表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/77

35.はぐれ【犬】

「わんわん?」


もはや泣きそうな顔で急に消えた犬の姿を探す歌に

猫は冒険者に拾った命を大事にする様に吐き捨て、すぐに離れて

ダンジョンの奥へ向かう様にローブの中から指示を出した。


猫は少し離れたところでローブ越しに自らを強く抱きしめて

ポロポロと泣き出していた歌に犬が下層へ転移させられたことを伝えた。

歌は犬の無事を知って本当に喜んで、だけど猫と同じことに

すぐに思い当ったったことをその目まぐるしく変わるその表情が

猫に伝えていた。






自らの遠吠えに引き寄せられて襲ってきた魔物を仕留め

久々に魔素がのった美味しい肉を味わっているうちに

パニックになっていた犬は冷静になった。

とは言え、猫の期待していたことを思いつくことも無かったが。


犬はか細く鼻を鳴らした。

こうなってしまったからにはいっそ少年の元に急ごう

といった考えでも思い浮かんでくれれば結果的には

その再開も早かったはずだが【群れ】と言う【家族】と

いきなりはぐれてしまった犬にはその考えは浮かばなかった。

アタマの中はもう家族でいっぱいになっていた。


犬は狩りの時以外は抑えるようになっていた魔力をその全力で纏い出した。

獲物を追う狩猟者として培ったその能力、その鋭い嗅覚は更に強化され

それでも尚、その周囲からは家族の愛おしいニオイを全く感じとることは

出来なかった。犬は寂しさと不安からか、もう一度鼻を鳴らした。




だけど美味しそうな獲物のニオイだけはしっかりと感じることが出来た。

犬はダンジョン下層の中部といったその場所で蹂躙を開始した。


膨大な魔素をその身に蓄積し、その狩猟能力の全てが

鍛え上げられていた犬はずいぶんと前の様に集団の獲物や

武器を持った獲物を怖がって避ける必要も無くなっていた。

見つけた魔物には片っ端から襲いかかっては仕留め、腹の中に収めていった。

極度の飢餓感に苦しめられたあの頃の様にいくら食べても

お腹が膨れないどころか空いていくことだけは変わらぬままだった。

それでも犬は全力で家族を探すために躍起になって全力で魔力を纏い続けた。


冒険者が訪れない様になって、ある意味で一定の秩序が保たれていた

ダンジョンの下層の様相は急に湧いて出た魔物たちを捕食し続ける

一匹のまるで悪魔の様な獣が齎す災厄によって脆く、そして容易く崩壊した。


普段と別段変わらない行動をとる魔物は知性を持たない魔物たちだけで

ある魔物たちは上層の方へ我先にと逃げ出し、ある魔物たちは

群れを固めて獣に立ち向かおうとした。


犬にとってはそんな事は全くもってどうでも良いことで

今は家族を見つける以上に大事なことなどは無かった。

この場所に産まれていた秩序にはそもそも興味が無かった。

犬にとっての守るべき大事なルールはその家族が定めるものであって

ダンジョンや世界が定める事では決して無かったのだ。



目の前で逃げる獲物の姿は狩猟欲求を強く刺激するものだが

獲物のニオイが上へ遠ざかっていくことには犬は何の関心も示さなかった。

そんな獲物を追わずともここでは獲物に困ることなんて無いのだ。




何処から襲い掛かってくるかわからない獣を相手に

四方を警戒しながらダンジョンを進むミノタウルスの大群があった。

普段は特に群れることをしない魔物だったが、獣の出現は

その生態を変えることになった。


その群れの正面にゆっくりと獣が現れた。


色めきだって武器を構えながら彼らの言葉で威嚇する

その姿に獣は怯えた訳では無いように見えたが

歩みを止め、その場に座るとこちらを伺う姿勢を見せた。


獣はじりじりと後退する群れにずっと付き従うように

一定の距離をおいて、まるで憑くように着いてきた。


そのうち一匹が獣のその緩い追跡に堪りかねたように自らを奮い立たせる

奇声をあげ、威嚇するように武器を振り回して獣に襲い掛かった。

獣は意外にもビクっと立ち上がり逃走するかのようにその後ろ姿を見せた。

その姿に、あるいは見込みのないことに賭けた勇敢な同族に

感化されたか数匹が後に続いた。


獣はくるりと向き直るとその勇者たちを彼らの目に

捉えられない速度で事も無げに葬った。

飢えた獣はその同族の肉をすぐに食べ始めた。


同族を目の前で食べる獣の姿にミノタウルスの群れは色を失った。

逃げ出すものもでる中で、残ったミノタウルス達はその群れの布陣を

硬く広げ始めた。


瞬く間に数匹のミノタウルスを喰らいつくした獣は

またも距離をおいて座りその群れを見つめた。

ミノタウルスの群れからはもう獣に襲い掛かろうとする

ものは現れなかった。



これ以上、対峙する群れから獲物を釣り出すのを諦めた犬は

ゆっくりと立ち上がった。

獰猛な咆哮を一つあげると、その自らを待ち構えている

獲物の群れに狂暴な顔つきで襲い掛かっていった。


逃げだすものは皆逃げた。

が、残るものを全て狩り尽くして食べ尽くした犬は

血で汚れた自らの身体を毛繕いして清めていた。


家族のニオイはいまだに感じることはできない。

狩猟欲求と食欲に火がついて燃え上がっていた犬はその嗅覚で捉えた、

より美味しそうなニオイがする方へ向けて走り出した。








猫から犬の気配が更に下層の方へ向けて走り出したことを聞いた歌が

なんで!?と言いたいことがその顔を見るだけですぐにわかった。

猫の表情は歌にはわかりにくかった。

だから猫も実は全く同じ表情をして困惑していたということはわからなかった。


何を考えているんだろう?

あのおばかちゃんは・・・





ブックマーク、評価で応援頂きました皆様に心より御礼申し上げます。

本当に励みになっております。本当にありがとうございます。


まとめて話を掲載するスタイルで行こうかと思っていましたが

これをやると自分に甘々な作者は遅筆に磨きがかかるだけでしたので

なるべく週一で掲載するスタイルに変更しようかと思います。

仕事やプライベートとの兼ね合いもあるため週末付近での掲載と

なるかとは思いますが、できるだけ頑張りたいと思います。


アクナイ危機契約、現在715等級

こちらも最後まで諦めずにいけるとこまで頑張りたいと思います。


ほんの少しでも面白いと思って頂けましたなら↓の『☆☆☆☆☆』を

『★★★★★』に評価して頂けますか、ブックマークして応援して

頂けますと犬もしっぽを振って喜びます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