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28.『飛竜』の『謝意』

更新再開

某『影の地』では何度も心を折られ、

某ソシャゲのサメメイドに夢中になってたら

あっという間に2ヵ月も経ってました。

『ところで、あの娘はぬしらと一緒に来たのか?』


比較的友好的に情報を交換し合い、一区切りがついたところで

飛竜は猫に歌のことを尋ねた。


『我ですら地上での移動は命がけよ・・・』

『よくぞここまでこれたものよの?』


長命である飛竜は快適な巣を探す目的より、いわば退屈凌ぎのために

ダンジョンを転々としていたらしい。

その際に地上で自らの根幹たる魔素が身体から恐ろしい速度で

抜け落ちていくあの感覚は今でも慣れるものでは無かった。

近隣のダンジョンの全てにはもう行き尽くしていたはずだが、その中に

セイレーンが住まうダンジョンなどは無かったはずだ。

あの娘はどこから来たというのだろう?


『ああ・・・』


猫は歌に教えたように、普段は地上では魔力を抑えていることを

飛竜に伝えた。そうすれば地上での魔素の抜け落ちは最小限になるらしい。

歌もそうであったように、飛竜もその発想には度肝を抜かれた。

飛竜ですら魔力を抑制するということは考えたことも無かった。

地上には自らを極上の獲物と定める冒険者たちだっているのだ。

そんな中で魔力を抑えるなど、とんでもない話であった。

しかし、魔獣が誕生してからは飛竜は自らの脅威となりそうな

冒険者が既にいないことも知っていた。それ故に飛竜は更に

日々の退屈を持て余すことになっていたのだから。

飛竜は退屈なこの長き生に倦怠感すら生まれ始めていた。


『それは・・・良いことを教えてくれた』


本当にそうならば、地上を自由に移動できるのであれば、

今まで行くことが叶わなかったところまで、

ずっとずっと遠くまで行くことも可能なのではないか?

