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25.女神降臨

何をどうして何で引き連れてきたのかを猫は問いただしたかったが

その時間は無かった。一刻も早くこの事態を納めなければ。


猫は走りくる犬を迎えに行く様に駆けるとすぐに歌の

ローブの中に納まった。

猫はローブの中から顔を出すと歌の口を前足を交差して

×印を作るようにしてふさいだ。


歌は「わん」1回で応えた。

ここは人の住む都市だ。ここで自身の力を使えば

どういうことになるかは歌にも解っていた。

魅了の力を使うなと猫は言いたいのだろう。


ここまで来れば犬にも歌にも何故猫に呼ばれたかが解る。

目の前のもはや原型の無くなった門を破壊し続ける魔獣の

膨れ上がった身体から感じる魔素は以前戦った成れの果てには

及ばないものの、なかなかのものだ。


破壊衝動に身を任せ、門を破壊し続けていた魔獣は

濃密な魔力をその身に纏い始めた犬の存在を嫌でも認識した。

もはや狂猛な肉食獣の顔となった男はその顔に似合う

獰猛なうなり声をあげた。


やっとボスに追いついたイヌーたちはその魔獣のうなり声に

色を失った。しかしボスは平然とその恐ろしい獲物に相対している。

その頼もしい背中にイヌーたちは安心したが、その優れた

嗅覚で感じる獲物のニオイはちっとも安心できないものだった。

自分たちが食べることのできない毒のニオイがプンプンしている。


「え~、これ狩るの?」とボスの背中を懇願するように

イヌーたちは見つめたがボスはこちらに目もくれない。

獲物を見定めたまま動こうとはしなかった。

ふとイヌーたちは広場で暴れまわっている牛たちの姿に気が付いた。

骨遊びとボスとの追いかけっこで狩猟本能に火がついていた

イヌーたちは自分たちが食べられる獲物を求め、咆哮をあげながら

各々走り出した。


魔獣となった男は2足で立つことだけが人間の魔獣であることを

表していたがその外観はもはや巨大な獣に近い。

虎の様なその身体通りに獲物がその射程内に入れば一気に襲い掛かって

その爪で引き裂くつもりであった。


犬の後方で急にばらけたイヌーたちに虎の気が向いたその一瞬を

もはや熟練の狩猟者となった犬は見逃さなかった。


爆発的に加速した犬は一気に肉薄すると魔力の牙でその首を狙った。

下あごの半分を齧り取られながらも何とか首を躱した虎に

その背に乗る歌から魔力が込められた爪がその加速を乗せて振るわれた。

顔を深く抉り取られた虎は悲鳴をあげながらたまらず距離を取ろうと

後ろに大きく飛んだが、ローブの中から放たれた猫の火の玉に撃ち落された。

虎のその身体が大地に落ちるその前にその首は今度こそ犬の牙に

捕らえられて、深く切り裂かれた。

3匹はお互い言葉こそ通じないが、その絆はもはや言葉を越えた

連携を可能にしていた。


嫌でも人々の目を引いていた2匹と、正確には3匹だが

魔獣の戦いは猫の目論見通りに一瞬で片が付いた。

人々はあの恐ろしい魔獣を見たことも無いほどの大きなイヌーに乗った

麗しい人物が事も無く討伐する様を見て驚愕の声をあげた。

この一瞬が勝負だ。


『都市の人々よ!!』

『恐ろしい魔獣はこの女神の手によって撃ち滅ぼされました!!』


「にゃー?」


歌は普段とは違う凛とした声で叫ぶ猫に不思議そうにローブを捲りあげて

その姿を確認しようとたが『おやめっ!!』とパンパンとお腹を叩かれた。

んんっ?と思ったが、とりあえず黙っておくことにした。


そんなやりとりの下では魔素ののった美味しそうな獲物を前に犬が

早く食べようよと背に乗る2匹を見上げながら大喜びでしっぽを

振り回して誘っていた。

『マテ!』と小さく鋭く猫に言われ、お預けを喰らった犬は鼻を鳴らした。

その目には牛を捕らえて大喜びで食べているイヌーたちの姿が見えた。

