20.ある都市の伝説
この都市はある時から今の様な形になったと言う。
それまではそれが当然であると異形となるものを差別し、
時には殺してその身体に宿る魔素を抽出していた。
その惨い行いに憤慨していたものの、この都市が齎す
魔素の相場の良さから多くの冒険者たちが滞在していた。
矛盾だらけの都市だった。
時に異形と成りすぎた者を狩る、治安を維持する者ですら
異形だったのだ。魔素による強化が無ければその狩りを
行うことなどは出来なかった。
ある時に一人の少年がこの都市を訪れた。
その少年は驚くほどの魔素を宿していたにも関わらず
その身体は全く変化していなかった。
少年は声高高にこの現状をおかしいと言ってのけた。
人々は最初は冷ややかに少年を見たが、その力で
都市をずっと脅かし続けていた魔獣や魔物の幾つかを
その仲間たちと共に屠り、何度も都市を助けた
その少年の言葉に人々は耳を傾け始めた。
何でも【女神】という存在がいて、この世界の現状に
心痛めて少年を派遣したらしい。
当然の様に存在していた異形と成るものへの差別は
徐々に和らいでいった。
それでもその気がおかしくなるほどに変化を遂げたものは
今でも都市を追い出されてしまうものだが、それでも
殺して魔素を抽出するようなことは無くなった。
ただし少年は都市の北の森に居つくイヌーの群れにだけは
決して手を出さなかった。
そのイヌーの群れは家畜を襲うこともあって人々から
その退治を頼まれたが少年は頑なに断った。
少年は良くなり始めた都市を離れる前にイヌーは僕の
【家族】にもいるからそれはきっと【女神】の眷属と一緒だ。
きっと【女神】とイヌーはこの都市を守る存在になると言い残したそうだ。
しばらくするとこの都市に災厄が訪れた。
都市内で恐ろしい人の魔獣が誕生したのだ。
その魔獣は多くの獣を従え、都市を破壊しつくそうとした。
その時には人々はやはり異形のものへの気遣いは
不要だったのかと少年の言葉を疑ってしまったらしい。
その時だった。
ついに【女神】がイヌーの王を駆け、北の森よりその麗しい姿を現した。
多くのイヌーたちを引き連れ、あっという間に魔獣たちを屠ると、
魔獣の死体から滲み出るその強大過ぎる魔素がこの都市に影響を
及ぼさぬようにと自らの危険も顧みずにその死体を北の森に持ち帰った。
それから【女神】の姿を見た者はいない。
きっと都市を守るためにその身を犠牲にしたのだろう。
それから【女神】はこの都市で信仰の対象となり勇気と献身の象徴となった。
【女神】への信仰の名のもとに異形となるものも差別されることは無くなり、
その手を取り合ったことは都市に更なる繁栄をもたらした。
北の森は「女神の森」と呼ばれる様になり、イヌーたちはその守り手として
崇められることとなった。
―――と猫は都市で耳にしてきた伝説を絵本の様に地面に描きながら
犬と歌に読み聞かせた。
わぁ~、ステキなお話と歌はパチパチとその手を叩いた。
何やら難しそうな話が終わって喜ぶ歌の姿に一緒になって
喜びながら犬は歌と猫をペロペロと舐めた。
『まぁ、あんたらのことなんだけどね』
犬に舐められながら苦笑するように猫が最後に口にした言葉は犬と歌に
理解できる言語では無かった。
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