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15.その頃の【女神】

地底湖を越えてみれば、出口の光はそう遠くないところに見えた。

もはや2匹には不気味に聞こえ始めたセイレーンたちの歌も

次第に遠くなっていった。

地底湖を越えてみれば出口の光はそう遠くない所に見えた。


犬はうなり声をあげながらしきりに後ろを振り返っていた。


『う~んんんっ・・・??』


その頭に乗る猫はどうするべきなのかを考えていた。


一匹、魔物がついてきている。

犬と猫の嗅覚や聴覚はそのうまく隠れていると思っている

魔物を最初から認識していた。

たまにそちらの方を振り返ってみれば、さっと岩陰に隠れてしまう。

まさか本当に気づかれていないとでも思っているのか?

それは最初からだが、こいつらは本当に一体何がしたいんだ??

犬としては飛び掛かって食べてしまっても良かったが、

その目的がわからない上にひょっとしたらそのバレバレの追跡は

罠なのかもしれない。

猫に促されて無視することに決めた。


そのセイレーンはダンジョンに漂う魔素から産まれたばかりであった。

全てを魅了するはずの同族の影響を全く受けず、あげくはこちらを捕食し、

最後は無視して進んでゆく存在を前に困惑や恐怖よりも好奇心の方が勝った。

この初めて見るふわふわの存在はいったい何??

自らの存在をこの世界に自認した時からその身体は大人びたものであったが

その心はまるで子供のままだった。

こそこそと追跡し、その存在を観察してみようと思う魔物の気配は

それを後方に感じる2匹にとって不気味なものでしかなかった。


そうこうしているうちに出口についた。

こちらの出口もかつては封鎖されていたのであろう。

だが、もはや朽ち果てたそれは封印の意味を成していなかった。

襲ってくるわけでもない追跡者が何がしたいかはわからなかったが、

ダンジョンから出てしまえば、まさかついてくることも無いだろう。

悠々と出口を出ると、やはりそこにも朽ち果てた街が広がっていた。





『ああ・・・』

『本当に良かった・・・』


自らのありったけの力を渡した少年をようやくこの世界で発見した

【女神】は安堵の声を漏らした。その眼には涙すら浮かんでいる。

少年に持てる力を授け、その後に小さい存在にも力を与え、そして更に小さい存在

にも力を分け与えた【女神】は今の今まで力を失っていた。

少しばかりの休憩を得て、少しだけの力を取り戻して

逸る気持ちでこの世界に送り出したものたちの姿を探してみれば、

喜ばしいことに少年の旅路は順調と言って良い。

その表情や行動には何の陰りもなく、あの純粋な少年のままだ。

頼れる仲間たちと出会い【女神】の名のもとに、この世界で名を上げ始めている。

それは【女神】が少年に一番望んでいたことであった。

こちらの世界で【女神】の存在が広く認識されればこの世界でも自らの

その力を行使できるようになる。

力が行使できるようになれば少年の旅路を少しでも支えることが

できるようになるだろう。

そして、いずれはこの世界にも干渉できるようになるだろう。

それはこの世界を救うためのスタートラインでもあるのだ。


力を失っている間の【女神】は気が気ではなかった。

今は自らの力の回復に専念すべきなのだとわかってはいても

自らが認識していない間にも少年が力尽きてしまうのではないか?

悪い想像は【女神】の心を容赦なく傷つけ、もはや狂いそうになるほど

焦燥感は力の回復を遅らせた。

この世界を見ることが出来るようになる程度の力を取り戻し、

自らの力の気配を探して少し頼りがいのある顔つきになった

少年をようやく見つけて【女神】は心底安堵し涙した。


『もう少し回復すれば夢の中でならきっとお話できるでしょう』


そうなったら、自分が見られていなかった間の少年の冒険譚を聞いてみよう。

きっとあの少年は少しはにかみながらも話してくれるだろう。

ここまでの旅路で、もしかしたら既に辛い思いもしたのかも知れない。

それでもしっかりと前を向いて歩いてきたその大冒険を話してもらうのが

本当に待ち遠しい。

きっと後から送り出した小さい存在たちも少年を必死に支えたのであろう。


だが少年の近くにその後に送り出した小さい存在たちが見当たらないことに

ようやく気が付いた。


『わ、私はまた失敗してしまったのでしょうか・・・?』


少年にその表情には全くの陰りを感じさせない。

もし、ここまでの旅路であの者たちとの別離を味わったなら

あの純粋な少年ならそんなことはできはしないだろう。

悲嘆と憤怒との表情を浮かべ、そして私を恨んでいたとしてもおかしくはない。

でもそんなことは微塵も感じさせない。

では、あの小さき者たちは?

まさか主に出会う間もなく力尽き、そのために少年は何も知らずにいるから

今笑っていられるのだろうか?

狼狽しながら【女神】はその世界で自らの力を持つ者の気配を探った。

僅かだが二つの気配は感じられる。だがそれは少年のはるかはるか遠くにだ。


気配を感じられたことには安堵したが、どうしてこんなにも遠いのだろう??

それを確かめたかったが、ほんの少ししか力を取り戻せていない

【女神】はそれをするにはまだ力が足りなかった。

小さき存在たちは少年と比べれば分け与えた力が圧倒的に少ない。

その僅かな気配をこの世界で探し出そうとすれば、きっとまた大きく力を

使ってしまう。

そうなれば少年を再び見つけることができなくなってしまうかもしれない。

今、ようやく見つけた少年から目を離すことは憚られた。


『もう少し力を取り戻せたなら・・・』

『きっと、きっと私も皆を守ることができます・・・』


どうか、今は無事でありますようにと願い、小さき者たちへの気懸かりは

あれど【女神】は少年の旅路を見守り続けることにした。

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