33.宝物
ダンジョンの入り口から少し離れた森で
遊び疲れた犬はお昼寝していた。
その犬にもたれかかりながら歌は鼻歌を口ずさみながら
いばらの蔓を器用に編み込み、飛竜の鱗でネックレスを作っていた。
歌にとってはいばらの棘なんて痛くもかゆくもない。
気に入らず何度かほどいてやり直したが
ようやく満足するモノが出来上がりそうだ。
完成したら魔力で補強してしまえば強度も問題ない。
あの飛竜を産み出したダンジョンはやはり深く暗いものであることが
遠目にもその醸し出す魔素の量でわかる。
しかしダンジョンの入り口は人々でごった返していた。
冒険者たちはひっきりなしダンジョンに出入りし、その冒険者
相手に商売をするものも多く、その賑わいはちょっとした街の
ようになっていた。
とてもその人々に見つからずに潜入することは無理だと
判断した猫は少し離れた森で夜を待つことにした。
ついさっきまで犬と歌は昼食で得た骨でボール遊びをしていた。
歌がいつも遊んでくれるので犬は以前一匹で旅していた時ほど
ニンゲンを見て遊んでオーラを出すことは無くなったが
それでも久々に大勢のニンゲンをみて目を輝かせて突撃しようとする
人懐っこい犬を止めるのに2匹は苦心した。
猫は単独でダンジョンの入り口の偵察に来ていた。
ここまで人々が行きかうダンジョンをみたのは
猫も初めてだった。
整備されたそのダンジョンの入り口には冒険者以外にも
恐らく王都の兵士と思われる者たちがいた。
兵士たちは治安維持は勿論、魔物が地上に出てきた時の備えであった。
冒険者たちと比べれば比較的纏う魔素の量が多いようだが
それでも3匹からすれば知れたものだ。
その目を掻い潜って潜入するのは訳ないことだろう。
心配があるとすれば夜になってもこの人々の往来が止まなかった時だ。
だが昼下がりになって明らかにダンジョンに入るものより
出ていくものが多い。きっとその心配もいらないだろう。
聞き耳を立てる猫に聞こえてくる声はどこも変わらず
ダンジョンの情報と魔素の相場と、そして少年と女神のことだった。
ダンジョンの情報と言ってもそれは比較的上層のもので
入ってしまえば一気に深いところまで潜るつもりでいる一行には
役に立たないものであったし、魔素の相場なんてさらに必要のない
情報だ。少年の話は聞いていて誇らしくなるものだが
今、役に立つものでは無かった。
有益な情報は無さそうかな?と判断した猫はさっさと
2匹の元に戻ることにした。夜に行動するなら今のうちに
少し寝るのも悪くない。
ようやく完成したネックレスを首にかけてご満悦の歌に
戻ってきた猫が驚愕して声をかけた。
『あんたが作ったのかい!?』
『いいじゃないかっ!!』
いばらの鋭い棘が目立つ2連のチェーンの先端に
絡みつくように編み込まれた飛竜の鱗が黒く光るそのネックレスは
人から見れば酷く禍々しいものに見えなくもないのだが、
猫から見れば上等な宝石の様な輝きを放つ鱗と身に着ける
歌のその美貌も合わさって様になっていた。
えへへと笑う歌につられたように目を細めると
猫はそのいばらのチェーンに自らの魔力を加えて補強した。
『ここじゃ、あんたも魔力を使いにくいだろうからね』
いつの間にか起きていた犬も良く解らないままに
猫に続いて魔力を込めた。犬にとって家族が何かをするなら
協力するのは当然のことだ。
3匹の強大な魔力が、介して女神の魔力まで込められた
いばらのチェーンは不思議な輝きを放ち、
飛竜と黒蛇の魔力が込められた鱗を美しく彩った。
それぞれに強大な魔力を持つ5匹の力が集約して完成した
禍々しかったネックレスは王族が身に着ける至高の
装飾品の様な光輝くものになった。
歌にはそのネックレスがその輝き以上に輝いて見えた。
外の世界でできた友は同族しか知らなかった
歌にとってかけがえのない宝物だった。
その全ての友が魔力を込めてくれたネックレスは
この旅で得た初めての形ある、言わば記念品であった。
歌はネックレスを愛おしそうに両手で押し包んだ。
夜になってダンジョンの入り口は明らかに
人通りが無くなった。兵士は残るものかと思ったが
どうやら引き上げたらしい。魔素による強化に限界のある
今は強大な魔物から王都を守るのであれば近づかせない様に
危険を冒して野戦に持ち込むより、いっそ籠城した方が確実
といった判断だろうか?
これ幸いと3匹はダンジョンの入り口に向かった。
黒蛇ほどでは無くても犬にも猫にも優れた嗅覚と聴覚といった
感知能力がある。まだダンジョン内にニンゲンの気配は感じられるが
それは上層にまばらに存在するだけだ。
元々が種族的に暗視に長けた犬と猫は魔素で更に強化された
その視力でダンジョンの暗さは何の問題も無かった。
灯でダンジョンの視界を確保している人々にダンジョン内で
見つかる心配は少ないだろう。
それでも念のためにと猫は歌のローブに潜り込んだ。
用心に越したことは無い。
万が一、人と会って会話することになった時に慌てて
二人羽織しても遅すぎる。
犬は猫と歌を乗せ、ダンジョンを駆けはじめた。




