41.【拠点】
地上に出てみれば夜も深い時間であった。
アンデッド達から言わせればきっとその方が都合が良い。
自分たちには陽の光よりもこの月の光の方がよく似合うだろう。
その夜の星々の優しい光の輝きに思わず感嘆の声が漏れた。
地上に出ることは簡単だった。
弾む会話で今から地上に行ってみようと決まればリッチは
転移の魔法でダンジョンの出口近くに一行を転移させた。
冒険者たちと鉢合わせればまた面倒ごとになると心配する猫と歌に
『心配はいりませぬ』
『このダンジョンは入り口は多数ありますゆえ・・・』
かつてこのダンジョンの覇者であった飛竜が飛び立った
山頂にある大きな裂け目から一行は外の世界に歩み出た。
初めての地上の世界に興奮しっぱなしの二人を余所に
自身も十分に高揚はしていたのだがリッチは産まれた
疑問に気を割いていた。
確かに魔力を抑えれば地上に出ることは可能のようだ。
そして僅かにでも魔力を行使しすれば使う魔力以上の
魔素がごっそりと抜け出てゆく。
それは何故なのだろう?
リッチは魔素が抜け落ちるのを承知で魔力を集中すると
手の中で具現化し結晶化させた。
結晶を注意深く眺めていてもほんの少しでも結晶から
魔素が抜け出ていく気配は無かった。
成る程、気体状でもない限り魔素は地上でも霧散することは
無いのか・・・
地上で魔力を放出することでできた言わば固体の穴から
魔素が流れ出てしまうということが地上に魔物が
出られなかった原因か。
ダンジョンにいる限りはその穴から同時に魔素を
取り込めるためその穴を塞ぐという考えは思いつきもしなかった。
『ぬ?』
具現化した自身の魔力の結晶に普段は違う輝きが
在ることに気が付いた。
どこがどうなっていると説明することは難しかったが
明らかにその質は違っていた。
歌と呼ばれるセイレーンに尋ねると自身も同様の経験を
したらしい。また新しい研究課題が増えたようだ。
歌の首元で輝く宝石の主、あの狂暴そのものであった飛竜は
話によると新しい友と地上の旅に出たらしい。
賓客から聞く飛竜のその様子は自身が持つイメージとは
少々違っていて地上にはその性質を変える様な、
そんな効果があるのかも知れない。
一行は夜が明けても長い時間、地上の世界を堪能しつつ
この新しい友との出会いを喜んだ。
犬は猫と歌から片時も離れようとはせず、2匹もそんな
犬をわしゃわしゃと撫でながら談笑した。
一行はリッチの研究室に戻るとこれからの話を始めた。
王都に潜入するうえで一番悩ましかった問題は犬の存在だった。
流石に一緒に王都に行くのは無理があったし、
ダンジョンで『マテ』と言っておとなしく待ってくれる保障もない。
ずっと帰ってこなければ心配になって王都まで探しに来てしまうだろう。
おまけに一匹にして今回の様に危険な目に合われても困る。
心配事は尽きなかった。
その難問はこの新しい出会いによって最良の答えを得た。
猫と歌が王都に潜入している間は犬の面倒をリッチ達が
見てくれることになった。
『ああ、おったおった』
広いダンジョンから自らの魔力を追い、かつて研究室から
ふよふよと出ていったレイスを検知すると転移し、それを携えて戻ってきた。
相変わらず知性は感じない。それでも本能からか生者である
犬たちに攻撃性を示したがリッチの魔力によってそれは抑え込まれた。
『こやつを連れてもらえれば猫殿と歌殿の姿も確認できて
この子も留守番の間、安心できるじゃろうて』
リッチは傀儡の視界を壁に映し出したようにレイスの視界を
壁に映しだした。
姿が確認できれば留守の間、犬も安心できるだろう。
元を辿ればそのレイスはかつて最下層に狩場を求めるほどの
冒険者がその身に纏っていたローブだ。
上等な品であることはそういったことに疎い猫や歌でも
一目でわかるものだった。
「(わぁ~)」
「(これ、貰っていいの?)」
『こいつ、噛みついてこりゃしないだろうね?』
『それに街で暴れ出されたりされちゃ・・・』
『大丈夫』
『知性がない分、その辺の調整はできそうじゃ』
『どっちにせよ、このまま地上に出しても魔素が抜けて
灰になってしまうだけだからのう・・・」
リッチはレイスに魔力を注ぎ込むとふよふよと浮いていた
レイスはどさりと地面に落ちた。
灰になったわけではないので死んではいないのだろう。
『わしらは睡眠を必要としませぬ』
『お休みになっている間にわしらで地上用に仕上げておきましょう』
『折角ですし、歌殿の好みに仕立て直しましょう』
『ついでに性能もあげるべきだ』
『ニンゲンの街に行くのだからな』
至れり尽くせりの新しい友の提案にちょっと申し訳ない気持ちに
なりつつもその好意に甘えることにした。
リッチの研究室の隅にあるスペースで久々に再会と
新しい友との出会いに大はしゃぎして疲れていた犬と歌は
早々に寝息を立て始めた。
『何かお返し考えなきゃねぇ・・・』
猫は新しい友への返礼を考えていたが不死者が好むものなど
考えてもわからなかった。
起きたら直接聞いてみようと考え、あくびすると
丸くなった犬の中心、いつもの猫の指定席で
自身も丸くなった。
一緒に寝るのは本当に久々だったしその安心感もあってか
3匹は長い間目覚めることは無かった。
3匹の寝息が聞こえる中、不死者たちは賓客――いや、もう友と呼ぶべきか。
その友のためにローブの改良に勤しんだ。
歌はまだ服の好みなどは自分でもわかっていなかった様で
それでもイメージを描きながらそのデザインをゾンビの少女と
相談し固めていった。
不死者である自分に生者の友ができるとは思わなかった。
友が身に着ける初めての服らしい服というのであれば
全力を以て気に入るものに仕立ててあげたい。
聞きだした友の好みと、きっと友が似合うと思う自らのイメージを
元にローブを仕立て直していった。
その間にもリッチとデュラハンは自身らが持つ膨大な知識と
強大な魔力にモノを言わせてその性能の向上を図り続けていった。
緊急時はこいつも独自に動けた方が良いのではないか?
それでも動いて力を使って灰になっても困るのでは?
あーでもないこーでもない相談しながらも―――
作業を続けながら話す3人の話題は地上の美しさだった。
『研究の息抜きに、たまには皆で外に行くのも悪くないのう』
『私はあの初めて見上げた星空をきっとずっと忘れないでしょう』
『我もだ』
『美しさを形容する語彙など持ち合わせておらぬが・・・』
『ただ圧倒されるばかりだった』
『地上へと導いてくれた礼じゃ』
『わしらの感謝の気持ちをしっかりと込めねばな』
3人は地上の話に花を咲かせながら友への贈り物を
創り上げていった。
人生で初めてサーフからの陸っぱりで83cmのブリが釣れました。
何故かポチャ食いしたのでテクニック云々ではなく、
狙ってたのはヒラメだったので外道っちゃ外道だったのですが
オフショアでは味わったことの無い、ライトタックルでのあの緊張感のある
ファイトにすっかり虜になって足繁くサーフに通い詰めて
遅筆に更に磨きがかかっております。。。




