ドス黒いオーラ
やれやれ、緊張が緩んでどっと疲れが出た……。
ふと、ルイさんと戦う前に気になることを言っていたのを思い出した。
「そういえば、俺の固有スキルの能力に、女の子を惚れさせる力があるとか言ってませんでした?」
「ああ、それは嘘だ。樹の固有スキルにそんな能力は無い。樹が本気で向かってくるように、煽っていただけだ」
やはり嘘だったのか、良かった。と俺がホッとしていると、陽那が不満げに口をとがらせている。
「私が樹を好きになったのは、樹が固有スキルに目覚める前だったのを忘れたの?」
結月も眉間に皺を寄せて、不満をあらわにしている。
「私だってそうだよ。私が固有スキルの能力のせいで、樹を好きになったと思ったのなら、私のことを見くびっているよ」
「もちろん違うとは思ったよ。でも、もしそうだったらどうしようって少し思っただけ……」
「仮にその力のせいで、イツキを好きになったのだとしても、好きなものは好きなんだからどうでもいいよ!」
アサカは陽那や結月とは感じ方は異なるようだが、確かに俺を好きでいてくれるなら、能力がどうこうなどは、些細なことなのかもしれない。
陽那が頬を緩め、明るい表情に変わり俺に言う。
「ねぇねぇ、樹。それよりもさー、私のことを心の底から愛してるって、必死の形相で叫んでたよね?」
「な……、見てたの?」
俺が慌てふためいていると、結月も壁に複数設置してあるモニターを指差してニコニコと微笑んでいる。
「そこのモニターに全部映ってたよ。結月は誰にも渡さない! 俺とずっと一緒にいるんだ! って叫んでいたけど、これってプロポーズだよね?」
「うぅ……、それは、その……」
「アサカは俺の物だ! 俺と家族になるんだ! の方がプロポーズでしょ!? だって家族だよ、奥さんにしてくれるんでしょ?」
俺が恥ずかしさのあまり黙っていると、なぜかセフィリアも参加してくる。
「私はイツキに恋人になれって言われたわ」
あの、セフィリアさん……? なぜそんなに自慢げに胸を張ってドヤ顔してるんでしょうか?
陽那と結月とアサカは、半眼で俺にプレッシャーを放っている。陽那が代表して口を開いた。
「結局セフィリアを恋人にしてるしー」
「いや、ピルロークを押さえてもらうためにバフ目的で、一時的にだよ! もう解除するよ。アシストさん、セフィリアの恋人設定を解除して!」
俺のお願いに、音声アシストが淡々と答えた。
「対象に恋人設定の解除を通知します……、恋人設定の解除を拒否されました」
「え、なんで……?」とセフィリアを見た。
「私はまだイツキに借りを返せたと思っていないわ。返せるまでは戒めとして恋人として付き合ってあげるから」
「何それ? ちょっと意味わからないんだけど……。そもそも誘拐は狂言だったわけで、借りなんて無かったのでは?」
セフィリアは俺をキッと睨み語気を強める。
「三人も恋人がいるくせに細かいのよ! 今更一人増えたところで何も問題ないでしょ!」
陽那と結月とアサカは声をそろえて「うわ、セフィリアがデレた」と、ボソッと呟くと、セフィリアは「デレてないし!」と即座に反論した。
美少女四人からのプレッシャーが少しづつ強くなっている気がする。
コレ、どうしたらいいんだ? と意識を飛ばし虚空を眺めていると、ルイさんが口を開いた。
「さて、今後のことを相談したいのだが、いいか?」
ナイス助け舟! 俺は即座に返事をした。
「はい、いいです! お願いします!」
普段ならいつまでも見つめていたい程の美少女達だが、今は怖くて彼女たちに視線を向けることはできない。さあ早く今後の話とやらを始めてもらおうか。
「私は世界を征服したいわけでもなければ、世界の秩序を守る正義の味方というわけでもない。今後も興味の湧いたものを研究していくつもりだ。言うなれば、知識欲という欲望を満たすことを望んでいる」
「だが、私の研究の成果を製品として世の中に出すことで、この星の経済や軍事力の均衡を崩してしまい、私に敵意を持つ勢力を作ってしまった。その結果として、私自身に跳ね返ってきたのも事実だ。裏でピルロークがうまく立ち回ってくれていた事には感謝している」
ピルロークは嬉しそうにウンウンと頷いている。それを無視して、ルイさんは続ける。
「今後は、ピルロークに意図的に新技術を流出させてもらい、世界の経済や軍事力の均衡を取りつつ、私は好きなことをやろうと思っている」
この人は、ぶれないな……。
「なので、君達にはエルピスとパンドラが、裏でつながっていることを誰にも漏らさないで欲しい。この事を知っているのは、ここにいる者だけだ。パンドラの連中は幹部含めピルローク以外の者は誰も知らないし、エルピスも誰にも知らせてはいない」
「……分かりました」
「それと、今後はアサカが強力な魂力の持ち主であることを公表し、副社長に就任してもらう。セフィリアと共にエルピスの副社長として仕事をこなしてほしい」
「げ……。でも、いつまでも何もしないで遊んでばかりいるわけにもいかないか……」
アサカは、嫌そうに顔を引きつらせたものの、すぐに納得したみたいだった。
「セフィリアは仕事の負担が減るが、空いた時間は樹に師事し、固有スキルを支配者クラスに成長させることと、陽那と結月とアサカのように、樹と魔力を混ぜて固有武器を作成してくれ」
「はい、承知しました!」
セフィリアはピシッとルイさんに礼をした後、俺の方を向いて「よろしくね! イツキ」と素敵な笑顔を見せて頭を軽く下げた。
今までのツンツンした雰囲気からは想像もできない程の可愛さだ。心臓をわしづかみにされたのでは? と思うほど俺の心臓がギュっと収縮する。
直後、不穏なプレッシャーを感じ陽那、結月、アサカの顔を見る。三人とも口元は笑っているが、目は笑っていない。怖い、怖すぎる……。
ここで流れに飲まれると、後が大変だ。俺の意見をハッキリ言わなければ!
「ルイさん、セフィリアが俺達と一緒に鍛錬するのはいいんですけど、セフィリアと魔力を混ぜて武器を作るのは困るというか……」
ルイさんは、ニタリと嫌らしい笑みを浮かべている。
「樹はセフィリアを指導するのが嫌なのか?」
すると、セフィリアは顔を悲しそうに曇らせて、俺の腕にすがる。う……セフィリアの顔が近い。
「イツキ、今まであなたを見下すような態度をしてごめんなさい。今後は師として敬うから指導して!」
「そんなの気にしてないよ! 今まで通りでいいよ! でも固有武器を作るためには魔力を混ぜないといけなくて、そうすると、その、言いにくいんだけど……」
「分かっているわ! とても厳しい鍛錬を積まないと、魔力は混ぜられないんでしょ? 私、どんな鍛錬でもこなしてみせるから、お願い! イツキ」
俺が問題視しているのは、そこじゃないんだよね……。しかし、必死にお願いするセフィリアの顔、ヤバイ、可愛すぎる。
セフィリアの可愛さに、つい見とれてしまった。俺が硬直していると、再び重いプレッシャーが俺を突き刺してくる。
ハッと我に返り陽那、結月、アサカの方を見ると、三人の美少女が微笑みながらドス黒いオーラを放っている。再び陽那が代表して口を開く。
「樹、後で反省会だね♡」
「……はい」
くっ、俺の頑張りは無駄だったようだ。




