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27.【猫】と【飛竜】

イヌーの群れたちは律義にも新しいボスについてきていたが

都市の北にある森を抜けるところで猫に追い返された。


『そういえば、その件もあった!』と猫は自分がいない間に

何が起きてどうして群れを引き連れてきたのかを問いただそうかとも

思ったが、犬のその説明を聞いてもきっとわからないだろう。

それに結果的には少年の名誉を守る一助となったのだ。

今回は不問としよう。


3匹の群れはもう毎日の日課となった朝ごはんを狩りにダンジョン

の入り口に来ていた。


この世界ではダンジョンは無数にあり、その入り口はダンジョン一つにも

無数にあるものであったため、それを見つけること自体は簡単なことであった。

しかしそのダンジョンがただのトンネル状のものであるのか、

あるいは深い階層まである大きなものであるかはその日の運によるものだった。


『今日は当たりだねぇ!!』


ダンジョンの入り口から感じる魔素の量はこのダンジョンが

深く暗いものであることを物語っていた。

犬は2匹を乗せ、狩猟者としての嗅覚で迷いなくダンジョンの下層を目指した。

歌も大きなダンジョンを見つければもう浅い階層で歌うことは無かった。

産まれたダンジョンではその捕らえた獲物が魔素を含んでいなかろうが

その肉を食べていたものだが、この旅でもうすっかり舌が肥えてしまった

歌はせっかく食べるなら魔素ののった肉を欲するようになった。

その贅を味わうこともこの旅の意義なのかも知れない。


犬はその美味しい獲物を求め、ただひたすらに

ダンジョンの下層を目指した。

知らず知らずに強化され続けたその脚は瞬く間に3匹を下層へと導いた。


下層に着いた3匹は道すがらしっかりと犬が捕まえていた魔物を

オードブルに食べ始めた。

3匹でそれぞれに言葉は通じないはずなのにおしゃべりしながら

笑いあって食べるごはんは美味しかった。


ダンジョン下層の濃密に漂う魔素の中、歌は魅了の歌を歌い始めた。

現れ始めた魔物たちを慣れた作業の様に2匹は仕留めて回ったが

3匹ともその意変にはすぐに気が付いた。獲物が少なすぎる。

こういった当たりダンジョンを引けば最高に気分の良い朝食を

取れたものだが、ここではその数があまりにも少なすぎた。


ちょっと期待外れだった朝食を少し物足りない気持ちで食べ始め、

朝食が終わったら地上に戻って少年とのこのたちの悪い鬼ごっこを

再開しようと考えていたが、犬はその嗅覚で何かを捉えたのであろう。

食べるのをやめてそわそわと落ち着きなく動き回り始めた。


犬が初めて感じるそのニオイはそれは至高なほど美味なのであろう

濃密な魔素の塊の様なモノではあったのだが、それ故にそのニオイの元が

如何に強大であるかが犬にはわかった。


そんな落ち着きない犬の様子は言葉がわからない2匹にすら

その意味を理解させた。


この場所を今すぐにでも離れるべきであろうか?

