小話
ルイとピルロークの策略で、転移させられた後のヒロイン三人の様子です。
誘拐されたセフィリア奪還のために、ピルロークと対峙する樹達四人だったが、陽那、結月、アサカはピルロークのトラップによって強制的に転移させられてしまった。
三人が転移した先は、箱庭にあるログハウスのリビングによく似た雰囲気の部屋だった。
そこにはルイが立っており、状況を飲み込めず戸惑う三人に説明を始めた。
「三人ともすまないね。実はセフィリア誘拐は狂言だよ」
その一言で、今回の一件が全てルイの悪巧みをであることを三人は瞬時に理解した。
彼女達は渋々ではあるが、ルイの説明を聞くことにした。
「私はどうしても本気の樹と戦いたくてね。そのために色々と小細工をさせてもらった。ちなみにピルロークとは既に和解していて協力関係にある」
三人とも脱力して「はぁ」と深くため息をつきつつ、ソファーにどさりと体を預けた。
「でも、イツキを騙したら悪いよ」
アサカが言うと、ルイはニヤリと笑う。
「本気の樹と戦うために、樹を煽ろうと思っているのだが、その流れで君達をどう思っているのかを聞いてあげよう。もしかすると、君達の中で誰を一番愛しているのかポロッと言うかもしれないな」
「面白そう!」「聞きたい!」「気になる!」
三人は喜々として声をあげた。これもルイにとっては予定通りだったのだろう。
「満場一致だな。私はタイミングを見て、樹の前に姿を現して戦ってくるから、君達はお茶でもしているといい。樹の様子はそこのモニターに映し出されるから、ゆっくりと楽しんでくれ」
ルイ、陽那、結月、アサカの四人はソファーに座って、菓子をつまみながらモニター越しに樹を眺めている。
モニターには、三人を取り戻そうと必死になっている樹の姿がある。
行く手を阻むシェイドとリヒトとダロスに対しては、怒りに任せて魔力を解放させるだけで戦意を喪失させた。
その様子を見ている陽那は、恍惚とした表情で言葉を漏らす。
「樹もあんな顔して怒るんだね。胸の奥がキュンってくる」
結月は緩んだ表情で、声も出さずにモニターを見入っている。
アサカは見惚れながらモジモジしている。
「あぁ、イツキがあんな風に私のために怒ってくれてる……。濡れるわ……」
三人とも、樹の普段とは違う様子を見て興奮していた。
一方で、ルイの思惑通りに樹は動き、ピルロークと対峙した。
二人はいくつか言葉を交わすが、焦れた樹が普段は絶対に見せないような剣幕で怒鳴った。
「今すぐ返せ! さもなければ斬る!!」
刀の切っ先をピルロークに向けて、プレッシャーを叩きつけている姿がモニターに映し出された。
ピルロークが樹の威圧を受けて怯んでいるのは、誰の目にも明らかだ。ルイはその様子を見て楽しそうに「いいね、やはり樹は面白い」と呟いている。
ピルロークは踏ん張って、事前に用意していたと思われるセリフを言った。
「クッ、この私ですら思わず怯んでしまうほどの凄まじい覇気だな。まあ、そう怒らないでくれ。君と戦いたいというゲストを一人招待しているんだよ」
ルイはスッと立ち上がると、転移ゲートを出現させる。
「そろそろ私の出番だ。行ってくるよ」
ルイはそう言うと、手のひらを三人に向け軽く振って、樹と戦うために転移して行った。