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45/77

45.答え

女神は思索にふけっていた。

最初は漠然としか解っていなかったこの世界のことを

ただ考えていた。


世界がおかしくなったのはあの花たちが

この世界を呪ったから。

そしてあの花たちがこの世界を呪ったのは人々に

地上を追われてしまったから。

ただ陽の光を浴びて大地から栄養を貰って水を飲んで、

そしてダンジョンから漏れ出る魔素を浄化し暮らしていた

穏やかな日々を人々に奪われてしまったから・・・


この世界の人々はあの花たちの役目に対する知識は無かった。

そして声を出すことの出来ない、自らを主張する術を持っていない

植物という種族の、あの青い花たちの安寧を慮ることは

確かに決して無かった。

結局はこの世界がおかしくなってしまったのは

人の自業自得なのだろうか?

人という種族のエゴで世界がおかしくなってしまうことは

何処の世界も変わらないみたい。

それにこの世界の諸悪の根源と決めつけていた魔物たち。

小さい2匹が旅路で出会う魔物たちは、むしろ好意的に思える

存在たちばかりで・・・

種族的に人と狩り合う性質は持っていても、それは結局お互い様だし

世界に対して悪行を行うような存在なんかじゃ決してなかった。

そして世界の美しさを人間以上に感じ、それを愛しむ心を持っていた。


あの青い花たちに陽の光をもう一度返せば

このおかしな世界が簡単に丸く収まるとはとても思えない。

だって、こうなると知ってもこの世界の人々は

あの青い花たちを乱獲することを止めるだろうか?

魔素というこの世界に無くてはならないものが

安全に手に入るあの青い花たちの存在を地上に許すだろうか?

きっと同じ過ちを何度も繰り返すだけ・・・


人間が悪なの?

人という種族全体が悪なの?

さっきの幼い兄妹の様に、その村の人々の様に

魔素を遠ざけ、あの花たちを愛しむ人々も本当にそうなの?

人々の街で差別を受けながらも、それでも魔獣化して家族から

見捨てられた幼子を庇護してダンジョンに挑み続けるあの冒険者たちは?

そんな冒険者たちを本当は憐れんで、だけど何もできない

何かをする勇気を持たない、声を上げない人々こそが悪なのだろうか?

それともあの花たちの方が悪いの?

生存競争はどこの世界でも避けられない。

それに負けたからといって世界を酷く変えるほどの呪いを

撒き散らしてもいいものなの?

だけどあの花たちに非があるのかと言えば・・・

もしかしたらこの呪いもまたあの花たちにとっては生存競争の

一貫なのかも?

この世界を初めて覗き見た時に感じたあの嫌悪感は

ただの私の勘違いだったの?

この世界って実はすごく正常な世界なの?


悪の定義って何なんだろう?

世界を変えてしまうことが悪いことなのかな?

どんなにこの世界を救いたい思ってみても

私の思う優しい世界を望んでみても

それはあの青い花たちから見た人々の様に、

ある一方から見てしまえば私がやっていることは

ただの悪いことなのかな?




『私はこの世界で一体何をすればいいの?』



信仰を得ることで力を得た。

それでもこの世界で何をするべきか、何をしたらいいのか

何もかも全く解らなくなってしまった。


答えが出るわけのない問いの答えを探す女神の耳に

騒がしい声が聞こえてきた。


『マテ!!』

『いい子だから帰ってくるまでちゃんとここで大人しくお待ちっ!』


「(ごめんね・・・)」

「(街には連れて行けないの・・・)」


『私でも犬殿の大きな身体を隠すことは難しいです・・・』


せっかく会えたのに自分を置いて出かけようとする

群れの仲間たちに猛抗議するように吠え散らかす犬を宥める様に

頭をフミフミする猫と優しくその身体を撫でる歌とローブの

姿がモニター越しに見えた。


『ほらほら』

『何時でも皆の姿はここで確認できるから』

『私たちと一緒にお留守番しよう?』

『ね?いい子だから・・・』


『ほ~ら、いい子には美味しいお肉をあげちゃうぞ~?』


異世界の獣の扱いにはまだ慣れていないゾンビの少女と

デュラハンも機嫌を明らかに損ねている犬を宥めようと

躍起になっていた。


その喧騒にダンジョンの入り口近くまで3匹を転移の魔法で

送っていこうとしていたリッチは顕現させた転移陣を前に

このまま3匹を送っていいものなのかどうなのか叡智を極めた

魔物にはまるで似合わない様子でオロオロしていた。


別のモニターでは兄妹と別れた飛竜と黒蛇が次のダンジョンを目指しつつ

先ほど見た情景とニンゲンとの思わぬ邂逅にテンションを爆上げしながら

いつかあの泉に戻って今度は陽の光の下であの景色をまた見てみようと

話し合っていた。


『まあ、だがあの兄妹はともかく・・・』

『なるべくならニンゲンには出会いたくはないな・・・』

『あそこらのニンゲンどもはうぬにも感知は難しかろう?』

『陽の光があるうちは我らは目立つからな』


『それはそうね・・・』


魔力を使えない地上とはいえ、巨体の2匹にとって

ニンゲンは脅威にはならないだろうが旅を続ける上では

地上をうろつく2匹のその存在を広く認知されるのは勘弁だった。

ニンゲンに数でひっきりなしに押し寄せられでもしたら

地上の景色を堪能できなくなるではないか。


『ただ・・・』

『おかしなことを言っているのかもだけど』

『あの子たちとはまた会ってお話してみたいわね』


『ふふ・・・』


黒蛇の言葉に飛竜は同意するように笑ってみせた。


別のモニターでは少年がそのパーティーと共に

野営の準備をしながら他愛も無い話で本当に心の底から

笑いあう姿が見えた。

酷く魔獣化が進んでいる者も、まだ少年より遥かに幼い者もいる。

それでも一行は【女神の少年】と共に互いを支え合いながら

その旅路を力強く進んで私に力を与えてくれたのだ。


女神は一つの確信を得ていた。

人間も植物も魔物も種族からして悪だなんてことは

きっとどちらの世界でもあり得ない。


きっと全てが良い方向に向かう方法があるはず・・・


恐らく酷く辛い旅となるだろうと思いながらも送り出した少年も、

後に送り出した小さい2匹も、そしてこの世界で縁のあった魔物たちも

皆、思い思いにその旅路を進み続けている。

ありとあらゆる生命がそうあるように成長しながら

その生を歩み続けている。


私自身も成長しなければ。もっと強くならなければ。

そしていつかはこの疑問の答えを私自身が見つけ出さなくてはならない。

何かを成さなければこの世界に送り出した者たちに顔向けなんて

できるはずがない。


『私は・・・』

『きっと、きっとこの世界を救ってみせます』






よりによって年末年始にインフル感染して地獄を見ました。

皆さまはくれぐれもご自愛ください。


SNSに紐づけていない作者にとっては読んで頂ける方がいるというだけで

本当にありがたく、とても光栄に思います。

本当にありがとうございます。

ブックマーク、評価で応援頂きました皆様には心より御礼申し上げます。

本当に励みになっております。




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頂けますと犬もしっぽを振って喜びます。


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