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21.隠密の【猫】

3匹は丘の上からその都市を見下ろした。


ここまで辿りつくまでにはおよそ半年以上の月日がたっていた。

その旅路の中でいくつもの困難を3匹は協力して乗り越えてきた。


主人の気配まではもうすぐだった。

ようやく大好きな少年に会える、その逸る気持ちは

犬のその脚をも急がせ、風の様なスピードでその丘を駆け上ったのだが・・・

丘の上に辿り着いたところで驚くことに少年の気配は一瞬で遥か彼方の方へ

移動してしまった。


何が起こったか解らない犬は遠吠えをあげた。







『いいかい?遅くても3日で戻ってくるからね??』


猫は地面に太陽と月の絵を3回書きながら言った。


「うた、にゃー?わんわん?」


歌は3日間、どっちと一緒にいればいいのかを聞きたい様に

犬と猫を交互に指さした。


ここに来るまでに、2匹は人の街を見たがっていた歌のために

歌にその辺で盗んできたローブを着せ、言葉は解るが姿は見せたくない

猫が一緒に入って代わりに言葉を話すという二人羽織作戦を

既に編み出していた。

最初はあまりにも不自然過ぎたがどうしても街に入りたかった

歌が練習するうちに何とか形にはなった。

幸い、この世界では魔力を完全に抑えることはできない歌が

その微細な魔力を放つ魔素の影響で身体に口がもう一個あったところで

不自然には思われない不自然さがあった。



何度か人間の街潜入ツアーをしたことがあったが今回は事情が違う。

今回の猫の目的は一匹で隠密行動で情報収集することだった。

何としても少年の現状を調べなくてはならない。

都市で情報を収集するのは猫以上に適役はいなかった。

犬はもう論外としても、美の化身たる歌はどうしても

その容貌が目立つし、これだけ大きな都市だ。

不埒な輩に目をつけられないとも限らない。

勿論、そんな輩に負けることなどは無いが、騒ぎになって

情報を得られなくなることは避けたかった。

何より3日間も一匹で犬に『マテ』が通用するとはとても思えない。

心配になって街に探しにでも来られたらそれこそ台無しだろう。


「わんわん」と猫は答え、犬を見ていて欲しいと地面に描いた。


「わん」


大きな都市を見てみたかった歌はがっかりしてそう答えた。

こういう場合の「わん」が1回で肯定、2回で否定だ。

歌と猫はこの半年の間でだいぶコミュニケーションが

取れるようになってきていた。

この場合は「わかった」と言いたいのだろう。


『うん・・・?』


もし、瞬間移動装置の様なものが都市にあったとして

その場合はどうするか?

