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13.【犬】と【海】

猫は眩しそうに木陰から海を眺めていた。

太陽は眩しく、打ち寄せる波はキラキラと光り、

穏やかな潮風は猫のひげをゆっくりと揺らしていた。

犬は初めて見る海に大はしゃぎし、波打ち際で

引いてゆく波を追いかけては押し寄せてくる波から

逃げるを繰り返していた。

その穏やかな海の午後は2匹にとっても楽しい時間だったに違いない。

主人の気配がその波のはるか向こう側に見える陸地の方に無ければ。


猫は無駄と知りつつ犬に『あんた、泳げるかい?』と聞こうとして

予想外の大波に巻き込まれてキャンキャン鳴きながら自らの方へ

助けを求めて走ってくる犬の姿を見て聞くのもやめた。


『どうしたもんかねぇ・・・』


ここにたどり着くまで何度か人の住む大小の街を見かけた。

とはいえ、特に装備の補充や宿を必要としない2匹は

人の街などに用は無かったし、そもそも片や猛獣サイズ

となった動物が人の住む街に入ること自体が自分たちに

不利益しか生まないことは予想ができた。

もしかしたらフカフカの寝床は欲していたかもしれないが

猫としては大きくなった犬がその役目だったし、

犬としてもこちらの世界にきてからはどこでも寝れたし、

今は家族という群れの仲間が傍らにいるので気にもしなかった。


あの辺の街から船でも出ているのだろうか?

出てたとしても、渡し賃などは2匹は持っていなかった。

そもそも、この世界にも金銭の概念があるかどうかすら

猫にはわからなかったし、犬には元々それがわかるはずがなかった。

何とか交渉するとしても、猫はこの世界で人に自分がどう映るのかは

わからなかったし、何よりこの世界でもニンゲンとの会話は

なるべく避けたかった。

いずれにせよ、船に猛獣を乗せてと頼むのは流石にハードルが

高すぎるだろう。


とりあえず、いつまでもここにいても仕方ない。

街の方にとりあえず戻ってみるかと考えていると

ブルブルと水を弾き飛ばしていた犬が何かに

気づいたように猫を呼んだ。


『ん?獲物かい?』


猫より優れた犬の嗅覚はどうやら獲物を見つけたようだ。

犬は猫が先生となってようやく魔力を抑制することを学んだ。

狂おしいほどの飢餓感からは解放されたが、それにしたって

お腹はすくものだ。

猫が犬の頭に飛び乗ると犬は獲物のニオイを追って走り出した。


ダンジョンの入り口が見えた。獲物はそこだろう。

都合よく向こうの陸地に繋がってしやいないかと猫は

考えたがその入り口の方向からして可能性は低そうだ。

中にいた海獣の魔獣を仕留めたところで今度は猫が

その優れた聴覚で遠くに何かを聞きつけたようだった。


それはダンジョンの更に奥にいた冒険者たちの会話だった。

耳を澄ませば魔物を倒し、冒険を終えたところでこれからのことを

話しあっている声が聞こえた。

それは魔素の相場の話でどっちの大陸で売った方が得かを話し合っていた。

向こうの大陸の方に大きな都市があるようで、普段は魔素の相場が

こちらより格段に良いが今はそこまで良くないらしい。

それはどうやら【女神】とかいう存在から遣わされたという子供が

強い魔物を倒しまくっているため魔素が普段より過剰供給にあるらしい。

無事が知れて心底安堵したが、そのまま放っておくと海獣を犬が遠慮なく

すべて食らいつくしそうで心配だったので食べながら聞き耳を立てた。


「とはいえ、流石に向こうの方が高く売れるんじゃねーか?」

「最近は海も魔獣だらけみたいだし、高く売れても運賃引かれると考えるとなると・・・」

「北のダンジョンを進むと向こうに着けるそうだぜ?」


彼らは冗談を言い合っているだけかもしれないが

その話に『ほ~ぅ?』と思わなくも無かった。

どうやら希望が見えてきたじゃないか。


恐らく彼らがここに戻って来るまでまだ時間はあるだろう。

猫は今は食事に集中することにした。

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