混ざれ
ルイさんは、魔力を紫色のオーラに変化させて収束し、刀の形に押し固めた。
武器の具現化……。
やはり、ルイさんは支配者クラスの固有スキルだったのか。魔力をオーラに変えたときの色は、個人差なのかな? まぁどうでもいいけど。
ここで負ければ、俺は殺され、陽那、結月、アサカの三人を守ることも出来なくなる。
……絶対に、勝つ。
俺は地面を蹴って、ルイさんに斬りかかった。
ルイさんは、表情を変えずに紫色の刀で俺の青い刀を止めた。
高密度の魔力が勢いよくぶつかることで、周囲に衝撃波が走っていく。互いに高速で剣戟を繰り出すごとに発生する衝撃波は闘技場を徐々に破壊していく。
近くでセフィリアがピルロークと戦っているはずだが、俺はルイさんとの勝負で一杯なので、セフィリアは自力で何とかして欲しいところだ。
ルイさんの鋭い斬撃が、俺の頬をかすめた。
「どうした、こんなものではないだろう? セフィリアが気になって全力で戦えないのか?」
俺がセフィリアを気にかけていることを見抜かれたか。ならば、気にならなくなるまでセフィリアから離れて戦えばいいだけだ。
「何でもお見通しなんですね」
俺は魔刃のオーラをより強く刀に込めて、下段から切り上げた。
ルイさんは即座に刀で受けたものの、勢いを止めきれずに空中に跳ね上げられた。
俺は刀を槍に変化させて、水と風魔法を練り上げた渦を槍に纏わせ突き出した。放たれた渦は竜巻となってルイさんに命中し、さらに遠くへ跳ね飛ばした。
俺は大気を操作して空気抵抗を無くし、尚且つ魔刃のオーラで全身を覆って高速移動で追いかける。
吹き飛んでいくルイさんに追いつくと、槍を再び刀に変化させて、青いオーラが吹き出す刀を叩きつけた。
ルイさんは勢いよく落下していき、地面に激突した。土煙が上がりどうなっているかは肉眼では見えない。
すぐさま、俺は空を覆うほどの大きな火球を作り、刀の形に圧縮して地表に向かって放った。大爆発が起こり、見下ろしている地面一帯が火柱に飲まれる。
連続して魔力を放出したが、さほど疲れないな。魂力が上がっているからなのか。さて、ルイさんは、かすり傷くらいはしているだろうか?
煙が晴れ地表の様子が見えてくる。抉れた地面は高熱でドロドロに溶けている。
まるで火口のように見えるクレーターの中央で、ルイさんは宙に浮いていた。
「先ほどの攻撃は中々良かった。私の服が燃えてしまったよ」
燃えたと言っても、スーツが少々焦げただけで、相変わらず余裕たっぷりだ。そういえば、前にもこんなやり取りをしたことがあるな。
ルイさんの手に持っている刀から感じるプレッシャーが、大きく増している。あれは、まさか……。
ルイさんはスーッと俺と同じ高度まで昇ってきて、右手に握る紫檀色に光る刀を俺に見せつけるように突き出した。
「私とピルロークの魔力を混ぜて作った刀『ピュクシス』だ」
「魔力を混ぜて武器を作っていたんですね」
「私とピルロークは同じ系統の固有スキルを所持している。しかし、君達のように簡単には魔力を混ぜることはできなかった。色々と苦労はしたが、こうして君に対抗しうる武器を手に入れることが出来た。魂力を魔導器でブーストしないと、使いこなせないのが玉に瑕だがね」
紫檀色の刀を俺に向けて軽く振るう。放たれた斬撃が俺の障壁を軽く切り裂き、さらには全身に纏っている魔刃のオーラも貫いて、俺の肩に傷を付けた。俺は落ち着いて傷を治癒し障壁に魔力を込めて修復した。
「さあ、君も固有武器を出したらどうだ? もっとも、魂力をブーストする魔導器は貸さないけどね」
言われるまま、俺は固有武器を呼び出した。
「天照、月影、イシュタル、来い」
三振りの圧倒的な魔力密度を持った武器が、俺の目の前に現れた。ルイさんは、それを見て鼻で笑う。
「ハッタリは私には通用しないよ。それらの武器は、たった一つだけでも制御しきれないだろう? 三つも呼んでどうする気だ?」
俺はルイさんの言葉を聞き流して「混ざれ」と発した。
その瞬間、三振りの武器は融合して、一本の金色の刀になった。俺は魔刃の青い刀を消して、その金色の刀を握った。
「ほう、そんなことが出来るのか。君には驚かされてばかりだな。だがそれほどの強力な魔力密度の武器なら、なおさら君の手には負えまい。私ごとこの辺り一帯を消し飛ばすつもりか?」
初めてルイさんが、俺のことを読み切れていないという事実を実感して、嬉しくなった。こみ上げてくる笑みを押さえきれずに、俺の表情は綻んでいるだろう。
「まさか、そんなことしませんよ。……コレ、制御、できるんですよ」
ルイさんの作ったシステムに頼らない、システムに知られていない、俺の切り札。自前の能力による魂力ブースト。
このために俺の魂のリソースとやらの一部に、暇さえあれば魔力を圧縮して蓄えていた。ただしこれを使うとすぐにバテるから、早く勝負を決めないといけない。
「受けて下さい、お望み通りの俺の全力、いきますよ。そして……俺が勝つ」
そこからは、一方的だった。弱い者いじめともいえる程のパワー差だ。
一振りでルイさんの障壁を木っ端微塵にして、二振りでルイさんとピルロークの魔力を混ぜて作ったという紫檀色の刀、ピュクシスを粉砕した。ついでに魂力をブーストしている魔導器も破壊しておいた。
俺を殺そうとしているとはいえ、ルイさんを殺す気にはなれないので、致命傷にならないように加減をして刀を振るった。
地に伏したルイさんに歩み寄る。女性に暴力を振るったみたいで気分は悪い。
「すいません。やりすぎましたね」
「甘いな。私は樹を殺すとまで言ったんだぞ。止めを刺すのが嫌でも、得意の土魔法での拘束は、しなくてもいいのか?」
「……魂力ブーストの魔導器の副作用もあるだろうし、しばらくはまともに動けないですよね?」
ルイさんは、少しの間目を閉じた。目を開くとふぅと息を吐き話し出した。
「……私がシステムアシストを通して、樹を観察していたことに気が付いていたんだな。だから最近は、システムアシストをオフにして鍛錬していたのか」
「なんとなくだけど、俺はいつかルイさんと戦うことになるかもしれないって思ってた。だからシステムを介さない能力を準備しておいたんですよ。俺の手の内はスマホによってルイさんに筒抜けなはずだから」
「フッ、やはり樹は聡いな。私の完敗だよ」
「ならあの三人は返してもらいますね」
俺は闘技場まで急いで戻った。ピルロークとセフィリアがまだ戦っていたので、俺はピルロークを金色の刀を鞘に納めたままぶん殴って、ぶっ飛ばしてやった。
男をぶっ飛ばすのに遠慮はいらないからな。まぁ死んだりはしないだろう。
「セフィリア無事か?」
「たった一撃であいつを倒すなんて……。それにその金色の刀……。あなたの強さは一体どうなっているの?」
「うん、無事みたいだね。じゃ、俺は陽那と結月とアサカが心配だから行くね!」
「ちょっと、待ちなさい!」
セフィリアが何かを言っているが、俺は無視して客席にある転移ゲートに飛び込んだ。