ダンジョンの下層の更に奥を見つめて、背の毛を逆立てながら

もはや滅多にそれをあげることは無くなったうなり声をあげる

犬の姿にその判断が遅すぎたものであることを2匹は理解した。


まるで突風の様に現れたそれは飛竜であった。

目の前にして猫も歌もその放つ魔素に圧倒された。

間違いなく今まで相対してきたものとは一線を画すものであった。


『妙な気配がするかと思えば、何じゃ?うぬらは?』


きっと飛竜はその問いに答えなど期待していなかったであろう。

相対するものは長命種である飛竜ですら初めて見る妙な2匹の獣に

セイレーンであった。言葉などは通じまい。


『あんた、そのなりで話せるのかい!?』


お前がそれを言うのか!?とも飛竜は思わないことも無かったが

見たことも無い獣の一匹が問いに対する答えを返してきたことに

飛竜は大層驚いた。


言葉が通じるとはいえ、最初は互いに腹の探り合いであった。


猫は飛竜から感じるその強さを重々承知していたが、

話が通じる人間以外の相手と初めて相対し好機と思った。

この世界のことがもっと知りたかった。

歌との人間の街探索ツアーでそれを探ろうにも

どうしても常識の欠如のある2匹では不審がられることが多く

情報収取には限界があった。


戦えば圧倒的な魔素を纏う飛竜は苦戦必至の相手ではあったが

それは飛竜から見てもであった。

ここ久しく見てなかったほどの魔素を纏うものが3匹もいるのだ。

それでもここが地上であるならば自らの飛翔能力を考えれば

容易な相手ではあるのだろうが、ここはダンジョンなのだ。

天に限りがあるこの場所で、その優位性は少ないだろう。


その後ろでは飛んでいる強大な獲物に目を据えながら

飛び掛かる隙を伺うように徘徊し、うなり続ける犬の背に

戦闘準備万端といった歌が乗っていた。


猫は『おやめっ!!』とその動きを制止した。

このままでは情報以前に会話もままならないだろう。

強大な獲物を前に制止され、きょとんと自らを見つめる2匹に

猫は朝食の骨を投げた。


『ちょっと話している間、遊んでおいで』


骨を渡されたことで猫が言っている意味は何となくわかったが

あまりの状況に2匹は困惑した。

それでも猫の指示に従って心配しながらも少し後方に2匹は

退いていった。猫の判断を犬も歌もとても信用していたのだ。


明らかに闘る気満々だった2匹が退いたことで

ようやく飛竜は地に降り立った。









『なるほど・・・』


異世界から来たという猫を飛竜は全く疑わなかった。

猫の様な生物は長く生きている飛竜ですら見たことが無かった。

むしろ違う世界から来たと言われた方が納得できるものだった。


異世界に興味を持ったのだろう。

猫は住んでいた地球、日本の一般家庭の生活様式を聞いては

詳細を問い、その答えにそのゴツい外見に似合わないキラキラした

目をして感心しっぱなしだった。


『だから、あたしらはこの世界に疎くてねぇ・・・』

『この世界のことを教えてくれるかい?』


飛竜は協力的に自らの知っていることを教えてくれた。


昔はこの下層まで冒険者が毎日押し寄せていたこと。

魔獣が誕生したことで世界が一変したこと。

そしてそれを引き起こした魔花のこと。


『まあ、あの花たちの気持ちもわかるであろう?』

『ニンゲンどもは損得で動くからの・・・』

『そのために声も出せない存在の命を鑑みることなどは無かろう?』


勿論、それは猫の知っている世界でもそうだ。

利を成すために、あるいはその存在が人に利を成すというだけで

いくつの生物が地球上からその姿を消しただろう?

弱肉強食とは別にその肉を喰らうだけの行為を表すものではない。

例えば家を建てるとして、その土地に自生していた植物たちや、

そしてその中で命を繋いでいた小動物に目をくれた者などはいないはずだ。

強者は住んでいる環境すら弱者に目もくれず都合の良い様に変える

権利を持っているものだ。

それは猫や飛竜の倫理では別に悪いことではなかった。

そしてその弱者が強者に思わぬ反撃をしたとしても、それも別に

悪いことでもなかったのだ。


『それはその通りだねぇ・・・』

『結局は自業自得だぁね』


『ほぉ?』

『てっきりニンゲンどもに味方するのかと思ったぞ?』


『まあ、結局はあたしもニンゲンじゃないのさ』


猫はカラカラ笑うと、ふと思ったことを問うた。


『あんたはここに攻め込み続けていたニンゲンが嫌いなのかい?』


『好きも嫌いもあるか』


今度は飛竜が笑った。

自らに攻め込んでくる人の群れは、それは飛竜にとっては

貴重な濃い魔素を運んでくる食糧でもあったのだ。


飛竜は自らの種族についても教えてくれた。

飛竜は魔物の中でも最上位の一角に位置し、その力で産まれた

ダンジョンから飛び立ち、更に居心地の良い住み家を探して旅することも

あるそうだ。

それに目をつけた人間が移住のために飛び立ち、その道中で魔素を

発散し続けて弱ったところを移住先のダンジョンの入り口で待ち構えて

飛竜を狩ることが流行った時期もあったそうだ。








何を話しているのかはわからないが、2匹の友好的に見えるやり取りを見て

いつでも猫の助けに駆け付けようと少し離れた場所で警戒していた

犬と歌は骨で遊び始めていた。






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