天照
俺は月影をアイテムストレージに再びしまい、陽那とアサカが戻るのを待つことにした。しばらくすると、二人は訓練用フィールドから戻ってきた。
「ヒナにしごかれたー イツキ、MP回復してー」
駆け寄り抱き付くアサカの唇に、俺がそっと唇を合わせようとすると、アサカは唇を押し付けてきた。
長めのMP回復が終わり唇が離れると、アサカは「ふう、癒されたよ」とため息を吐く。俺は「お疲れ様」とアサカの頭を撫でた。
アサカは俺の顔を見てから、結月の顔をチラリと見る。
「イツキとユヅキ……いっぱいイチャついたって顔してるよ。……もともと二股しているところに割り込んだから、強く文句も言えないけど、今夜は私と一緒でいいよね」
陽那はアサカの言葉に食いつく。
「アサカは昨日の夜から、今日の朝まで樹とイチャついてたでしょ? 今夜は私の番だよ!」
「うっ、そうだっけ? 仕方ないなぁ」
俺は彼女たちのやり取りを、笑顔を作ったまま黙って見ている。今夜は陽那と過ごすことが決まったところで今日は解散となった。
* * *
――夜。
箱庭のログハウスに行くと、陽那は既にリビングで待っていた。
「陽那、お待たせ。ちょっと試したいことがあるから一緒に訓練用フィールドに行こう」
陽那は頬を膨らませて、立ち上がった。
「なに? 結月とアサカとは、たっぷりイチャついてるくせに、私とはこんな時間から鍛錬するつもりなの?」
しまった、陽那がすねた。どうしたもんか……。
俺は陽那の元へ歩み寄り、手を引いてギュっと抱きしめた。すると、陽那は俺の身体を押して抵抗するそぶりを見せる。
でも、本気を出したら陽那の方が力が強いので、きっと本気で嫌がってはいないだろう。俺は少し強引に陽那にキスをした。
「ちょっと、樹……んっ」
唇が触れ合うと、抵抗していたはずの手は俺の背中に回る。
「もちろん、えっちもするけど、まずはお願い聞いて欲しいなー」
「もう、樹のバカ……」
眉をハの字にして困ったような表情を見せる陽那だが、両腕はしっかりと俺を抱きしめている。
「訓練用フィールドに一緒に行ってくれる?」
「いいよ。どうせ私は樹の言いなりなんだから」
「ありがとう、陽那。大好き!」
「はぁ、調子いいね……」
俺達は訓練用フィールドに転移した。
星の光に照らされた、暗い荒れ地に陽那と二人で立っている。
「陽那がよく使っている、光の魔法を見せて欲しいんだけど」
「……うん」
陽那は魔力を一筋の光にして放つと、光線が着弾した地点の地面が破裂して穴が開いた。
一瞬だったので、何が起きたのか良く分からなかった。
陽那の後ろから胸の下あたりに手を回して抱きつつ、耳元でお願いをした。
「もっとゆっくりやって欲しいな。俺にも良く見えるように」
陽那は「もう、しょうがないなぁ」と少々面倒くさそうにつぶやくと、両手を広げた。
彼女は普段、構えることも特別な動作もすることなく、一瞬で魔法を発動している。この機会にしっかりと観察しなくては。
陽那が魔力をゆっくりと広げると、いくつもの銀色の粒子が周囲に浮かび上がった。目の前の頭より少し高い位置で、一点に集まりやがてピンポン玉ほどの大きさになった。
そこに次々と銀色の粒子が集まり、魔力の塊は赤みを帯びていく。
あの球を撃ち出すと光の矢のようになるのか……。
「そのままちょっと待ってて」
「いいけど、どうするつもり?」
俺は陽那の固有スキルだけを使うようにイメージして、陽那と同じようにピンポン玉大の光の魔力の塊を作り出した。それを陽那の作った魔力の塊とくっつけて、混ざるようにイメージをした。
二人の魔力が混ざると同時に、魔力の塊は輝きを増した。それと同時に俺の全身を快楽が突き抜ける。陽那も俺に抱き着かれたままガクガクと震えだした。
「えっ、なにこれ、気持ち、いい!? うっっ、あぁぁ」
我慢できずに声を上げる陽那。ハァハァと肩で息をしている。
「魔力を混ぜると、気持ちいいんだ。取り合えずあの魔力の塊を撃ってみようか」
輝く魔力の塊は、レーザーのように飛んでいき遥か遠くに着弾した。それなりの威力だったようで時間差で風圧がここまで到達した。
