vsセフィリア
――箱庭の訓練用フィールド。
俺は固有スキルを使いこなせるように、魔法の練習をしている。女性陣はそれの手伝いをしてくれていた。
突如、転移ゲートが出現したので、今日は誰だろ? と思い見ていると、セフィリアだった。
「遺跡の迷宮の攻略を手伝ったお礼として、あなた達に食事をご馳走しろと社長に指示されたからついて来なさい」
「ルイさんは?」
「社長は遺跡の調査に夢中だから、面倒なことを押し付けられているのよ! 分かったらさっさと来なさい」
この子はいつも機嫌が悪いんだろうか? とセフィリアを見ていと、鋭い目つきで睨みつけられた。
「私のことをいやらしい目で見ないでくれる?」
「別にいやらしい目では見てないし。俺には陽那と結月とアサカがいるから、俺を毛嫌いする子をそんな風に見ないって」
「どうだか。ケダモノの言うことなんか信用できないわ」
「ハイハイ。いくら可愛くてもそんなにツンツンしてたら台無しだよ。ストレス溜まってるの?」
「クッ、……余計なお世話よ!」
セフィリアに可愛いと言ったことに反応したのか、陽那が俺に耳打ちする。
「ちょっと樹、セフィリアまで口説かないで。あんなツンデレさんは、絶対チョロインなんだから。これ以上恋人増やさないでよ」
「さすがにアレはデレないと思うけど……」
「そこの二人! 聞こえてるよ! ケダモノの手のひらの上で転がされているような子に、バカなことを言われたくないわね。私は、私より強い男にしか興味は無いの!」
すごい剣幕だ。こりゃ、何か言ったらその分だけ怒られそうだな。
「はは……、分かったからゴハン食べに行こ。奢ってくれるんでしょ?」
セフィリアは「ふん!」と振り返り転移ゲートに入っていったので、俺達も付いていった。
転移先はいつもの豪華なレストランの個室だ。俺達がテーブルに着くと、セフィリアも席に着いた。あれ、セフィリアも一緒に食べるのか?
「私は食事の間、あなた達の相手をするように社長に言われているのよ」
「なんというか、せっかくの食事だし愛想笑いをしてとは言わないけど、機嫌が悪いのを全開にされても困るというか……」
「……分かったわ。なら私は大人しくしてるから」
俺、陽那、結月、アサカの四人で楽しく談笑しつつ食事をする。セフィリアは大人しく上品に食事をしているが、なんか仲間外れにしているみたいだな……。
陽那も気になっていたようで、セフィリアに話を振った。
「セフィリアって議員もしているんでしょ? 年は私達と同じくらいに見えるけど、レジーナでは珍しいことじゃないのかな?」
セフィリアは胸を張って、得意げに語りだした。
「レジーナでは魂力さえ高ければ年齢や性別などは関係なく、国や企業の重要なポストに就くことができるわ。そもそも魂力が低いと、会談の時に相手に威圧されてまともに話も出来ないから。でも17歳で議員と副社長をやっているのは私くらいね」
俺はふと思ったことを口にした。
「へー、セフィリアってすごいんだね。でも魂力ならアサカも高いと思うけど?」
アサカは苦笑いしながら言う。
「私の魂力が大きく上昇したのはイツキ達と出会ってからだよ。ちょっと前までは、私の魂力は3万程度だったし、固有スキルも達人クラスだった。レジーナ全体の戦士の強さで言うと、中の上くらいかな……」
「セフィリアは以前から魂力は5万以上あったし、固有スキルも境地クラスで私から見れば雲の上の存在だったんだよ。ちょっと前までは」
アサカの発言に、セフィリアは不快感を露わにした。
「やけにちょっと前までは、を強調するのね。私はまだアサカの方が強くなったなんて信じて無いから。アサカも強くなったかもしれないけど、私だってあの遺跡の迷宮でモンスターを倒して今の魂力は7万を超えたんだからね」
俺達が9万超えてるって言ったら怒られそうだな……。
