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箱庭のエリシオン ~ゲームの世界に転移したら美少女二人が迫ってくるんだが?~  作者: ゆさま
ファンタジーな異世界に召喚されたら銀髪美少女が迫ってくるんだが?

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異世界の勇者

 俺とセフィリアを包んでいた光が徐々に弱まり、周りが見えるようになった。


 先程までは路上にいたはずなのに、どこかの屋内にいた。


 やはり、どこかに転移させられたのか。


 俺は抱き上げているセフィリアをおろして周囲を見回した。


 かなり広い部屋だ。外からの光は入ってこないが、壁には揺らめくオレンジ色の光を放つ何かがいくつも付いていて、この部屋を照らしている。おそらく魔法だろう。


 俺達の立っている場所は、部屋のほぼ中央付近だ。足元を見ると、わずかに光る魔法陣がある。壁際には複数の人が立っていて、剣と鎧を装備している。もろにファンタジーな世界感だ。


 白を基調とした鎧をまとった、青い髪の女性が近づいて来て俺達に声を掛けてきた。かなりの美人で、セフィリアに匹敵するほどだ。年は俺達と変わらないように見える。


「異世界の勇者様。我々に力を貸してください」


 ベッタベタの展開キター! 俺のテンションがついつい上がってしまう。でも、ちょっと待て。システムアシストって、ファンタジーな異世界の言葉も通訳できるのか? 俺が考えると、アシストさんが答えてくれた。 


「データベースに存在しない言語です。アシストは翻訳をしていません。対象と意思疎通をさせるための魔法が魔法陣に組み込まれていたと考えられます」


「なお、この空間には転移ゲートが開通していないため、自力で元の世界に戻れません。また、エルピスのサーバーと切断されたせいで、アイテムストレージの使用及び元の世界との通信は出来ません」


 なんてこった。俺が無言で困惑していると、女性は続ける。


「ここは女王テルシオーネ様の治める国、アイラスタニアです。突然こんなところに召喚されて戸惑っているのですね」


 女王に王国か。俺は黙って彼女の様子を観察している。


「私は、聖竜騎士団長のレハタナ=エッディコートです。あなた達のお名前を教えて頂けますか?」


「樹です」


「セフィリアよ」


 俺はレハタナと名乗る女性の話を聞きながら、探索能力を全開にして周囲を探った。


 どうやらここは、高層ビルみたいな高い建物の内部のようだ。


 ファンタジーな雰囲気に合わせて言うなら塔だろうな。この部屋の壁、天井、床はかなりの魔力が込められていて、ちょっと本気を出さないと破壊できないだろう。


 周りにいる人々はおそらく騎士団とやらの騎士達だろう。帯剣しており立ち姿に隙が無く、魂力は低い者でも3万以上はありそうだ。


 レハタナさんの魂力は8~9万程度か。能力が分からないし、騎士団長と名乗るからには、この世界では上位の強さなのだろう。


 他にも何人かは7万以上の魂力の奴がいるし、正面から戦闘するのは極力避けたい。


 とりあえず、敵意は無さそうなので話を聞くことにした。


「力を貸すって、何をすればいいんですか? 魔王を倒したりとか?」


「魔王? 何のことかは分かりませんが、とある相手と戦い勝って欲しいという部分は合っています。詳しくは我らの女王より直接説明を受けて下さい」


 レハタナさんが何かの呪文を唱えると、俺達の目の前に巨大なディスプレイのような物が現れ、女性の姿が映し出された。


「私は、アイラスタニア王国の女王、テルシオーネです。異世界の勇者よ、私の願いを聞いて下さい」


「願い、ですか?」


 俺が女王の言葉を復唱して質問すると、女王は頷いて続ける。


「隣国、グレンガルド王国に召喚された勇者と戦って、勝って欲しいのです」


「え、戦争するのは嫌だな」


「民を巻き込んで戦争する訳ではありません。正々堂々と試合をするのです」


「なんでまたそんなことを? このレハタナさんとか、すごく強そうだから戦わせればいいのに」


「それでは駄目です。アイラスタニアと、グレンガルドは昔から競い合っておりまして……。今回は禁呪を使って、どちらが強い勇者を召喚できるか勝負をしているのです」


「うわー、下らない」


「貴様! 女王様に無礼だぞ!!」


 俺が思わず溢してしまった言葉が気に入らなかったのか、部屋にいる魂力の高そうなおじさん騎士が横から怒声を上げた。すると女王は「良い」と、おじさんを窘め話を進めた。


「異世界の勇者よ。もし、勝てたのならどんな褒美も望みのままとらせます」


「うーん、いらないから元の世界に帰して」


 女王は目を伏せて首を横に振りながら「それは……無理です」と答えた。


 げっ、もう陽那と結月とアサカに会えないとか? もしそうなら、俺、暴れちゃうよ。するとアシストさんが答える。


「どんな異空間へ転移させられても、この端末を所持していればエルピスにある設備からは捕捉できます」


「また、転移ゲートを開通してこの世界まで迎えに来ることも可能です。通常1~2時間程度で開通できますが、時間の流れの速さが異なっていた場合は、この世界での時間でどれだけかかるかは現状では予測できません」


