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37.【探究者】

猫から犬がこちらに向けて駆けだしたことを聞いた歌は

ぱあっと顔を明るくさせた。

猫も同じ表情だった。もう何日たっただろうか?

どんなに急いでもまだ中層の半ばといった2匹の進みでは

再開にあとどれだけ時間がかかるかわからなかった。

歌は猫を腕に抱いて出迎える様に走り出した。


犬がしっぽを振り回し、大喜びに吠え散らかしながら

こちらに向かってくる姿が見えた。


その姿に2匹も駆け寄ろうとして、そして思わず脚が止まった。

何だろう?何か見慣れないものがその背に乗っていた。






『ふむ・・・』


リッチは一緒に生活し始めた獣が何かを探していることが

すぐにわかった。

目覚めては何かを探す様に出かけ、眠くなるとお土産とばかりに獲物を

咥えながら帰ってきた。そしてまた目覚めるとまた何かを探しに

出かけるのだ。


リッチはこの世界に存在を認識してから【魔素】の研究に日々没頭していた。

それは自らを、同族を産み出し、それらがそれをその身に吸収すれば

その強化を齎す。いや同族どころか武器や装飾品のように命なくとも

取り込ませればその性質を変化させるのだ。

久しく見ていないニンゲン達は生活のエネルギー源として利用することもあるらしい。

この万物の元ともなる魔素とは一体何なのか?基礎研究に始まり、

どんな活用方法があるのか?どこまで吸収できるものなのか?