飛竜は自らの退屈すぎる日々に光が差し込むのを感じた。


『試してみるか・・・』


飛竜はダンジョンの入り口に飛び立とうとして

猫にふと顔を向けた。


『乗ってゆくか?』


飛竜という魔物がそんなに軽く背に乗せてくれるものだとは

思ってもいなかった。

予想外すぎる申し出に猫は困惑したが、正直

飛竜の飛翔能力には興味があった。

先ほど現れた時の、まるで突風の様な速度で地上を飛んでいけば

あっという間に少年に追いつくだろう。

うまくいけば後は交渉次第といったところか。


『それは恐縮だね』


猫は言葉とは裏腹に図々しくも迷いなくその背に飛び乗った。


『ああ、その前にちょっとあの子たちに声かけても良いかい?』


もうすっかり飛竜から興味が失せて笑い声をあげながら

骨遊びしている2匹に飛竜の背から猫は声をかけた。


『マテ!!』


言葉の分からない2匹に状況を説明するのには時間がかかる。

飛竜が心変わりする前に2匹にはここで待っていてもらった方が無難だろう。

まずは飛竜の、その飛翔能力を確かめたい。


ふいにかけられたその言葉に2匹が「?」と思う間もなく猫を背に乗せて

すさまじい速度で飛竜は飛び立った。







もはや瞬間的にダンジョンの入り口に辿り着いていた。

もうずっと前から出すことのなかった飛竜の全力での飛翔が齎す

その加速はその背にのる猫に思わずその爪を立てさせていた。

存外に深くまで爪が入ってしまい、背から血を流す飛竜の姿に猫は焦ったが、

飛竜はその痛みにすら気が付かぬようであった。


『こんなに昂るのは、』

『これほどもはや自分で感情が解らなくなるほどに

 猛るのは 一体何時ぶりなのだろうな・・・』


こういう言葉を口にする者は話す相手からの、今は飛竜にとって猫からの

答えが欲しい訳では決して無い。

想いを言葉にすることで自分自身でまだ理解できていない

その自らの思考を噛み砕き、そして消化するための行為だ。


問わず語りに飛竜は猫にかつての自分自身を語った。

若かりし頃に初めて地上に出た時にまず感じたものは恐怖だった。

ここに長くいては死ぬと自分自身で良く解った。

それでも未知への好奇は止められなかった。

遠くに感じた魔素を目指して、産まれたダンジョンをままよと飛び立った。

飛竜にはもうその時のはっきりした記憶などはない。

ただ必死になって訳も分からず泣きながらそこを目指したのを覚えている。

死への恐怖からだったのか、あるいは未知への不安だったのか、

地上の光があまりにも眩しすぎたからだったのかも知れないし、

産まれたダンジョン、故郷との惜別を感じたのかも知れない。


別のダンジョンに辿り着いたとき、泣きはらした飛竜の目には

もう涙は無かった。

ただただ未知へと相対する挑戦者としての力強い光がその目に宿った。


それからも何度も飛竜はダンジョン間の移住のために地上に出た。

新しい心躍る何かが無いか、期待を胸に何度も何度も飛び立った。

死すら覚悟し、そしてようやく辿りついたものは期待外れの

さしてどこも変わらぬダンジョンであった。


そのうち飛竜にとってダンジョンの移動は作業になっていた。

どうせ次のダンジョンにも何もない。

期待すれば裏切られたときに感じる心の棘は鋭くなるものだ。

それでも獲物を狩り尽くしてしまったここよりは少なくとも

腹は膨れるのであろう。


未知への好奇、新しい世界への挑戦する期待と不安、そして希望・・・

一体、それを感じなくなってからどれほど経ったのだろう。


そんな飛竜は、初めてダンジョンを巣立った時の様な胸が高鳴りを感じた。

地上へそろりとその一歩を踏み出し、飛竜はそのまま飛び立った。


その身にかかるであろう加速に猫は身構えたが、飛竜は

少しだけ滑空するとダンジョンからそう遠くない位置に降り立った。


『なるほど・・・』


いつもの魔素の流れ出る感覚は全くない。

それは良い。

それは良かったのだが・・・


『これでは飛べぬな・・・』


身構えていた猫は思わずずっこけた。








『まあ、そんだけデカい図体で飛ぶんならそんだけの

 魔素がいるってことなのかねぇ・・・』


『ふむ・・・』


『まあ、それでも次に移住する時は少しは楽になるだろうさ』

『もしかしたら、ちょっと練習すれば飛べるようになるかも知れないしね』


地上で魔素を抑えては飛べず落胆した飛竜を慰めるように

猫は言った。


『ふふっ・・・』


ああ、思わずこんな笑みが漏れたのは何時ぶりなんだろう・・・

いいや?

ひょっとすると初めてなのかもしれない。

我を気遣う言葉など、そんな僭越極まりない言葉など今まで

聞いたことなどあったか?


『うぬには感謝しかないさ』

『地上は』

『少なくとも地上はこんなにも美しいものだったのだと

 長く生きていて初めて知ったぞ』


稀にダンジョンの深い階層に生息する魔物が地上に出て

甚大な被害を齎すことがあるらしい。

だが、そんな魔物たちは一体何を求めて地上に出たというのだ?

自らが遠からず、間違いなく地上にいては死ぬだけだというのに

何故そこを目指したのだ?


飛竜は物狂いの感じたことを理解できるものは物狂いだけよ。と断じていた。

しかし今、長き生で遂にその答えを得てしまった。

自らが感じた地上のその美しさに対する憧れと、そしてそこで生きることが

叶わない嫉妬と憤怒・・・


かつてこの世界の理に挑み、散っていった仲魔たちには最大限の敬意を。


『我は・・・』

『地上のことは解った気がして、何も解ってなかったのだな・・・』


朝の木漏れ日なんて知る由もなかった。

地上に降り立つ余裕なんてずっとなかったのだ。

その柔らかに世界を照らす光の魔法は、ダンジョンに住むものさえ

いや光のないダンジョンに住むものだからこそ火に飛びいる虫の如く

強烈に惹きつけるのだろう。


ああ、そうか。

あの時の涙はただ初めて美しいものを目にした感動故だったのか・・・

そしてそれを心から楽しむことのできない自分への憐憫だったか・・・

でも今は、それを目前にそれを楽しむ余裕がある。


『小さき異邦のものよ』

『我が想いは一言で表せるものでは無いのだが・・・』


『本当にどうもありがとう』

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