ガンギマリおじさん
「おっほほい! おっほほい!」
と、おれこと綾小路長治は狂っていた。
「そこの女子よ、おれとおっほほいしないか!?」
大都会のスクランブル交差点で頭がおかしいことを言っているのはおれで間違いない。
「え、気持ち悪っ」
気持ち悪いって言われてもおれは折れない。なぜならもう折れてしまっているから、おれはもう挫折なんてしない。
「おほおぉぉぉぉ!」おれの叫びだ。
みんなおれを見ている。通りすがりでもなんでもいいんだ、みんなおれを見ている。
見られていて気持ちいか? そりゃあおれはキメまくっているおじさんだから気持ちいに決まっているだろう。
「ヤバいヤバいって」と女子はおれから逃げるように去っていった。
まあいい、女子にこの薬は早い。
「そこの男子よ、話を聞いてくれないか?」とおれは暗い表情で歩く男子に指をさした。
「え、おれですか?」
「そう、君だ君! ちょっと来い! こっちに良い物があるんだ!」
そう言っておれは袋に入っている白い粉をポケットから取り出した。
「え!? それって……」
驚いている男子は逃げようとしない。
これは良い反応だ。
「これはガンギマリンと言ってだな! 吸うと世の中悪くないって思えてくる白い粉だ」
「マジっすか!」
「ああ、マジだ」
マジマジ、吸うとどうでもよくなるから。たばこなんかの比じゃない、最高だよ。
「少し吸ってみたいです! おれ最近職を無くしちゃって、世の中残酷だなって思っていたところなんです。世の中良い事無くて……もう、最底辺に落ちちゃって」男は身の上話をしてきた。
うむ、NPCみたいな男子にも声をかけてみるものだな。最底辺から最底辺へ落ちることなんて造作もないだろう。
「そうだったのか……若いのに苦労しとるんだな」
「それで、いくらくらいなんですか? その薬」
「おお、これか。無料でいいぞ」
この薬はもうおれには必要ないからない。
「マジか! やった!」
とおれの目の前の男子は薬を受け取った。
「また必要になったらおれに話しかけてくれ、電話番号はこれだ」
「あの! ありがとうございます!」
どれどれ、次にこの薬が必要な若者を探しに行くとするか。
「おほおぉぉぉぉ!」
野獣のようなおれの叫びは夜の空に打ちあがった。
「おほおぉぉぉ!」
と、おれの声ではない新鮮な声が増えた。
まったく、仕事が多い世の中になったものだ。