見つけてから戻って考えても良いのだが、作戦は何個あっても良いだろう。

もちろん最終手段となる荒っぽい力技もだ。

猫は自らが空に花火の様に魔力を放つ姿と犬に乗った歌の姿を描き

それを矢印で繋ぐと、もし猫の魔力が空に見えたら2匹で自らの元に

来るように身振りを交えて伝えた。


「わん」


歌がしっかりと答えたところで猫は満足したようにいい子だねと

歌の顔を舐めると犬の頭に飛び乗った。


『あんたもちゃんと、いい子にしてるんだよ』


「わん」


と犬は歌の様に元気に返事したが、たぶんこの子はわかっていないだろう。

猫はちょっと心配そうに犬の頭をふみふみすると都市へ出発した。


やっぱり何もわかっていなかった犬はその後ろ姿に

「どこいくのー!?」と言いたげに吠えて後を

追いかけようとしたがそれは歌に止められた。

犬は心配しなくて良いよと頭を撫でる歌のその手を舐めつつ

あっという間に見えなくなった猫の方を心配そうに鼻を鳴らして

見つめていた。




猫は都市を囲う城壁に辿りつくと、そのまま壁を駆けあがった。

見張りのような者の気配も城壁の上で所々に感じるがここなら見つかる

心配もないだろう。一気に駆け上るとそのまま都市の建物の屋根に

飛び移った。


大きな都市だけに人が多い。雑踏の中から情報を得ようと

その優れた聴覚で聞き耳を立てながら屋根伝いに進んでいった。


「聞いた?お隣の子、事故で魔素に触れちゃったんだって・・・」

「え!?もうあの歳で異形に!?」

「それはまだ、わからないらしいけど」

「あんな小さな子が冒険者や憲兵になったって、きっとすぐに・・・」


『世知辛いねぇ・・・』


猫も歌との人間の街探検ツアーで何となくのこの世界の理を

理解し始めていた。

この世界で部屋の照明や冷暖房など様々な用途に魔素が使われている。

その取り扱いをミスしたかそれを壊したのかしてそこから魔素が

洩れることがあり、それに直に触れると少しづつ人は異形となっていく。

そして多少でも見た目に変化があれば冒険者と呼ばれる

魔素の収集人になるしかないそうだ。

二人羽織作戦では猫がしゃべるためどうしても歌の口パクとは

合わないし、そもそも声が出る場所が口より下となった。

それを不審に思われるというよりは異形の冒険者扱いされ

人間離れした美貌を持つ歌ですら羨望の目より冷たい目で見られたものだった。

尤もそんな扱いは置いても歌は十分に探検ツアーを楽しんだのだが。


世間話に耳を傾けながら進む猫の耳に


「きっと今なら大丈夫じゃない?」

「だってほら、法律が変わったじゃない」 


『ほぉ?』と猫は少し足を止めて夫婦の会話を聞いた。

どうやらこの都市では異形でも差別しないように法律が

変わったらしい。なかなか殊勝な話だ。


「まあ、明日は我が身だもんな」

「全てのものに優しい都市づくりか・・・」

「あの女神の少年には感謝しないとな」 


思いがけなく出たその言葉に猫は更に聞き耳を立てたが

それ以上に、何かを得られることはなさそうだった。

どうやらこの都市の法すら変えたらしい家族の更なる情報を

求めて都市を進んでいった。


猫は更なる情報を求めて都市の中心にある広場までやってきた。

所々に出店が立ち、人々の往来は激しく活気のある声に溢れている。

ここなら色々とわかるんじゃないかと猫はその耳に意識を集中した。


法が変わったとて今までと変わらず異形を蔑む声。

今までの差別を無かったことにするとでもという不満の声。

もうすぐ開かれるという祭りを待ち望む声。

少しづつでも良い方向に変わろうとする都市を称賛する声。

異形となった家族と久々に面持って再会し心から喜びあう声。


様々な声が聞こえる中でも話題の中心は猫の大事な家族である

少年のことだった。


『がんばったねぇ・・・』


猫はここにはいない少年を労わるように言った。

猫は少年を誇りに想いつつ、その耳を広場の雑踏に傾け続けた。

家族への称賛は聞いていて嬉しいものではあるのだが

知りたいのは今、少年が何処にいて、如何にしてそこに移動したのかだ。


「その少年に会ってみたいな」

「今、どこにいるんだい?」


「王都に行ったらしいぞ」


「え!?もうそんな遠くに?」


「特別に【王の路】の使用を許可されたらしい」


「あー、まあそれだけの事したからなぁ・・・」


『それだ』と猫はその会話に集中した。

話題はその使用を許可された程の少年の功績に変わり、

必要な情報は出てこなかった。


陽が暮れるまで聞き耳を立てたが【王の路】の情報は得られなかった。

まだ1日目だ。腹ごしらえと寝床を探すために猫は広場に降り立った。


【王の路】ねぇ・・・

そんな御大層な名前のやつなら探せば案外簡単に見つかるかも知れないね。


猫はそんなことを考えながら捕らえたねずみらしきものを齧り、

そのあまりにもの不味さに口直しに街灯に登って叩き割ると

そこに溜まる魔素を直にペロペロと舐めた。

その様は正に化け猫そのものであったが誰かに見られることは無かった。



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