「私達は9万超えてるよ!」
あっ、アサカが言っちゃった。恐る恐るセフィリアの方を見ると、「冗談でしょ?」と威圧してきた。
感じるプレッシャーからは、確かに魂力は7万以上はありそうだが、俺達から見れば、怯むほどではないかな。
「涼しい顔をしているところを見ると、確かに私と同等以上の魂力を持っているようね。でも、魂力だけ高くてもね……強さというものは、固有スキルと技量で決まるものよ」
それは充分に身に染みて理解しています。声に出すと、怒られそうだから黙っているけど。
穏便に済ましたい俺の気持ちをよそにアサカが煽る。
「なら私と勝負してみる?」
セフィリアは俺を睨みつけた。
「イツキ、アサカはあなたの恋人なんでしょ? 恋人を私と戦わせるつもりなの? あなたが私と勝負しなさい」
なぜそうなる? そうなりそうだなとは思っていたけど。
「俺がセフィリアと戦っても意味ないしな。セフィリアの方が俺より強いんでしょ? ならいいよ、それで」
「なんて投げやりな態度なの? いいわ、私に勝てたなら恋人でも愛人でもなってあげる。私が勝つのが当たり前だから、勝てなくても何も要求しないから、安心して勝負しなさい」
陽那は思わず口走ってしまう。
「うわ……。自分からデレルートに入ってきてる」
結月も、ふうとため息をつき、お茶をすすりつつ呟く。
「四股か……。四日に一度しか樹と夜を一緒に過ごせなくなるのか……」
陽那と結月の視線が痛いので、ここは俺の意思をはっきりと言うことにする。
「だから、俺には可愛い恋人が三人もいるんだから、これ以上いらないって!」
「はぁ? 私の方が可愛いし! 大体なんで私に勝つ前提で話をしているの? 私が勝つからあなたが私を恋人にすることはできないわ」
すごい自信だ。俺が感心していると、アサカも何故か向きになっている。
「イツキ! セフィリアにバカにされたままでいいの? 私のために勝負してよ!」
やれやれ、勝負しないと収拾がつきそうにない。仕方ない……やるか。
「分かった。勝負するよ、お手柔らかに頼むよ」
セフィリアはその美しい顔には似合わない、邪悪な笑みを浮かべて俺を見下した。
「ギッタンギッタンにしてあげる」
どこぞのガキ大将かよ……。
* * *
気は進まないが、俺達は訓練用フィールドに転移した。今回はなんとなく林のフィールドにした。平地にある程度の間隔で木々が生えている地形だ。
セフィリアは白銀に輝く幅広の長剣を取り出して、俺に見せつけるように片手で軽々と数回振り回した。
剣が空を切る音と同時に、風圧がここまで届く。やる気満々だな……。
俺は黒刀を取り出して構えた。固有武器や魔刃で具現化した武器を使うと、また騒がれそうだからな。
俺は軽く跳んで正面から間合いを詰めると、セフィリアはいかにも重そうな大きな剣を、華奢な腕で勢いよく振り下ろす。
俺がそれを刀で受け止めると、セフィリアは不敵な笑みを浮かべた。
「私の一撃を受け止めるとは、思ったよりはやるみたいね」
数合打ち合うが、セフィリアの剣技は力強くも洗練された動作で、言うだけのことはあった。……が今の俺からすると、勝てないことも無いな。
セフィリアが振り下ろす大剣を、俺が半身で躱すと勢いよく大剣が地面にめり込む。
その瞬間に俺は土魔法を使い、めり込んだ所を硬化させて大剣を固定した。
セフィリアの魂力ならば力ずくで引き抜くことは可能だろうが、一瞬のスキが生じたので、俺は刀を峰打ちで打ち付けようとした。
すると、地面から蔦状の植物が勢いよく伸びてきて俺の刀を止めた。そのまま蔦は鞭のようにしなり勢いを付けて俺を跳ね飛ばした。
これがセフィリアの魔法か。障壁で受けたのでダメージは無いが20mは跳ね飛ばされた。
蔦には棘があり、幾重にも花びらが重なった赤い花が咲いていた。あの植物……、薔薇かな?
