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44.生物浄化

ダンジョンで生まれ育った2匹は【魔花】の

伝え聞く本当の姿を見たのは初めてだった。


ダンジョンで血走った目を持つ【魔花】たちの

その紫色の花弁は、それはそれで何処も何も代り映えのない

ダンジョンにとっては花鳥風月を齎し、その彩りは

酷く美しく見えたものだった。


魔物たちは新しく訪れたダンジョンに新しい彩りを

齎したその徒花たちを歓迎した。

徒花たちがこの世への怨嗟の言葉を吐き続け、呪いを世界に

まき散らす事に対して魔物たちは特に何とも思わなかった。

その呪いがダンジョン内の魔素の性質を変化はさせている事に

もちろん気が付いてはいたがそれが特に自分たちには何の影響も

及ぼさないのもわかりきっていたからだ。

魔素の扱いに関しては外様の【魔花】たちが

如何に強い思いを寄せたところで魔素そのものから

産まれた魔物たちにその影響を及ぼすことはできなかったし、

それに、そもそもその呪いは自分たちに向けられているものでは無かった。

尤もそれが地上に齎したものによって結果的に冒険者という

極上の獲物を遠ざける結果となることは予想できなかったのだが。


ダンジョンの浅い階層の魔物たちはひょっとしたら

食料にしていたのかも知れないが、その最奥で生まれた

魔物たちは例え徒花であってもその彩りを楽しんで

愛でることはあっても、地上の様に迫害することなど決して無かった。

それもあってか、【魔花】たちは深い階層であるほど

群生し、ただ生きたいと願うことを認めてくれたダンジョンと

そこに住む魔物たちのためだけに太陽の下でなくても

例え醜く変色してしまった花弁だったとしても

それでも自分を愛しんでくれるものたちのために一生懸命に

その花を咲き誇った。




今眼下にある【魔花】たちは本来の群青の花弁を風に揺らしながら

穏やかな目で自分たちを見つめていた。

その自愛に満ちた視線に2匹は背筋に形容しがたい何かが走るのを感じた。


この花たちはダンジョンの中では十分すぎる程に華やかではあった。

しかしこの花たちは地上ではこれほどまでに美しく

そして穏やかに花開くものであったのか・・・


ああ・・・

それもそうか。


自分たちだって地上の旅で経験したこの美しさを、

この素晴らしさを奪われたらそりゃあ世界を恨みもするだろう。


今の今まで他愛も無い幼い兄妹の言葉に厳めしい外見に反して

むしろ優しさを感じさせてくれる態度を取り続けていた2匹が

言葉を発することも無く、ただその場に立ち尽くすその様に

不安になった兄妹はその顔を恐る恐るのぞき込んだ。


『ああ、すまんな・・・』


我に返った2匹は兄妹を地上に下ろし

その花を大事そうに大切に気を使いながら

優しく抜きとるその兄妹の姿を見て――――

また背筋に何かが走るを感じた。


魔素の流れを感じ取ることは訳のない2匹は

その幼い兄妹からそれは本当にごく僅かであったのだが

その体内に蓄積しているその魔素を、その呪いを、

兄妹の身体から優しく【魔花】たちが抜き取って浄化していくのが

解ってしまったからだ。


いや?単純にひょっとしたら近くにダンジョンが無いこの場所で

徒花たちにとって生きるための必要な魔素を吸収するためなのかも知れない。


それでも自分たちを迫害し続けていたニンゲンたち相手だろうに、

幼いが故に純粋すぎる兄妹に浄化行為を行う優しくてそして気高い

【魔花】たちが2匹には酷く神聖なものに見えた。


きっと本来のダンジョン近くに群生していた【魔花】たちは

生物浄化の役目を担っていたのだろう。

本来、ダンジョンの入り口近くに群生していたこの花たちは

外に漏れ出る魔素の量を調整していたのだ。


そもそも生活の礎として魔素を使っている人々とは違い

本来、それらと関わりのない多くの野生動物たちが魔素を蓄積して

魔獣化するのは妙な話だと思っていた。

生物濃縮は避けられないにしても、だがそれで説明するには

魔獣の数があまりにも多い。

旅を始めてから魔獣を見ない日などは無かった。


【魔花】が取りつくされてしまったことでダンジョンから漏れ出る

魔素を調整するものが無くなり、地上へのその影響はかつてより

大きくなっているのだろう。


数本の魔花を摘んだ幼い兄妹たちを頭に乗せると2匹は

兄妹たちが住む村へ脚を進め始めた。


『この花のことは知ってるの?』


「ああ、これ【魔花】っていうんです」

「昔は魔素が取れるって騒がれたらしいんですけどあそこらへんに

 生えている【魔花】からはほとんど取れないらしくて」

「でも穢れを祓う力はすごく強いんですよ」


「私、このお花すごくきれいだから好き!」


どういった事情であの花たちがあそこに群生しているかは

解らないが【魔花】たちが生存に必要な魔素を穢れを落とす

人々が提供する良い共生関係にあるようだ。


『ふふ・・・』

『大切になさい』

『きっとこのすごくきれいなお花はもうここ以外に無いでしょうから』


『我らとてこの様な美しい花など見たことは無かったからな・・・』


2匹は村が見えてきたところで兄妹を降ろすと別れを告げた。

幼い兄妹は村まで一緒に来てほしいとか村を案内したいとか

ちょっと駄々をこねて見せたが


『さあ、早く家族を助けに行っておやり』


と言われて目的を思い出したかのように村に向けて走り出した。


あ、お礼言ってなかった。

とふと足を止めた兄弟が振り返るとそこに2匹の姿はもう無かった。

兄妹は顔を見合わせると


『トカゲさん、ヘビさん』

『どうもありがとー』


幼い兄妹のお礼は闇夜に響き渡った。


面倒ごとになる前にさっさとこの場を後にしようとしていた

2匹にもその言葉はしっかりと聞こえ思わず頬を緩ませた。



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