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19.【番犬】と【番猫】

犬という生き物は骨格的にモノをその背に乗せられるようにはできてはいない。

本来であればその背にモノを乗せるどころか人を乗せるなど背骨が骨折する

自殺行為ではあったが今の猛獣サイズになった上に魔素で強化された

その身体でなら歌を背に乗せるのはお安い御用であった。


その後にまたひと眠りした3匹は、輝く朝日に向けて走り出した。

犬の背に乗り、その風の様なスピードで輝く世界へと一歩を歩みはじめた

歌にはそのあまりにも眩しすぎる世界を前に不安よりも感嘆が勝った。


あ~、なるほど。

私の身体から力が、魔素が抜け落ちていくのがわかっちゃう。

地上では私たちが生きられないって言うのは本当だったんだ・・・

私の身体から魔素がぜんぶ無くなったら私は死んじゃうのかも知れない。

でも、この輝く世界で死ぬのだとしたらそれもきっと悪くはないよね?


それを誤魔化すことができない不安は確かにあった。

歌は目の前のふわふわを愛おしそうに撫でた。


それに私には新しい友達がいるし、独りぼっちなんかじゃない。


歌は犬の背で想いを歌にした。

その世界を讃える美しいメロディーに犬と猫は目を細めて心地よさそうに

聴き入っていた。

よく晴れたその日の旅路は最高の気分でスタートをきった。








――――数分後


『あんた、二度と歌うんじゃないよ!!』


その歌が届く範囲にいた生物が殺到する中、犬はそれらをかき分ける様に走った。

猫は犬の頭から歌の頭に乗り換えてシャーっと毛を逆立てながら

その身に近づこうとするものを切り裂いて焼き払った。

食うため以外の殺しは好むものではなかったが、そんなことを気にしている

場合では無かった。


どこまでも憑く様に着いてくる追跡者たちから逃れる様に

見つけたダンジョンの入り口に飛び込んだ。

ダンジョンをある程度進んだところでようやく撒いたらしい。


殺到してきた中に魔獣を見つけた犬はしっかりとつまみ食いしていた。

おすわりの姿勢でボリボリと獲物を噛み砕いている犬の前では

猫と歌が何やら話していた。


猫は普段は魔力を抑制しなさいと歌に教え込んでいた。

犬にそれを教えた時は一苦労だったが歌は絵を描けば伝わるので教えやすい。

普段から魔力を全開にしていることは最初にこの世界で犬が極度の飢餓感に

苦しめられていた様にデメリットしか生まない。

ましてや歌の場合は先ほどの様に大量の追跡者を作る出すことになるのだ。


魔力を抑えるなんてことを考えたことも無かった歌は驚いた。

魔素の漂うダンジョンでは魔物は呼吸するかのように当たり前に

その身体に魔素を補充できた。

魔素から産まれた魔物たちはその扱い方を誰よりも知っていた。

ただ魔物はその生命維持の根本に魔素が必要であったため

完全に魔力を停止することは難しい。

また抑制してしまえばその身体能力や感知能力が格段に落ち、

それは敵に不意打ちを許す、いわば生存確率を下げる行為であった。

でも今の歌には頼れる仲間たちがいる。

さっき感じた魔素の抜け落ちはそれでかと合点がいき、それでも

こまめに魔獣を捕らえて魔素を補充すれば何とかならないかな?

と考えていた。何より外の世界で一番ショックだったのは獲物に

していたものたちが殺到するため歌を歌えないことだった。

魔力を抑制すれば全部、簡単に解決できるじゃないと歌はその教えに

大喜びした。


追跡者を撒くための意味もあったがダンジョンに来た一番の理由は

朝ごはんだ。殺到してくるものたちは魔獣ではない獣が多く、その肉を

食べても良かったが、せっかく食べるなら魔素を含む美味しい肉だ。

歌はここでなら何の問題もないとその魔力を歌に込めた。

現れた魔物たちを犬と猫は次々と仕留めていった。

純粋な戦闘は得意ではないとはいえ、歌もそこいらの魔物に

負けることは無い。しかし押し寄せた魔物を作業の様に

次々とさばいていく2匹には舌を巻いた。

2匹も2匹であまりにも効率の良い狩りに驚いていた。

獲物が何の警戒もなく湧いてくるのだ。こんなに簡単に大量の獲物を

捕えたことなど無かった。【女神】の加護のおかげか自分たちには

効かないようだが、その能力の恐ろしさが今になってよくわかった。


一通りの魔物を仕留め終わると、3匹は仲良く朝ごはんを食べた。


食事を終えて外に出ると歌はその身に纏う魔力を抑えた。

歌は産まれて初めてその行為を試したが、そもそも魔素の扱いは

他の何者よりも得意な【魔物】なのだ。

あっさりと抑制してみせると犬の背に乗った。

五感も鈍くなり、その見る世界の輝きも少しだけ鈍ったことは

残念ではあったが身体から魔素が抜け落ちていく感覚はなくなった。

それはまるで光の下で自分が生きていくことが許されたようで―――

歌からは思わず涙が零れた。


走り出した犬の背で歌はまた歌い出した。

今度は追跡者が現れることは無く、その美しいメロディーを

犬と猫は心地よさそうに聞いていた。






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