「惜しかったわね。ご褒美に私の魔法を見せてあげる」
セフィリアが手のひらを俺の方に向けると、薔薇の花びらが散り俺に向かって飛んできた。花びら一枚一枚に、かなりの魔力が込められておりスピードもある。
俺に向かってくる花びらは、咄嗟に炎の矢で相殺した。焼き払わなかった花びらは、周囲の木々や岩などを粉砕し、地面を抉り取っていった。なかなかの威力だ。
銀髪の美少女で、華麗な剣筋、その上薔薇の魔法とか狙いすぎだろ!? まあ確かに綺麗ではあるが。
しかし、どうしたもんかな……本気を出せば勝てる、でも俺が勝つと、きっとクッコロ化するよね。
「困ったな、これは……」
俺がつい言葉を漏らすと、セフィリアは得意げだ。
「ふふん、力の差を思い知った?」
わざと負けてやるか。あからさまだと怒られそうだから上手くやらないとな。
再び間合いを詰めて、大剣と刀で打ち合う。頃合いをみて、魔法を誘うためにバックステップで間合いを取ると、狙いどうりセフィリアは薔薇の魔法を俺に放った。
俺は障壁にわざと弱い部分を作り、そこで花びらを受けると障壁が砕け俺の身体にダメージが入り吹っ飛ばされた。
もろに食らってしまったが、結構痛いな……。吹っ飛ばされ地面に叩きつけられた俺は、仰向けで倒れている。上体を起こすと、目の前にセフィリアの大剣が付きつけられた。
「まいった」と告げる俺に対して、セフィリアは冷たい目で見下した。
「社長が目を掛けているからどれほどのものかと思ったけど、やはり大したことは無いようね。アサカもこんな男にはさっさと見切りをつけて別れなさい」
セフィリアはそれだけ言い残して、転移して去って行った。俺、そんなに嫌われるようなこと、なんかしたかな?
陽那がスッと俺に近づき肩をポンと叩く。
「お疲れ様。ひどくやられたね」
その瞬間、全身にあった傷が消える。俺は「ありがと」と陽那に礼を言うと、アサカが涙目で俺に縋る。
「イツキ、なんで降参したのー!? イツキならセフィリアに勝てたでしょ!」
「まあ、それは……。でもセフィリアに勝ったら恋人になってたかもよ。そうしたら四股だよ。いいの?」
「うっ、それは困る」
「どうせ、セフィリアとは接点が多いわけじゃ無いんだから、放っておけばいいよ」
アサカは「うぅ……」と唸り不満そうな表情だった。
「ひとまず四股は回避できたね」「そのようだね、でも……」
陽那と結月は顔を見合わせていた。
* * *
――その日の夜。
ログハウスの陽那の部屋で、ベッドの上で陽那と並んで座っている。彼女は腕を絡ませて、俺にもたれ掛かっている。
「ねえ樹。セフィリアって美人だよね」
「あ、あぁ、そうだね。どうしたの急に?」
「セフィリアも恋人にしたいな、とか思ってない?」
陽那の問いに心臓がギュッと収縮する。あたふたしながら「そんな! 思うわけ無いよ」と大きめの声で答えると、陽那は俺の目をじっと見つめるので、俺も黙って陽那の目を見る。
「今のところはセフィリアを美人と思いつつも、恋人にする気は無いんだね」
「当然だよ! 俺には最高に可愛い恋人が三人もいるんだから!」
「最高に可愛い恋人が二人いても、恋人は増えたけどね」
「うぐっ、陽那……」
「あ、ゴメン責めてるみたいだったね。ちょっと不安になったからつい……」
「気にしないで。文句も不安な事も遠慮なく言ってよ。三股しておいてなんだけど、話くらいはきちんと聞くからさ」
「ううん、もういいよ。それよりもイチャイチャしよ。樹のことだから、固有スキルが変化しても魔力を混ぜることが出来るか試したいんでしょ?」
「さすが陽那だね。俺のことを良く分かってる」
すると、陽那は目を伏せて黙り込んでしまった。
「陽那、どうかしたの?」
「何でもない。混ぜた魔力は天照に注ぐんでしょ? 天照おいで」
すぐに笑顔に戻ったが、陽那の表情には陰りがあるように感じた。
俺は気が付かない振りをして、陽那を抱きしめて魔力を放出した。二人の魔力が混ざり、強烈な快楽が全身を突き抜けていく。陽那は紅潮した顔でねだる。
「今日は樹に攻めて欲しいな」
「うん、任せて」
今夜も情熱的に互いを求め合い、夜の静寂に溶け合うのだった。




