何でここに?
転移先は荒地だった。雑草がまばらに生えている殺風景な場所だ。ところどころにクレーター状の窪みや、亀裂などがある。陽那達が戦闘した後なのか? いや……、彼女たちが戦闘したならこの程度では済まないか……。
男が三人立っている。シェイドとリヒトとダロスだな。シェイドは無駄に大きな声で俺に向かって怒鳴る。
「イツキ! 今日こそはお前を地獄に叩き落してやるぜ!」
リヒトが無駄に格好を付けながら髪をかき上げた。
「ここは、我がパンドラの魔導機兵の性能試験を行う所です。ここなら私の力を存分に発揮できます。覚悟して下さい」
ダロスが無駄に巨大な斧を肩に担いで、下卑た笑みを受かべている。
「イツキ! ここで決着をつけてやる!」
いつものように飽きもせず戯言をのたまう三人。まったくもって下らない。俺は怒りに任せて三人に思い切りプレッシャーを叩きつけた。
「お前らと遊んでやる気はない!! さっさと陽那と結月とアサカを返せ!!」
それだけで三人は膝から崩れ落ち、呼吸を荒げている。
俺は魔刃の刀を一振りして斬撃を飛ばし、三人の男達が立っている所のすぐ前の地面を切り裂き抉り取った。土煙が上がりパラパラと砂や石の破片などが降ってくる。
「陽那と結月とアサカはどこだ?」
男に遠慮してやることも無いので、思いっきり威圧して睨みつけてやった。三人はガクガク震えながら声も無く同じ方向を指差す。
その方向に視線をやると、いくつかの建物が連なって建っている。
セフィリアをチラリと見ると俺を真顔で見つめて、何かを呟いている。何か気に障っただろうか? でも怒られると時間がもったいないので知らん顔をして、その建物の方へ全速力で飛んだ。
* * *
――樹が猛スピードで飛んでいき、一人残されたセフィリア。
「なんて圧倒的な威圧感。まるで火山が爆発したかのような激しさだった。魂力9万を超えているというの本当だったのね」
セフィリアは先ほどの、魔導器を取り付けられた状態での樹との戦闘を思い返した。
「魔導器による動きは、私の全力そのものだった。にもかかわらず私の額に全く傷を付けずに正確に魔導器だけを破壊するなんて……。どれだけ技量に差があればそんなことができる? 以前、勝負したときは手加減していた?」
セフィリアは我が身を抱いて、その後の樹とのやり取りに考えを巡らせた。
「あの三人は俺が守ると言った時の、強い意志を宿した瞳……。この前とは別人のようね……」
「私よりも……強い男、か」
そう呟くと、彼女は樹を追って、全速力で飛び立った。
* * *
俺が建物の立ち並んでいるところまで着くと、セフィリアは付いてきていなかった。
どうしよう、置いて行くのも悪いよな。早く助けに行きたいのになぁ……、少し悩んでいると、セフィリアが到着した。息を切らしているが、飛ぶのは苦手なのかな?
「いきなり異常な速度で飛んで行かないでよ!」
やっぱり怒られたので、俺は素知らぬ顔でスタスタと歩き出す。
「また今度、暇なときに速く飛ぶコツを教えてあげるよ」
「そんなことを言ってるんじゃないわよ! あっ、コラ、待ちなさい!!」
この子は本当にいつも怒っているよな。せっかく人並外れて美人なのにもったいない。
何か言うとまた怒られて時間が掛かりそうなので、俺は辺りを見回しながら建物の並んでいる敷地に入り進んでいく。
敷地内は配線や太い配管が通路脇に設置されており建物同士をつないでいる。魔導機兵の製造工場だろうか?
ちょっとした町のようでもある。整備された通路を少し歩くと「歓迎! 樹君!!」の文字と矢印の描いてある看板がいくつか置いてあった。
ふざけてるな……。癪に障るが、俺は素直にその看板の矢印に従って歩いて行くと、競技場のような大きい建物に着いた。天井は開放されているので、飛んで空から建物に入ることにした。
空からその建物の中をを眺めると、競技場というより闘技場か。天下一な武道の大会とかが出来そうにも見える。多数の客席は無人だ。
客席に囲まれた中央部に設置されている舞台の上には、ピルロークが一人で立っている。単に俺と戦いたいとでもいうのか? 面倒な奴だな……。俺とセフィリアはその舞台の上に下り立った。
「やあ、早かったね」
親し気に声を掛けてくるピルローク。俺のイライラも限界が近い。
「陽那と結月とアサカを返せ!」
「君の本当の強さを見せてくれたら、返してあげるよ。君の可愛い恋人達三人は、あの転移ゲートから行ける空間内でくつろいでもらっている」
ピルロークが指さす方を見ると、客席の一角に転移ゲートがあった。
「無事なんだろうな?」
「もちろん無事だ。彼女達は怪我一つしていないよ。でも君が助けだせなかったら、どうなるだろうねぇ」
俺は具現化した刀に、魔刃のオーラを込めながら問う。
「俺があんたをぶちのめせば満足なのか?」
「正確にはぶちのめすのは私ではないんだがね」
のらりくらりとしたピルロークの態度に苛立った俺は、刀の切っ先をピルロークの方に向けてプレッシャーを叩きつけた。
「今すぐ返せ! さもなければ斬る!!」
俺の全力の威圧に、ピルロークは表情を引きつらせて半歩後ずさりした。
「クッ、この私ですら思わず怯んでしまうほどの凄まじい覇気だな。まあ、そう怒らないでくれ。君と戦いたいというゲストを一人招待しているんだよ」
ピルロークがそう言い終わると転移ゲートが出現し、そこから俺のよく知っている人物が現れた。俺は息を呑んで、言葉を漏らす。
「何で……、ルイさんが……、ここに……?」