46.王都へ
リッチにダンジョン入り口近くに転移してもらうと
ローブは隠蔽の魔力を纏った。
ダンジョン入り口近くだけにすぐに冒険者の一団と
出くわしたが、こちらに全く意識を向けることすら無く
ダンジョンの奥へと進んでいった。
冒険者には痛い目に合わされたばかりだ。
歌と猫は無意識に固くなっていた身体から力が抜けるのを感じた。
ローブからは魔力を感じ取ることが出来ず内心不安だったのだ。
歌が腕の中で猫の警戒心が解けたのを感じた様に自らを纏う歌から
力が抜けるのを感じたローブは自らの力を語った。
「(緊張する必要はありません、マスター)」
「(私が隠蔽の力は私自身の身体に込めるものなので
魔力が外に漏れ出ることはありません)」
「(そのため魔力で気づかれることもありません)」
「(もし、人に話しかける時などは力を緩めますので申しつけ下さい)」
「(うん、ありがとう)」
猫にも同様の紹介をし、すっかり安心した一行は昼下がりの
時間帯もあって人もまばらな入り口から外に出た。
「(わぁ~)」
ダンジョンの入り口から見えた巨大な王都の姿に
歌は思わず小さく感嘆の声を上げた。
今まで見てきたどの人の街より雄大な終わりが見えない程に
広大に広がるその都市の姿は好奇心を際限なく駆り立てるものだった。
オマケにローブという新しい旅の友のおかげで今回は堂々と
その都市の中に入ることが出来るのだ。
『あんまり急いでこけるんじゃないよ?』
思わず小走りになって王都に向かう歌に腕の中から
猫がまるで幼子を見る親の様に声をかけたがローブが猫の
心配を伝えてもそれがまるで耳に届いていない様に歌は走り続けた。
王都は厳重に警備されていた。
ありとあらゆるところに武装した兵がズラリと並んでいた。
これほど大きな都市ともなればこれほどまでに厳重に
警備されるものなのだろうか?
ただ人の出入りは簡単なようで身分証を確認するか
書類を提出するだけで入れる様ではあった。
3匹にはそれすら必要が無かった。
ごった返す人の間をスルスルと進み、あっさりと王都内に
足を踏み入れた。そしてその足はすぐに止まることになった。
見るもの全てが煌びやかで活気に溢れるその都市の姿に
圧倒されたのだ。
猫も王都の姿に十分に興味は惹かれてはいたが
好奇心にキラキラと目をこれ以上に無く輝かす歌と
その表情は窺い知れるものでは無いがパタパタと袖と裾を
忙しくはためかすローブの姿に思わず目を細めた。
歌は人の街をゆっくり楽しむのは本当に久しぶりだったし
ローブに至っては初めて訪れた人の街だ。
『こりゃ、確かにすごい街だねぇ・・・』
『まぁ、でもずっとここにいるのもなんだ』
『先に進んでみようか』
ここで立ち尽くしている訳にもいかない。
歌に先に進むように促すと聞き耳を立てた。
人に姿を見られないと解った歌は沸き立つ好奇心のままに
行動し始めた。
今までは流石に逃げ場の無くなる建物の中などは避けていたが
今回は違う。気になった店などあれば悠々と中に入り
初めてその手に取った品を興味深そうに眺めていた。
歌とローブは猫には解らない言葉で小声で話をしていたが
その内容を聞かなくても猫には声色で歌とローブが存分に
人の街を楽しんでいるのが解った。
歌には随分とここまで残念な思いをさせてきたし、この際だ。
存分に楽しんでもらうとしようか。
王都には何も観光に来た訳では無い。
何としてでも少年の現状を知らなければならない。
尤もその情報収集は主に猫の優れた聴覚頼りになってしまうため
その間に歌とローブが人の街を観光していても問題は無かった。
歌とローブが興味のままに行動する中でも猫には
都市の人々の喧騒の中から冒険者たちの声が聞こえていた。
「聞いたか?」
「またダンジョンから中層の魔物がでてきたそうだ」
「兵士と一緒になってその場に居合わせた奴らで
撃退したそうだけど・・・最近は一体全体どうなってんだ?」
「またかよ!?」
「このままじゃ危なかしくてダンジョンにいけやしねぇ・・・」
「商売あがったりじゃねーか!!」
「伝え聞く話ではダンジョンの下層で強大な魔物が産まれた時に
追い立てられる形でこんな事態になるそうです」
「ひょっとしたら今回も同様のことが起こっているのかもしれません」
あ~、そういえば私らもおばかちゃんの元に向かう途中で
浅いところだってのに魔素がたっぷりと乗った美味しい獲物に
ありつけたっけな・・・
おばかちゃんが下で大暴れしてたから上に逃げたやつがいて
それでまた逃げるやつがいて・・・
おばかちゃんに追い立てられる形で玉突きされて出てきた獲物だったのか。
さながら猟犬の様におばかちゃんは私らに獲物を運んできていた訳だ。
「あ~あ、【女神の少年】・・・」
「早く帰ってきてくれねーかな」
「西の都市に行ったんでしょ?」
「そんなに遠くないし直ぐに帰ってきてくれるんじゃない?」
「あいつらなら西の都市の魔獣なんてすぐに仕留められるでしょ?」
「まあ、何しろ中層越えて下層に届くかってパーティーだしな」
ほぉ?
それはなかなかに有益な話じゃないか。
ローブの視界を通して観る人の街には3人のアンデッドも興味津々だった。
その3人にあやす様に撫でられていた犬は自分を置いていきながらも
楽しそうに街を探索する3匹の姿を見て少し不服そうにうなり声を上げつつも、
貰った美味しいお肉を満足そうに頬張っていた。