はたしてその限界はどこにあるのか?研究したいことはいくらでもあった。

幸い魔物の中でも寿命のないリッチには時間はいくらでもあったし、

ここはダンジョンだ。研究対象である魔素の採取に困ることは無かった。

どうしてもまとまった量が欲しければ獲物を狩ってその肉から抽出していた。


別にその研究で名声や大金を得ようとか、歴史に名を残すとか

そういった俗な欲は魔物であるリッチには無かった。

ましてやそれを利用してこの世界を手に入れようとかも思わなかった。

純粋な知的好奇心から歩むその探求の道にはその命と同様に終わりなどないのだ。


しばらくするとこのダンジョンに飛竜の魔物が産まれた。

圧倒的な覇者として君臨したその魔物が内包する魔素の量には

舌を巻いたが、別に研究対象としてそそられるものでは無かった。

あ、少なくともここまでは魔物は魔素をその身に蓄えることができるのね。

と新たな知見が産まれただけだ。

とは言え、狂暴に暴れまわる飛竜の存在は研究の邪魔でしかない。

見つかる度に撒くことは簡単にできても、どうしても研究を中止せざるを得ない。

加えて言えば、当時ダンジョンに押し寄せてきていた冒険者たちも

リッチの悩みの種だった。

研究の邪魔をするばかりか、その成果物を壊したり奪ったりするのだ。

もっともその異なる種族が利用する、例えば灯の様な魔素の使い方や

その種族の身体に魔素が齎すものははたして同族と一緒なのか?といった疑問は

興味がそそられるものはあったのだが。


飛竜に見つかり、その追跡を撒いている間に苦労して完成させた

「全自動リッチ式魔素濃縮抽出装置」を見つけて持ち帰ろうとしていた

冒険者のパーティーをリッチは追った。

何もしなくてもダンジョンに漂う魔素を濃縮抽出してくれる

それは魔素の収集を生業としていた冒険者にとっては至高のお宝であったが

リッチの研究にとってもそれは無くてはならないものだ。

多くの同族の様に魔素を吸収して、魔力を鍛えあげて昇華させることは

リッチにとって無理無駄無意味の行為であった。

そんなことをしては研究がリソース不足に陥ることは自明の理だ。

しかし、その生来の魔力は決して弱いものでは無かった。


リッチはお宝を手に入れ、良い気分で野営の準備をしていた

冒険者のパーティーに追いついたままに襲い掛かった。

冒険者たちが自らに放つ魔法に、その迫りくる武器に

それらに込められた魔素を操ると、瞬く間に同士討ちや自死で

壊滅させたリッチは落ち込んでいた。


ただ知識を得たいと願うことは、こうも邪魔される程のことなのか・・・


リッチはふとそこが一つの開けた空間であることに気が付いた。

存外に広く、天井も高くて居心地が良い。

入り口は大きくは無いが逆にそれは飛竜の様な大型の邪魔者を

寄せ付けないことになるだろう。

冒険者たちがここを野営場として選んだ理由が納得できる。

逆にブレスでも吐かれれば逃げ場は無いがそれをさせなければ良い話だ。


リッチはその入り口を隠蔽し、ここを自らの研究施設にすることにした。

その技術は漂う魔素を利用した、ずっとそれを研究してきたリッチならではの

オリジナルの技術であり、それを看破することは何者にも難しかった。

事実、犬がそれを突き破ってくるまで侵入者などはいなかったのだ。


誰にも邪魔されることの無くなったリッチは嬉々として研究に勤しんだ。

リッチというアンデッドの頂点の様な存在が長く存在し

研究のために膨大で濃密な魔素が漂うその空間はダンジョンの中でも

ひと際異質な空間となった。


魔物たちは魔素より産まれ、その濃さとその環境が種族を左右する。


ある日、その空間に漂っていた濃密な魔素の濃度が急激に下がった。

その気配でこの空間に別の魔物が誕生したことを察した

リッチがそこを見ると放置していた首の無い冒険者の遺体が

むくりと起き上がった。アンデッドの騎士、デュラハンだろう。


『ほう?』


我らアンデッドは他の生物の遺体を媒体として産まれるものなのか?

となるとワシも冒険者の遺骸から産まれたのかも知れぬ。

まだまだ研究すべき課題は産まれてやまぬのだが問題はこいつが

自分の研究を邪魔する存在であるか否かだ。


『気分はどうじゃ?』

『この世界に産まれたことをとりあえずは祝福しよう・・・』


知性があるかどうかは解らない。

が、とりあえず声をかけた。

こちらの存在を認識して襲い掛かってくることはあったとしても

少なくともいきなり手当り次第に周囲の研究を滅茶苦茶にされるよりは

マシだった。


その首の無い冒険者が内包するその魔素の量は自らをも遥かに

凌駕するものであったがリッチは別に恐れる必要など無かった。

【魔素】をその寿命のない身体で長い間研究し続けたリッチは

その扱いは何者よりも優れている自負があった。

飛竜ほどの魔素を宿していればともかく、目の前の相手ともなれば

その気になれば魔素を操作して一瞬で抜き取って灰に変えることなどは

訳のないことであった。


産まれたばかりのデュラハンはリッチに向かって跪き、無い頭を垂れた。


『ご主君』

『私はここに誓います』

『この身尽きるまで我が剣を貴方様に捧げ・・・』


うわあ・・・

何かどえらいものが産まれてしまったようだ。

そんな事、望んでもいないんですけど・・・

まぁ、でも研究の邪魔をしないのであればそれなら良いのか?


ふとリッチは冒険者の遺体がパーティー分、この空間に

転がっていることに思い当った。

これらもいずれアンデッドとして産まれて変わって動き出すのか?

はて?どの程度の魔素を吸収すればどのアンデッドとして

産まれるものなのか?


デュラハンの恭しい口上が続く中、新しく生まれた疑問に

リッチは思いを馳せていた。




今年は作者の住む地域ではアオリイカが大漁です。

餌木にアホみたいに群れでついてくるので珍しくサイトフィッシングを

楽しんでます。


まあ、人間一つのことに集中しちゃうと注意力が散漫になってしまうもので

先週、産まれて初めて防波堤から滑落してテトラ帯に叩きつけられました。

沖堤に渡っていたので帰ることも叶わず、そのまま釣りして痛みを紛らわせて

いたのですが帰って次の日になって立つことにも難儀するほどの右足の痛みに

「これ実は折れてね?」と整形外科を受診いたしました。


早々に筋肉断裂の診断を受けましたが、その後にとったレントゲンと骨密度検査

の結果を前に唸るお医者様の姿に重傷を覚悟したのですが


「密度といい、大きさといい・・・」

「この骨は滅多なことでは折れん」


とお墨付きを貰いました。


作者はアンデッドになれば最強になれるかもしれませんw




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