48.当たって砕けろ
これからどうしようか?
良いアイディアは出てこなかった。
思い思いに意見を交わし合ってはいるが全員が一致して
「それだっ!!」と思える解決策はなかなか出てこない。
難しいことはわからない犬は難しい顔をして話し合う
皆を心配して「どうしたの?だいじょうぶ?」と言いたげに
鼻をか細く鳴らしてそれぞれの顔を舐めてまわっていた。
「まず誰かを置いていくっていう考えがナシっ!!」
猫は力強く言った。
今のところ有力な意見はと言えば犬か歌をここに置いて
少年を追いかけることだった。
犬を置いていけば少年の旅路を影から助けることが出来るだろう。
歌を置いていけば少年の一行に加わることが出来るかも知れない。
「ずっと3匹で・・・これからは4匹で」
「ずっとずっと一緒に旅してきたんだ」
「いつかは元の世界に帰らなきゃだけど」
「それまではずっと一緒に旅を続けたいんだ」
「もう誰かと離れ離れになるのはごめんだよ」
言葉が解る訳でもないのであろうが、その猫の強い意志は
確かに伝わった。
犬は同意して力強く「わんっ!!」と短く吠えた。
ここまでの旅路はただひたすらに少年を追いかけるものであった。
いざ手の届くところまで来た時に存外に大きな壁ができていた。
その壁はこの世界での新しい出会い故なのだがそれでも
出会わなければよかったより出会えてよかったと本当にそう思える。
少年と友だちとどちらが大事か?という話ではなく、そもそもそれは
比較できないし比較するものでもないのだ。
ぱっと見で人にしか見えないゾンビの少女が、それならばいっそ私が
少年の一行に紛れ込めばとか、友だちに自分たちのためにそんな危険を
侵させる訳には絶対にいかないからそんな事するくらいなら
私が行くって言う歌にも確かにその役はできそうでもあるんだけど
言葉に問題しかないからローブももちろんそっちに着いて行くんだけど、
やっぱり魔物だけだと地上で魔素が切れるかも知れなくてとっても心配だから
そうなった時のために助けられる犬か猫が絶対に一緒にいなきゃなんだけど、
もうそれだったら何なら最初から犬と猫だけで行った方が早くない?
いやいや、でもそれってもう離れ離れじゃん。
・・・と堂々巡りを繰り返し結論が出ることは無かった。
「もうこうなっては当たって砕けるしかないのかのう・・・」
実際のところ、全員がそう思い始めていた。
「勿論、そうとなれば砕けた時の想定もすべきではあるがの・・・」
それも全員がそう思った。
そして良く解らないままに「わんわんっ!!」と同意している犬を見る
犬を除く全員の「はたしてこの子がその時にどう動くのか?」という
心配も一緒だった。
少年と出会って、でも不穏な空気だからここはちょっと一旦引いて・・・
な~んてアドリブがこの子にできるはずもない。
どう考えても事態を悪意のないままに悪化させるくそムーブをするに違いない。
こちらに被害がでたとしても、いやそれは遠くでも少年たちの気配から感じる
実力差を考えればそもそもが考えにくい。そこは全く心配してはいないのだが
ただ、それによって少年の立場が少しでもまずい方向に向かったとすれば
何のために少年を追いかけてきたのかわからない。
「そもそもが猫殿と犬殿の」
「主殿はどのようなお方なのでしょうか?」
「その主殿が共に旅をして、そして苦楽を共にしている方々に」
「当たって砕ける可能性はそんなにも大きいものなのでしょうか?」
袖をはためかせながら言うローブの意見にはグラつきかけたが
その絆があるからこそ、裏切られたと感じた時に感じる
その思いの強さを推し量ることが本当に難しいのだ。
それは例え小さなしこりになる程度の思いだったとしても
その小さなしこりが全てを穿つ刃になることだってあるんだ。
「我は気の利いた意見など言えはしないが」
「だが、当たって砕けてしまえば単純に我らでその少年を守れば
良いだけの話なのではないのか?」
成る程、当たって砕けてこの世界が少年に仇をなすと言うのであれば
いっそ、その全てと対峙してでも少年の歩む道を切り開いて見せようか。
犬は本当に愛する主人のためならばどんな苦難も厭わない。
それは言葉を解すことは無くとも犬にその覚悟があることは
誰にでもわかるし、猫はそもそもその覚悟でこの世界に来たのだ。
もしこの世界がそんなくそったれな世界であったとしても
それでもこの世界は自分たちのその覚悟に全身全霊も持って
応えてくれる大切な仲魔たちとの出会いをくれたのだ。
少しだけの不安も無いと言えば嘘になってしまう。
でもこの世界とその人々を今は信じてみるとしよう。
そもそもが当たって砕けなければこの議論している時間は無駄となるんだ。
当たって砕けるのが現状では最良の道だ。
道は決まった。
決まったのであれば難しい顔をして議論し合う仲間の姿に不安になって
「ケンカしないでよ~」といよいよ悲し気に鼻を鳴らし始めた
この子を安心させるためにもそろそろ少し遊んであげて、
それから遅くなった晩御飯にでもしようかと皆は思い始めていた。




