母親との再出発
数年ぶりのある日の夜、全く連絡がなかった母から電話があった。
電話を取った祖母が怒りながら興奮して話していた。
暫くすると、母からの電話だと教えられ電話を変わるかと聞かれた。
私は、やはり母が恋しかった。
いつも遊んでくれていたのは父だったが、愛されてはいると思っていたんだと思う。
求めていたのだと。
ドキドキしながら電話を変わるものの、モジモジとうまく言葉が出ない。
そんな私に母は言った。
「母さんと一緒に暮らさない?迎えにはいけないけど来れるよね?お前の部屋もちゃんと用意してあるんよ」
断るわけがなかった、会いたかった、寂しかった、待っていた、求められるのを、迎えられるのを。
断ればよかったのに…なんて事は今だから分かる事だけれど、その時にその判断なんて出来るわけもなかった。
早く行きたいすぐに行く!と最高の笑顔で答えていたと思う。
祖父母は複雑な気持ちだっただろうな…
飛行機で飛んで空港に着いて、しばらくタクシーに乗った所に母は住んでいた。
私は、一ヶ月後には母の元へと行った。
最初の一週間は、少しよそよそしくもあったが段々と慣れて普通に話が出来るようになってきた。
学校にも通いだし、友達も出来て落ち着きだしていた。
それと同時に毎日家に来る男の人がいた。
古い長屋のようなその家は、私の部屋と母の部屋の2つ。
ふすま一枚で隔たれているだけだった。
毎晩のように母と男の人の声が聞こえる。
最初は母の苦しそうな声を聞いていて、虐められているのだと思い、ふすまを思い切り開けてしまった。
裸の二人がそこにいた、母に怒鳴られた。
母が好きで見ていたサスペンスドラマの中によく出てきた場面と同じだった。
その場面になると蹴られて外に行けと言われたシーン。
そのおかげ、というのも何だけれど虐めではない事を理解するのにそう時間はかからなかった。
家に来る男の人は二人いた。
二人が同時に来ることはなかった。
もう一人の男の人は時々しか来なかった。
一年ほどして、二人のうちの毎日のように来ていた男の人には奥さんと子供がいるんだと母が酔って愚痴をこぼした。
不倫なんて知識がなかった私は、ふぅんとしか思わなかった。
母がその相手の奥さんに電話して、私に喋るように受話器を渡してきて、いつもありがとうございますと言わされていた。
妻子ある男の人は、私にもケーキや本を買ってきてくれたり楽しい話しをしてくれたのでわりと懐いていた。
父がいたらこんな感じなのかもと、時々思ったこともあった。
もう一人の男の人は私が寝たあとに来る事が多く、起きているときに来ていても、ふすまは閉められたままだったので滅多に顔を合わさなかった。
夜中にトイレで起きた時に鉢合わせても、挨拶すらしなかった。
ただ、いつも裸だなパンツくらい履けばいいのに恥ずかしくないのかななんて思っていたくらいだった。
6年生の中頃から、毎日のように来ていた妻子ある男の人は来なくなってしまった。
どうして来ないのか、大好きなおじちゃんだから会いたいと母に言うと殴られた。
別れたのかもしれない。
そんな暮らしの中、小学校の卒業式を迎えた。