母の愚痴
母は毎日酒を飲む。
酒を飲むと、必ず私に絡んでくる。
毎回同じことが起きるのに、毎日絡んでくるのだ。
お前が退院して帰ってきた日の夜、夜中に小さな子供の大きな鳴き声で目が覚めて、いつも窓いっぱいに大きな顔があった
お姉ちゃんも妹も死んだのは私やお父さんのせいじゃなくて、全部お前のせいだ、お前が殺したくせになんで私が怖い思いをしなきゃならないのよ
だいたいこの辺りで最初に物を投げられる。
ボールペンを投げられたときは左目に刺さって血が流れていたのに指を指されてザマァ見ろ!と笑っていた。
お父さんのお義母さんも、お前を気持ち悪い!化物って怖がってしまったから金を出さなくなった!
金をたくさん持ってたのにお前のせいで!
お父さんが壊れたのだってお前のせい!
この辺りで2度目の物を投げるタイミング。
けれどいつもそのタイミングになると不思議なことが起きていた。
お前さえいなければ良かったのに!お前が死んでいれば何も起きなかったのに!お前のせいで何回も幽霊が出るし変な音がするし物が動くしどうすんのよー!
そう叫ぶとだいたい本当にバチン!というような音が鳴り始める。
そうなると母は怯え始める。
ほら!また始まった!お前のせいで!
タンスの上にあった人形が落ちる、テーブルの上にあったビールの入っていたコップが倒れる、テレビのチャンネルが勝手にコロコロと切り替わる。
そうなるともう言葉として聞き取れない何かを言いながら、母は私をご飯を食べていた部屋から蹴って追い出し始めるので、私は自分の部屋に逃げ込んだ。
私がそれをやっているわけではない。
ただ、なんとなく(もう平気だから怒らないで!)と心の中で必死に訴えると現象は止まるようだった。
私自身も姉妹が死んだのは私のせいなのだという気持ちがあるので、母のその怒りを受け入れるしかなかった。
養父は最初は悲鳴を上げて怖がっていたけれど、割とすぐに慣れていたようだった。
自分に被害がないし俺には関係ない、とのことだった。
こういった霊現象は妹が死んで私が退院してから毎日のように起きるようになっていたので、祖父母の家で暮らしていたときに色々と教えてくれた神社のお爺さんに言われたお経を小声で言っていた。
ごめんなさい、という気持ちで。
ただ、祖父母の家にいた頃はそういう霊現象は起きなかった。
幽霊を見ることはあったものの、私を攻撃する人がいなかったからなのか?
私の事を怒っているのではないのか…
神社のお爺さんは、私の中に私のを含めて3つの魂があるから大切にしないといけないよと言っていた。
あまり意味がわからなかったけれど、二人のことは忘れず毎日読経をしていた。
母の言うように私さえ生まれなければ、二人は普通に生きていたのだろうか…
これは今も分からない。
中学に入学する少し前に、母と養父は仕事で他県へと引っ越していった。
愚痴を聞くことがなくなったのは、正直ほっとした。
一人になれて自由が来たと思った。
そんなわけないのに。