誘拐
固有スキルが変化してから数日間、俺は自分の能力をきちんと把握するために、いろいろと試していた。
陽那と結月とアサカにも手伝ってもらって気が付いたのだが、以前よりも魔力が混ざりやすくなったようだ。願望が形になっているとも言えるのだが……。
これは少し厄介で、結月と魔刃で具現化した刀で打ち合っているだけで魔力が混ざってしまうし、陽那の撃った魔法を、魔法で作った障壁で受けても混ざってしまう。
アサカと手合わせするときは、空気抵抗なく動けるように魔力を放出しただけで混ざってしまう。
なので陽那、アサカと手合わせする際には魔刃で、結月と手合わせするときは魔法のみでやらないと簡単に魔力が混ざって気持ち良くなり、鍛錬どころではなくなってしまうのだ。
魔力が混ざることで感じる気持ち良さは、何故か以前よりも増していて、魔力が混ざるたび耐えがたいほどの強烈な快感が全身を襲う。
ひとたび混ざってしまうと、どうにも我慢できなくなって昼夜問わず、MPが果てるまで何度でも求め合ってしまうありさまだった。
そのため、俺は『樹当番』の子と夜一緒に過ごすとき以外は、極力混ざらないようにしていたのだが……。
ある日のこと、陽那がニターっと笑いながら、肩で俺を押した。
「今日は私たち三人と同時にしようか」
「え、何を?」
「鍛錬に決まってるでしょ! 午前中から何をするつもりなの?」
「はは……、そうだよね」
俺が苦笑いをして頭を掻いていると、結月もニターっと笑って俺を見ている。
「最近の樹は技量がすごく伸びてきたから、私とも互角になってきたでしょ? だから負荷の大きい鍛錬をどうかなって思ったんだよ」
「でも三人同時だと魔力が混ざって……」
アサカは俺の言葉を遮った。
「うまく能力を使い分ければいいんだよ! その練習だよ!」
そんな練習、意味あるか? とは思ったが、三人とも俺のためを思ってのことだろうから、ここは素直に従った。
俺を中心に三人が囲むように立つ。俺は右手に魔刃のオーラで刀を具現化し、左手に炎の魔力で刀を具現化させた。
まずは結月が斬り込んでくる。俺が左手の炎の刀で受けると結月はバックステップで退避し、陽那が炎の矢を連射してきた。すかさず俺は魔刃のオーラで障壁を作りそれを防いだ。
続いてアサカが水流を伴った突きを放ってきた。このまま魔刃の障壁で受けようと思っていたら、結月が距離を取ったまま斬撃を飛ばしてきたので、俺は咄嗟に魔刃の障壁を解除し同時に風魔法で障壁を展開した。
……がアサカの魔法に対して風魔法で受けたので、アサカと魔力が混ざり俺は快感に身震いしてしまった。
その隙に結月は、俺の右手の魔刃の刀に自分の魔刃の刀を叩きつけ魔力を混ぜた。
陽那は俺の左手の炎の刀にめがけて炎の矢を撃って魔力を混ぜた。
三人同時に魔力を混ぜたことで、俺の脳天を快楽が突き抜けその場に倒れ込んだ。
陽那はわざとらしく「ああっ、大変! ベッドに寝かさないと!」と言うが、既に水魔法でベッドは出来上がっていた。
三人は快楽に震えて身動きの出来ない俺を、水のベッドに放り投げ次々にのしかかってくる。
俺は上気した表情の陽那の頭を撫でながら「そんな風にしなくても、普通に誘ってくれたらするのに……」と言うと陽那は頬を膨らませて不満そうだ。
「嘘だー! 午前中からえっちしよーって誘っても、なんだかんだ言ってもったいつけるくせにー」
そんなやり取りを横目に、結月は俺の服を緩めている。
「さっき三人でガールズトークしてたらムラムラしちゃって……。ゴメンネ、でもどうしても今欲しかったの。一番手は私だからお願いね」
結月は素敵な笑顔でウインクする。あまりの可愛さにドキッとするが、既にしっかりとつながっていた。アサカも俺に抱き付いて「次は私なんだから頑張ってよ!」とせがんでいる。
三人の美少女に強引に迫られて幸せをかみしめるものの、結局この日は鍛錬にならず、俺は三人が許してくれるまで頑張ったのだった。
それ以後も三人は、あの手この手で俺と魔力を混ぜようとしてくる。困ったもんだ……。
* * *
そんな楽しい日々を満喫しているのだが、本日は8月26日。
夏休み終了まで一週間を切り、なんとなく焦燥感がある今日この頃。あっ、でも宿題は全部終わってるんだからね!
……とそれはさておき、今日も箱庭の訓練フィールドにて自分の固有スキルの能力を使いこなせるように鍛錬していると、ルイさんから電話が掛かってきた。
「セフィリアが誘拐された。救出して欲しい」
「誘拐って……、どうせまたパンドラの連中の仕業ですよね」
「ああ、証拠は無いが恐らくそうだろうな」
「あのセフィリアを誘拐できるなんて、そんな強い奴がいるんですか?」
「確かに正面から一対一で勝負すれば、セフィリアに勝てる者は限られてくる。しかし、魔導器で武装したそれなりの手練れの集団ならば、セフィリアといえども誘拐されてしまう」
それもそうか……。と納得していると、ルイさんは続ける。
「今日は他国での会談の予定だった。シエラス国外への移動は基本的には転移ゲートは使わないので飛行機での移動となる。今回は飛行機で移動中に武装グループに撃墜され、そのまま空中で護衛とともに敵と交戦後、魔導器で拉致され転移されてしまったようだ」
「私はこの件の対応と、セフィリアに任せていた仕事を処理しないといけないので動けない。君達がサクッと救出してくれないか?」
「サクッと、って言われても……」
「前にも言ったが君達四人は異常なまでに強い。油断さえしなければ簡単にやれるはずだ」
「セフィリアには服や装備品、スマホなどに発信機を複数取り付けてあるので現在地は分かっている。君達のスマホに、セフィリアが現在いると思われる場所のアドレスを送っておく。よろしく頼む」
言いたいことだけ言い切ると、ルイさんは通話は切った。
「なんかまた面倒事を押し付けられたな……」
俺がぼやくと、アサカが窘める。
「そんなこと言っている場合じゃないでしょ! 早く助けに行かないと」
「ああ、分かってる。すぐに助けに行こう」
俺達は、ルイさんが送ってきたアドレスに転移した。
* * *
転移した先は遺跡と思われる風化した街だった。辺りを見渡すと一際目を引く大きな建物がありその方角からは複数の魂力の高い人の気配があった。
俺達はその建物に近づいて行く。一応、アサカの能力の光学迷彩の膜を張って俺達の姿は肉眼では見えないようにしておいた。手練れは気配察知できるのであまり意味は無いかもしれないが。
建物の周囲には魂力3~4万相当の魔導機兵が複数徘徊しており、人の姿は見えない。どうやら建物の中に魂力の高い人がいるようだ。
俺達がその建物の入り口と思われるところに歩いて近づくと、魔導機兵達は俺達に攻撃を仕掛けてきた。まぁ、弱いので瞬く間に全滅させる。そのまま堂々と建物の中に進入することにした。
建物の中は広い通路が奥まで続いていた。昔のお城なのかなぁと、なんとなく俺は思った。
そのまま歩いて通路を進むと、魂力の高そうな男が腕を組んで立っている。パンドラの人なんだろうな……。俺達が近づいて行くとその男は声を上げた。
「久しぶりだな! 二股の樹!」
あれ、俺を知っている奴か……? 誰だろう?