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39.【主】と【仲間】

『そりゃ、見つからんじゃろうて・・・』


リッチは完成した「リッチ式魔素探索レーダー・改」に

自らの魔力を込めて起動するとそれはかなり上の方に

反応を示した。


もう眠りこけているこの子は毎日、最下層めがけて何かを

探しに出かけていた。

てっきりそこで縁者とはぐれてしまったのかと思っていたが

どうやらそれは見当違いの方向だったらしい。

単純に濃い魔素がある方に惹かれたのだろうか?


リッチはまとまった魔素が欲しくなればデュラハンに頼んで

最下層の魔物を狩ってきてもらうのだが、毎日増え続ける

犬のお土産も実験に使えるだろうとありがたく頂戴していた。

確かそのお土産の山の中にマンティコアがあったはずだ。

あいつらは足が速い。

偵察にはもってこいだろう。


リッチは魔力を込めマンティコアの遺体を傀儡化すると

レーダーが反応するところに向けて駆け出させた。

そして傀儡の視界をデュラハンとゾンビの少女、

そしてもう今は寝てしまっている犬と共有できるように

魔素を操作して壁に映し出した。


本来、最下層を住み家としているはずの狂猛な魔物である

マンティコアが猛スピードでダンジョンを駆け上がる様は

そこにいた魔物たちに大恐慌を齎した。

傀儡の視界から、その混乱はリッチ達にも伝わってはいたが

それは別に興味のないことであった。

傀儡はレーダー反応の近くに辿り着くと慎重に辺りを窺った。


粗末なローブを纏った女が1人トボトボと歩く姿が見えた。

この魔物はセイレーンだろうか?それはまた妙な話だ。

このダンジョンにこやつらが住み家とする水場などあったか?

そしてその腕には見たことも無い小さな獣が抱かれていた。


まだマンティコアの肉食獣としての獲物を見定める遠視をもって

ようやく捉えられる距離というのに2匹は早くもこちらの存在に

気付いたようだ。

尤も遺体に内包するのは最下層に存在する獣の強大な魔素だ。

この辺りでは異質なものだろう。感知能力に長けていれば

気が付くのは訳のないことか。

2匹はコミュニケーションを取っていることから知性はあるようだ。


しかし気付かれてしまったのでは仕方がない。

ここで逃げられてしまって、この傀儡に追いかけさせたら

2匹を酷く怖がらせてしまうだろう。

まずは探しものがあっているか答え合わせをするとしようか。

可哀そうには思ったがリッチは犬を揺り起こすと

映された2匹の姿を見せた。


『お主の探しものか?』と尋ねる前に2匹が映し出された壁に

向かってしっぽを振り回して駆け出し、それに向かって自らの

存在を訴える様に必死に吠え続ける犬の姿はその答えだった。


存外に2匹は特に恐怖の色を見せることも無く、そのまま

傀儡との距離を歩みを止めることなく詰めてきた。

流石に傀儡の嗅覚までここで感知することは難しかったが

その聴覚を通して聞こえてきた声に犬は大喜びで吠えて答えていた。


『やれやれ・・・』

『もう、お腹はいっぱいなんだけどねぇ・・・』


ほう?

どうやら言葉も通じそうだ。何とか敵対する意思が

無いことを伝えれば傀儡に乗せてここまで運べるんじゃないか?

と考えているとセイレーンから降り立った小さな獣が瞬間的に

傀儡との距離を詰め―――

壁に映されていた傀儡の視界が途絶えた。


『『『あっ』』』


その場にいた3人のアンデッドから思わず同時に声が漏れた。

傀儡は一瞬にして壊されてしまったのだろう。

3人は犬の姿を見やるともう何も映らなくなってしまった、

ただの壁に吠え続けていた。

この子も恐ろしい魔力を纏っているが、どうやらその連れも

同様のようだ。


さて、どうやってこの子と再会させれば良いのか・・・

2匹がいるのはここよりずっとずっと上の方だ。

また脚力のある傀儡を作って手紙でも届けるか?

いや、言葉を話せるかといって文字が解るとは限らない。

ならばこの子の毛でも少し頂いて代わりに持たせれば・・・

いや、それで誘拐とか変な誤解を受けても困る。


「私が行きましょうか?」


寂し気に吠え続ける犬をあやす様に撫でていた

ゾンビの少女は振り返りながらリッチに提案した。


成る程、確かにこの子の脚は速い。

濃い目の魔素で産まれたおかげかその身体はアンデッドらしくなく

見ただけではゾンビだとは気づかれぬだろう。

ならば対話はできるかも知れない―――が、もし問答無用に

傀儡の様に言葉を交わすことなく攻撃されてしまったら?

大事な助手を危険にさらす訳にはいかない。

できればこの不思議な生物と話してみたいものだが・・・


『この子も連れて行くと良いじゃろう』

『で、もし時間があるならここに立ち寄る様に訪ねてもらえないかの?』


その方が危険も少ないだろう。

それにこの子のこんな悲し気な様子を見ているのは

こちらとしても胸が痛いし、早く再会させるに越したことは無い。


『ただ、何よりもおまえ自身の安全を一番に考えるのじゃぞ?』


『先ほどの小さな獣のスピードは見たであろう?』

『十分に警戒するべきだ』


それからも私を気遣う主と騎士の優しい言葉は続き―――

最後に本当に何かあった時のためと主より大量のスクロールと

魔道具の数々を持たされそうになった。

騎士の方は騎士の方で心配して着いてきそうだったけど

そうなれば主の傍を二人とも離れることになってしまうという

葛藤で諦めたようだ。

尤も重い鎧を身に纏っている以上、この子と並走なんて絶対にできないし、

その巨体をその背に乗せることは・・・

あるいはこの子ならできてしまうのかも知れないがそうしたら肝心の

お客様が乗るところが無くなってしまう。


私は産まれながらに主と仲間に恵まれた。

もし、その主と仲間と離れたら・・・と思えば、この子の

悲しみは良く解る。


「さ、あなたの主と仲間に会いに行こうか」


ゾンビの少女は犬を連れ立って研究室から出ていった。











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