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箱庭のエリシオン ~ゲームの世界に転移したら美少女二人が迫ってくるんだが?~  作者: ゆさま
謎の異空間に飛ばされたら金髪美少女が迫ってくるんだが?

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慌てている

 俺はみんなを追って急いで通路を進んだ。


 少し進むと陽那、結月、アサカが立っていた。辺りには戦った形跡があり、真っ二つになった盾の傍らに気絶している男と、氷漬けにされた男、それに床にできたクレーター状の穴の中央で女が気絶していた。


 多分金剛さんと、業火さんと、ゼキーラとかいう以前アサカと戦った奴だろうな。既に勝負はついているのか……、さすがというか、相手が気の毒というか……。


 俺が近づくと陽那がこちらを向いた。


「あ、樹。雑魚はかたづけておいたから先に進もうか」


 多分こいつら、雑魚じゃなくて主戦力だと思うけどね。この分なら楽にセフィリアを救出できそうだ。


 引き続き通路を進んでいく。それにしてもこの建物はやたらめったら広いな。四方八方に伸びる通路に階段、大小さまざまな部屋があり中庭に池なんかもある。


 スマホの機能のオートマッピングを利用しながら、セフィリアの魂力を感じる方向に進んでいった。


 しばらく彷徨いつつも、セフィリアの捕らえられている部屋にたどり着いた。


 牢屋にでも監禁されているのかと思っていたが、そこは体育館のような、高い天井の広い部屋だった。部屋の壁面には何かの装置があり、いくつものランプが点滅している。


 セフィリアは部屋の中央にある台の上に寝かせられていて、気絶しているのか全く動かない。拘束はされていないようだ。俺達四人は部屋の中に入り、セフィリアに近づこうとした。


 突然転移ゲートが出現して、ピルロークが出てきた。俺達は即座に戦闘態勢に入る。俺達は四人で対するピルロークは一人だ、負ける気はしない。


「セフィリアを返してもらうぞ」


「この子は君のモノだったのかな?」


「……、言葉遊びに付き合ってやる気は無い。行くぞ」


 優し気な笑顔で語り掛けるピルロークに対して、俺は魔力を青いオーラに変え収束させ刀を具現化させて構えた。


「ふっ、何をそんなに慌てているんだい?」


 俺が慌てているだと? ……確かに言いようのない不安がある。何の策も無く俺達四人を相手にするような奴だとは思えないからな。


「この部屋にはちょっとした仕掛けがしてあるんだよ」


 ピルロークが微笑みを湛えた口を開くと、陽那、結月、アサカが転移ゲートに吸い込まれて消えてしまった。


「君達の持っている端末をハッキングしたんだよ。各自の端末で転移ゲートを発生させて、パンドラの本拠地に転移させた。返して欲しくば君一人で来い! なんてね」


 ピルロークは、台の上で横になっているセフィリアを見て続ける。


「そこに寝かしているセフィリアと一緒に来てもいいよ。ただしセフィリアには魔導器を取り付けて、自身の意思とは関係なく君に全力で攻撃するようにしてある。パンドラへの転移先アドレスは、君の持っている端末に登録しておいたから、彼女を倒せたなら追っておいで」


 俺はピルロークに飛び掛かり斬りつけるも、転移されてしまい空を切るのみだった。


 クソッやられた! 俺の中で煮えたぎる感情がこみ上げてくる。目の前で三人を奪われてしまうとは!!


 いや、落ち着け。あの三人にすぐに危害を加えるとは思えない、根拠は無いがそんな気がする。すぐに助け出せばいいだけだ。俺は大きく息を吐く。


 セフィリアが起き上がり俺を見ている。額には魔導器が取り付けられていた。


 以前結月と入れ替わりの体験をしたものに、よく似ているな。脳への入出力信号を操作する技術を流用しているのか……。


 俺がセフィリアを観察していると、彼女は立ち上がり口を開いた。


「イツキ、逃げなさい。さもなければ私はあなたを殺してしまう」


 セフィリアは大剣をアイテムストレージから取り出して構える。俺も刀を構えセフィリアを見据えた。


「今は一秒でも時間が惜しい。悪いがすぐに終わらせる」


「あなたでは無理よ。実力差は分かっているでしょ?」


 セフィリアは俺に大剣を叩きつけるべく飛び掛かってくる。俺は魔刃のオーラを凝縮して作った刀で受けて、さらに魔刃のオーラを込めた。


 大剣は砕けセフィリアは吹き飛ぶが、空中で姿勢を整え着地して薔薇の花びらの魔法を放ってきた。


 俺は魔刃のオーラで斬撃を飛ばして花びらを吹き飛ばし、俺にできる最高の速度でセフィリアに近づいた。


 そして、右手の人差し指の先端にオーラで小さな刃を作り、セフィリアの額を傷つけないように魔導器だけを破壊した。


 魔導器が壊れセフィリアから外れると、彼女は脱力して、崩れるようにその場に倒れた。


 セフィリアの上半身を抱き起して、手のひらで彼女の前髪をあげて額を確認したが、そこに傷はついていなかった。


「怪我はしていないか?」


「大した怪我はしていないわ。……イツキ、顔が近いわよ」


 セフィリアの指摘に俺はハッとする。また怒られると敵わないので素直に謝った。


「あ、ごめん」


 俺が離れると、セフィリアはふらつきながら立ち上がった。彼女の美しい顔に傷がつかなくて良かったが、魔刃のオーラぶつけて思い切り吹き飛ばしたから、完全に無傷とはいかないか……。


 俺は治癒魔法を使いセフィリアを完治させると、彼女は「アリガト……」と俯いた。


 セフィリアは何かをブツブツ言っているので、俺が「何か言った?」と聞くと、慌てて首を横に振った。


 彼女からすれば気に入らないこともあるだろうが、ゆっくりしていられない。


 早く三人を追いかけたいところだが、セフィリアをこのまま放置するわけにもいかない。


「俺はピルロークの所へ行くけど、セフィリアは端末も取り上げられているよね? 俺の端末でシエラスまで送ろうか?」


 セフィリアは「はぁ」とため息を吐いて、あきれた様子で俺を見た。


「アイテムストレージから剣を取り出したのを見ていたでしょ。私の端末は取り上げられていないわ」


 セフィリアは険しい表情になって続ける。


「ピルロークの強さはケタ違いだった。私ですら手も足も出なかった。一旦戻って社長に相談してから行きましょう」


「心配してくれてるの?」


「茶化さないで。あなたが一人で行っても、無駄死にだって言っているの!」


「……どんなに相手が強かろうが関係ない。あの三人は俺が守る」


 セフィリアは少しの間、黙って俺を見ていたが、真剣な顔で口を開いた。


「分かった。でも私も付いて行く。助けられた借りは返すから」


 まさかついて来ると言い出すとは。さっさと助けに行きたいのに話が長いので、俺はつい言わなくてもいいことを、口にしてしまった。


「別にいいけど、足手まといにならないでね」


「グッ、……努力するわ」


 俺の言葉に、セフィリアは一瞬鋭い目つきになったが、そのまま言葉を飲み込んだようだった。


 俺とセフィリアはピルロークの待っているであろう、俺のスマホに勝手に登録されていたアドレスに転移した。


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