「軽くイっちゃった……まるで樹に体の中まで撫でられてるようだった」
「俺も今日たまたま気が付いたんだよ」
「それで昼間、結月と一緒がいいって言ってたんだ。こっそり、そんなプレイを楽しんでたんだね……」
「うぅっ、……それよりも、混ぜる魔力を強くしていくともっと気持ちいいよ」
「ねぇ、混ぜるのは魔力だけ?」
陽那は既にスイッチが入ったようで、蕩けた顔をしている。
「じゃあ、ログハウスに戻ろうか?」
「イヤだよ。我慢できない。今すぐ挿れて」
陽那はすがるような目つきでそう言うと、魔法で水のベッドを作り出した。すぐさま二人は抱き合い水のベッドに倒れ込んだ。
陽那は俺の服を緩めると、俺を深く受け入れた。同時に、二人して魔力を放出して銀色の粒子を発生させて、次々と混ぜ合わせていく。
魔力が混ざることで感じる快楽はあまりに強烈で、二人は夢中になって抱き合った。
陽那はひときわ大きな声をあげると、俺の胸に倒れ込んできた。
「気持ちよすぎて、頭がおかしくなっちゃったかも。ぜーんぶ、樹のせいだからね」
「えぇ……俺のせい?」
息が落ち着くまで、そのまま抱き合っていた。
しばらくして息が落ち着いたところで、乱れた服を脱ぎ抱き合う。
陽那の滑らかな素肌の感触と体温を感じながら、周囲にいくつも浮かんでいる二人の魔力で出来た球体を眺めていた。
「あの魔力を全部固めて刀を作れないかなぁ?」
「多分できるよ。やってみよ」
二人で集中して刀をイメージすると、周囲に浮かんでいる魔力でできた粒子が一点に収束していき刀の形を作っていく。
出来上がったのは、朱色の刀だった。白からオレンジ、そして赤へと脈打つように変わる光を、ぼんやりと放っている。空中に浮かんでいるその刀は、ゆっくりと音もなく地面へ下りていった。
陽那の「綺麗な刀が出来たね」という呟きに、俺は「うん」と頷いた。彼女は俺の手をギュッと握った。
「でもね、そんなことよりも。……絶対に頭がおかしくなってるよね。私、もっと……」
陽那の瞳は潤んでおり、頬も紅潮している。
さっき激しく快楽に脳天を衝かれたばかりだというのに、二人の魔力が溶け合い凝縮されることで、再び快楽の波に飲み込まれていた。
「俺も同じだよ。何度でも、このまま……」
* * *
周囲が明るくなるのを感じて、水のベッドの上で目が覚める。陽那も目を覚まして明かりを眩しそうにしている。
「野外プレイしたまま寝ちゃったんだね」
「ログハウスに戻ろうか」
俺は、近くに落ちている朱色の刀を拾った。やはり魔法を解除しても刀は消えないようだ。
俺達はログハウスに戻ると、まずはシャワーを浴びた。深夜まで激しく運動していたから、汗だくだったのだ。
さっぱりしたところで、リビングのソファーに二人並んで座り刀を眺める。
「この刀、陽那のイメージそのままだなぁ……」
「私のイメージ?」
「ほら、俺って中学の頃ずっと陽那のことが好きだったって言ってたでしょ。中学のとき俺は陽那のことを、太陽とか女神とかって心の中で思ってたんだ」
「この刀も陽那と同じで、太陽の輝きみたいな光を放っているから……。そうだ、この刀、天照って名前にしよう」
「そんな風に思ってたんだ……。中学の時に樹と仲良くなるきっかけがあればなー。三年間同じクラスだったのに、ほとんど話をしたことも無かったよね」
「それが今ではこんなにも陽那と仲良くなれた。あの時の俺が知ったら驚くだろうなぁ」
陽那は腕を組んで、何度も頷いた。
「私以外にも、物凄く可愛い恋人が二人もできて、三人の女の子をとっかえひっかえイチャついているって知ったら、すごーく驚くでしょうねー」
「ぐぅっ」
「それにしても、私と樹の魔力を固めて作った刀『天照』か。これならきっと樹を守ってくれる。樹が持っていてね」
「うん、分かった」
俺は天照をアイテムストレージにしまって、陽那に軽くキスをした後、自宅に転移した。
自室のベットに座り込むと、俺の中に陽那の魔力を感じる。
魔力を混ぜながらえっちをすると、溶け合った魔力が俺の中に吸収されるのかな? 何とも言えない心地良さに、しばらくぼーっとしていた。