
歌と猫も起き出していた。
『あれっ!?久しぶりじゃないかっ!!』
「(わぁ~、久しぶり~)」
そこまで長い間別れていたわけでも無かったが
大喜びで2匹も犬に続いて研究室から出て再会を喜んだ。
猫はリッチとその仲魔たちを新しい友として飛竜と黒蛇に紹介した。
そういえばかつてこのダンジョンで敵対していたと聞いていて
少し心配だったが互いに特にわだかまりが在るわけでも無い。
地上に出た魔物として2匹の魔王と4人のアンデッドたちは
直ぐに友好的に言葉を交わし合って共に昔を懐かしんで笑いあった。
地上を旅路してきた、飛竜と黒蛇の土産話の中、
そんな遠くまで行ってたのにどうやってここまで来たのかを
聞いてみればまさかの翔んできたという。
「何で地上で魔力が使えるんじゃっ!?」
別に魔物は地上で魔力を使うことが出来ない訳では無いが
自らの命の礎となる魔素がごっそりと抜け落ちてゆく。
故に敢えてそれを抑えることで地上に出ることができる
ということを学んだばかりだ。
【リッチ式魔素バッテリー】を開発したところで魔物が
地上で魔力の行使することを可能とする片鱗を見出してはいたが
まさかもうそれを達成している魔物がいるとは・・・
『それが我らにもよく解らんのだ・・・』
『ホントに急になのよね・・・』
長い間、魔物が地上にいることでそれが可能になるというのであれば
それは真っ先に地上に出た魔物である歌がそうなっていなければおかしい。
歌も実はそうなっているんじゃないかと聞いてみれば
本人としてはそんなことは全然無くて地上で魔力を使うのは
やっぱりしんどいという。
何か特殊な条件でもあるのだろうか?
もうすっかり打ち解けていた飛竜はリッチに頼まれるままに
お安い御用とその魔力をリッチに分け与えた。
新しい友との出会いにと黒蛇も一緒になって魔力を分け与えてくれた。
それらを操作して結晶化してみるとその元となる2匹の凄まじい力によって
見たことがない程に神々しくも禍々しく光る宝石となったが
その輝きの中に異質な輝きがあることにリッチは気が付いた。
そしてその輝きには見覚えがあることにも。
リッチは自らの魔力を結晶化してみた。
地上に出た時に結晶化した自らの魔力に異質な輝きがあったことを
思い出したのだ。
「ぬ・・・?」
その結晶化されたリッチの魔力には地上に出たときより
はるかに強くなっている異質な輝きがあった。
その輝きには害があるとは思えない。
いや、むしろ新たな力を与えようとしてくれているのか?
犬猫含む皆にも魔力を提供して貰ったが結晶化すると
その全てにその輝きが見てとれた。
これは一体・・・
真剣な顔をして思索を巡らしているリッチを余所に
再会した、あるいは新しくできた友との談笑は続いていた。
『それにしたってよく訪ねに来てくれたね』
「(飛べるならこれからもしょっちゅう会えるんじゃない?)」
「他に地上で興味深いことはありましたか?」
『ああ・・・そうそう、』
『それで、なかなか言い出すタイミングなかったのだが・・・』
『実はちょっと相談に乗って欲しい事があってきたのよね』
黒蛇がその身体をくねらせて作っていた窪みをそろそろと丁寧に
皆の前に下ろすと、そこには泣き疲れて周りの喧騒にも
全く気が付くこともなく眠り続けているニンゲンの幼い兄妹の
姿があった。