「時間の流れの速さを含め、この世界の情報を現在解析しています」


 時間の流れの速さか、アシストさん解析よろしく。それにしても……、またも面倒なことになったと思い俺はため息を漏らした。


「困ったなぁ……」


 セフィリアが俺にそっと耳打ちをした。


「イツキ、私はエルピスにある観測施設で、いろんな異世界の時間の流れの違いを観測したことがあるけど、どんなに速くてもレジーナの1000倍を超えることはまず無いわ。だから、どんなに長くてもこの世界の時間で三カ月以内には社長が転移ゲートを開通して迎えに来てくれるはずよ」


「なるほど。もっと早く来てくれる可能性も……?」


「そうね、そっちの可能性の方が高いわ」


 ならば落ち着いて行動するか。それにしても、隣の国に召喚された勇者と試合か、どうしようかなぁ……。


「ちょっと考えてもいいですか?」


 俺は女王様に聞いてみた。すると、先ほど怒鳴っていたおじさんが再び吠える。


「若僧が! 囀りおって! 魔法で隷属させてやる!」


 そして、おじさんは何やら呪文を唱え魔法を放った。いくつもの鎖が大蛇のようにうねりながら、セフィリアに襲い掛かる。


 当然俺はセフィリアの前に出て、魔刃の斬撃を放って鎖を消し飛ばした。


「な……、この私の魔法を無詠唱で相殺しただと?」


 文化の違いだろうね。そもそも俺達は魔法を使うのに呪文なんて詠唱しないよ。


 しかし、セフィリアを攻撃したのは許せんな。俺はおじさんに対して魔力を開放してプレッシャーを叩きつけた。


「この子は俺の大切な人なんだけど、なに攻撃してるのかな?」


 おじさんは顔を引きつらせて後ずさりするも、頑張って声をはり上げる。


「この者を捕らえよ!」


 わらわらと、周囲の騎士が俺達に襲い掛かってくる。俺は魔刃のオーラで、セフィリアがいつも使っているような大剣を具現化してセフィリアに手渡した。


「ゴメン、交渉に失敗しちゃった」


「交渉する気なんてあったの? まぁいいわ。身に掛かる火の粉は振り払わないとね」


 セフィリアは呆れたように息を吐き、俺が手渡した大剣を受け取る。


 俺達は襲ってくる騎士達全員を軽く行動不能にした。


 レハタナさんと大声おじさんを含む七人の魂力の高い人達は、その場に立ったまま様子を伺っているようだ。そのうちの一人が剣を抜いて前に出て来た。


「私は赤竜騎士団の団長をしているキベリアスだ。君は腕にかなりの自信があるようだね。でも、こっちにもメンツがある。好き勝手されると困るんだよ」


 スマートな印象なイケメン騎士だ。魂力は7万以上はあるだろう。西洋風の片手剣を構えた様子から、それなりの実力者であることが窺える。


「勝手に知らない世界に呼び出した挙句、先に手を出して来たのはそっちだろ?」


「それでも……、女王陛下の前で騎士団が醜態をさらすわけにはいかない。悪いが捕縛させてもらう」


 キベリアスと名乗った男が俺に斬り掛かってくると、他の騎士団長と思われる魂力の高い騎士たちも一斉に攻撃を仕掛けてきた。


 俺は右手に魔刃の刀を、左手に氷の魔法を押し固めた刀を持って応じる。


 剣による斬撃や槍による刺突、弓矢、それに魔法が次々と俺に襲い掛かってくる。波状攻撃になってはいるが、陽那と結月とアサカの三人による連携攻撃と比べたらぬるい。


 魔力が混ざるわけでもないから、その瞬間の最適解と思える動作で一人ずつ行動不能にしていった。あの時の練習がこんなところで生かされるとはね。


 ほどなくして、六人の魂力の高い騎士たちを行動不能にした。レハタナさんは、厳しい表情をしながらもその場から動いていない。


「まさか、これほどの強者を召喚してしまったとは……」


「どうする? まだやるの?」


 俺がレハタナさんに問うと、彼女は剣を抜いて構えた。


「イツキさん、あなたの言い分も分かりますが、アイラスタニアに仇なすのなら容赦できません」


 あの剣、なんかヤバそうだな。ここは一旦逃げるか。


「こい、イシュタル」


 浅葱色の槍が現れ、俺はそれを握り締める。異世界でも問題なく呼べたな。周囲の気配を探り、人のいない方に向かってイシュタルを投擲した。


 イシュタルは部屋の壁をたやすく貫通し、そのまま何枚かの壁を破壊しつつ塔の外壁まで破壊することが出来た。俺はセフィリアを抱き上げ、レハタナさんを見た。


「仇なす気なんて無いよ。どう見ても正当防衛だと思うけど?」


 大気の支配者の能力を使って、外の光が入り込んでいる穴に向かって全速力で飛んだ。


 俺が開けた穴から、塔の外に飛び出ると眼下には街並みが広がっていて、この塔の横には立派な城が建っていた。美しい城だが、見とれているわけにもいかないか。


 俺はセフィリアを抱き上げたまま、その場から逃げることにした。


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