犬はもう一度鼻を鳴らした。


「め、女神だって・・・?」


『その通りです』

『あなたたちが私が遣わせた少年の言葉を聞き入れ、皆が

 手を取り合えたからこそ私はここに降り立つことが出来ました』


ここだ。ここで押し切る。

猫は覚悟を決めた。


『人々が分け隔てなく手を取り合える世界ならば奇跡は起こるのです』


優しい都市へと舵を切り始めていた人々からはその声に歓声が上がった。


「では、このイヌーも少年が言っていた・・・?」


何それ??そんな話知らない・・・


『そ、そのとおりです』


暴れていた牛を残らず仕留めて大喜びで貪っていたイヌーたちは

急に人々が自らを見て歓声をあげて讃える姿に驚き困惑した。

ニンゲンに手を出せば手痛いしっぺ返しを食らうことは既に

知っていたがこれはどういう状況なのだろう?

よく考えずにボスについてきてしまったがここはニンゲンの巣だった。

ニンゲンからは敵意は感じないがひょっとして怒られるのだろうか??


「し、しかしそれなのになぜ都市に魔獣が・・・?」


あ~、その質問来ると思った。

来るとは思っていたが猫はその答えは思いついていなかった。


『そ、それは、、それは、魔王が現れたからです』


【魔王】という聞きなれない強大な敵の出現に人々からは

どよどよと驚愕と困惑の声が上がった。

自分で言っておきながらも、その言葉に猫も困惑した。


都市中の人々が自分を見つめる中、「よくわかんないや」と歌は思った。

どんな状況なのかまったく理解できるはずの無い歌はこの状況よりも

せっかく来た人の都市の方が気になり始めていた。

「もう、ここは全部にゃーに任せよう」と考え、ゆっくりと都市を

眺めはじめ、その興味深い人の営みが映る都市は歌を少しづつ笑顔にさせた。

まるで都市の人々の一人一人を確認するように目を移らせながら

安心させるように微笑む女神の姿に人々は魅入った。


『で、でもダイジョーブっ!!』

『あの少年が必ず魔王を討ち果たします!!』


大歓声に包まれたがもはや全く大丈夫じゃない猫はこの綱渡りの

問答を早く終わらせたかった。

犬ももう我慢できなさそうに鼻を鳴らし続けている。

もうここいらが潮時だ。


『い、いけません!!』

『魔獣から強大な魔王の魔力が漏れ始めました』


動揺する人々の大きな声が上がる中、猫は小さく

『フェッチ、ゴー(持ち帰るぞ)』と犬に指示を出した。

ようやくお預けは終わりかと犬は大喜びでその大きな獲物を咥えた。

何処に持って行けばいいのかはわからないが、とりあえず犬は走り出した。

さっきの丘で良いのだろうか?


『心配はいりません』

『我が身に変えましてもこの優しい都市は守りますからああぁぁぁ・・・』


目にも止まらぬスピードで走り出したイヌーの王に乗る

女神の声は一瞬で人々から遠くなっていった。


困惑しきっていたイヌーたちもボスの後に続いて走った。

この状況はよく解らないが、ニンゲンたちに怒られる前に

ここはボスに続くのが賢明だろう。

いやしんぼの数匹は狩った獲物を持ち帰ろうと必死にそれを

引きずっていたが。








丘の上に辿り着いた3匹はもう待ちきれなさそうに手に入れた

美味そうに魔素ののった魔獣の身体を仲良く食べ始めた。

その魔獣も元は人かもしれないがそんな倫理は3匹には通用しなかった。

そこには犬がとらえた山の様な魔獣や魔物の肉もあったが

『やってられるか』とやけ食いする猫が一番それらを食べた。


イヌーたちも無事に自分たちの縄張りに辿り着いて

各々じゃれついて遊んだり、ひと眠りしたりしていた。


この群れたちがこんなにもお腹いっぱいになったのは久しぶりのことだった。




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