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34.小さな親切大きなお世話

3匹がこのダンジョンに入るのは勿論初めてだ。

でも犬は迷うことは無く上層を駆け抜けた。

その優れた嗅覚で感じる、より美味しそうなニオイ

魔素がより濃く漂う場所を目指しさえすれば

ダンジョンで迷う事なんて無かったのだ。


漂う魔素が明らかに濃密になり、入り口付近の上層と

空気が変わり始めたころになって犬は立ち止まった。


「わんわん?」


鼻をひくつかせ、辺りを伺う犬に歌は「(どうしたの?)」と

犬の頭を撫でた。

ローブの中に納まる猫には理由がわかった。

猫の優れた聴覚にはか細く苦し気な人のうめき声が聞こえた。


『あ~、なんか面倒なことになりそうな気がするね・・・』


流石に聞こえてしまったものを無視する訳にもいかない。

猫は歌の口を両手で×印を作るように塞いだ。

魅了の力を使うなのサインだ。


「・・・?」


勿論こんな中層にさしかかった程度の深さでは

大して美味しい獲物は取れないだろう。

魅了の力など使う気も無かったが「わん」と一回で応えた。

そのまま猫はそわそわしている犬から降り立ち

地面に絵を描きながら地上のように魔力を抑えて欲しいと

歌に伝えた。


ダンジョンの中で魔力を抑えてという不思議な申し出に

歌も状況を察した。


「(あ、ニンゲンがいるのね)」


猫はうめき声の聞こえた方向を犬に示すと歌のローブに納まった。




冒険者のパーティーの末路がそこにはあった。

魔物に無残に食い散らかされたそれはもう元が

何人組だったのかもわからない。

その中で比較的損傷の少ないモノがあった。

少ないと言っても四肢は既に無く、もはや性別すら

判断不能な肉塊の状態になってはいたが。

声の主はこいつだろう。


犬は早速ペロペロと冒険者を舐めた。

3匹が怪我をするなんてことは稀になっていた。

それでも小さな擦り傷ですら犬はいつもペロペロと

すぐに治してくれたものだ。

瞬く間に冒険者の欠損すら治してしまう犬の魔法を見て

歌は驚愕の声を上げた。

犬の魔法がこれほどのものだとは思わなかった。

出会った時にお腹の傷なんて無かったかのように

一瞬で治してくれたのも納得だ。


「ひっ!!」


気が付いた冒険者は短く悲鳴をあげた。

暗闇の中、間近に感じる巨大な息遣いと

聞いたことも無い言葉だけが聞こえてくる。

恐怖に染まりきった表情を浮かべていた。


あ~、ここじゃ人にゃ周りは見えないか・・・

酷い目にあったばかりで暗闇の中じゃ

安心できる訳もないね・・・


猫は灯代わりにと火の玉を顕現させた。


急に現れた火の玉に照らされた冒険者の視界には

「(すごいすごい!!)」と大はしゃぎに犬の背に乗って

その頭をわしゃわしゃと撫でまわす歌の姿は見えず、

ただへっへと舌を出して自らをのぞき込む巨大な獣が映った。

冒険者は目を見開くと白目をむき・・・そのまま意識を失った。


『面倒だねぇ・・・』


このまま放っといたら、助けた意味が無いだろう。

犬は冒険者を咥え、3匹は来た道を戻り出した。




『この辺りでいいか』


もう入り口も近い。

ひっきりなしに冒険者が訪れていたダンジョンの上層は

魔物は狩られ尽くしてしまったのかほとんどいない。

上層にまばらに感じる冒険者たちは獲物が見つからずに

残業中といったところだろうか?

とりあえずここに置いておけば大事には至らないだろう。

歌は犬から冒険者を受け取ると壁にもたれかけた。


「う~ん・・・」


『あんた、大丈夫かい?』


ちょうど目も覚めそうだ。

猫がローブの中から声をかけると気がついた冒険者は

慌ててボロボロになった衣服から何かを取り出して

起きたの~?と近寄ろうとした犬に投げつけた。


とっさにボールのようにキャッチしてみせた

それは光を放ち―――

犬はその場から忽然と消え去った。


『え!?』

「(え!?)」


「今、大きな獣が・・・」

「危なかった・・・」


迫りくる巨獣の魔物が消えて冒険者は安堵の表情を浮かべた。


「あなたが助けてくださったのですか?」

「ありがとうございます」


『あんた、何したんだい!?』


「上層で獲物が見つからなかったから中層に行こうって・・・」


『そうじゃなくて、』

『今、何投げたんだい?』


「【転移】の【スクロール】です」

「行先は指定していなかったからダンジョンのどこかに飛ばされたはず・・・」

「あ!!確かに上層に飛ばされてたらまずいかも・・!!」


恩人がいきなり詰める様な口調になる理由が思い当たって

一人焦る冒険者を無視して猫は犬にマーキングしている

自らの魔力を追った。


随分と下の方にその気配が感じられた。

急に転移して可哀そうになるほどに狼狽えて走り回っているのが

その気配でわかる。しかし無事なのには心底安堵した。

が、よりによって群れの機動力の要と離れたのは痛い。

猫は長距離走り続けることは苦手だし、どちらかと言うと

獲物を追撃するより迎撃する狩り方を選ぶ歌は更にそうだろう。

犬は今頃その嗅覚でこちらを探し回っているだろうが

ニオイがあんな下層まで届くわけがない。

上層で別れたのだから上層に戻ろうという考えは

あの子は思いつくだろうか?

合流するには時間がかかりそうだ。


『ほ~ら』

『やっぱり面倒ごとになったじゃないか・・・』


誰に愚痴るわけでも無く猫は呟いた。


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