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箱庭のエリシオン ~ゲームの世界に転移したら美少女二人が迫ってくるんだが?~  作者: ゆさま
ゲームの世界に転移したら美少女二人が迫ってくるんだが?
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落とし穴

――翌日。



 今日も鳴海さんと二人で北の転移ゲートを抜けて、山岳地帯のフィールドに来ている。昨日よりも転移ゲートから離れてモンスターを狩っていた。


 モンスターと戦っているうちに、身体能力が上がっていることに気が付いた。


 今までよりもずっと速く走れるし高く跳べる。少々高いところから着地してもなんともないところを見ると、頑丈にもなっているようだ。


 これも魂力が上がっているおかげだろうか。


「柳津君! こんなに高く跳べるよ!」 


 鳴海さんは、はしゃいでぴょんぴょん跳んでいる。2mくらいの高さまで飛び跳ねているな。スカートが捲れて下着が見えてしまいそうだ。


 俺は視線を下げつつ、鳴海さんに声を掛ける。


「あんまり跳ぶと、スカートの中が見えそうだよ」


「見てもいいよ! 見えてもいいの穿いているから」


 見えてもいいのと言われても、スカートの下から黒い短パンみたいなのがチラリと見えるたびにドキッとしてしまう。


 なるべく見ないようにして先に進むことにした。鳴海さんは上機嫌で魔法を連発し、モンスターを片っ端から粉々にしている。魂力が上がってMPも増えているんだろうな。


 順調に進んでいくと、意味ありげな3m四方の石板が地面に落ちていた。


「何だろうねー、これ」


 鳴海さんが石板の上に乗っかって首を傾げている。俺もつられてその石板の上に乗ると、突然石版が消えて穴があいた。


 しまった、落とし穴!? と思った時には、二人揃って穴に落ちていた。


 5~6mは落ちたと思うが、特に痛みは無いしHPも減っていない。魂力が上がっていなかったら大怪我だったな。


 着地したところは水たまりで、膝下くらいまで水に浸かってしまった。鳴海さんは水たまりで尻餅をついている。


「鳴海さん、大丈夫?」と手を差しだすと、鳴海さんは手を取って立ち上がり苦笑いで応える。


「うん、平気……。ベタベタになったけどね。」


 物音がして、そっちの方向を見ると岩のモンスターがいた。今までのよりも大きい奴が5匹だ。


「なんか頭に来た! 私の魔法で倒してやる!」


 鳴海さんはミスリルロッドを手に「雷撃」と唱えると、モンスターに向かって雷が走ると同時に、俺にもビリビリと衝撃が走った。


 鳴海さんも悲鳴を上げて、その場に膝をつく。HPバーを確認すると三割ほど減っていた。


 水に浸かっているから、俺達も感電したのか? なんてゲームだ、余計なところまで現実を再現して!


「鳴海さんは下がって! あいつらは俺が倒す!」


 スキルを使って一気にモンスターに接近し斬りつける。しかし、一撃では倒せない。そのまま連続で斬り続けると一匹を倒せた。


 残りの奴らに体当たりされるが、防御フィールドのおかげかさほど痛くはない。HPは減るが死ぬわけじゃない。落ち着いて戦えと、自分に言い聞かせる。


 よく見れば、大きいだけで攻撃は今までと同じく単調だ。落ち着いていれば躱せる。スキルと魔法を何度も使って、なんとかモンスターを全滅させることができた。


 スキルを連続で使ったせいか、息があがって苦しい。残りHPは3でMPは0か、危なかったな。


 鳴海さんが駆け寄ってきた。


「いっぱい攻撃を受けていたけど、大丈夫なの?」


「それほど痛くなかったよ。HPは減ったけどね」


 俺達は水たまりから出て、地べたに座り込む。


 買っておいた回復アイテム使うとHPが回復したが、疲労は全く軽減しない。そういえば、HPは生命力とかじゃなくて、防御フィールドの耐久値って言ってたっけ。


「ハックシュン!」


 鳴海さんが大きなくしゃみをした。二人とも濡れている。このままでは風邪をひいてしまうかもしれない。


「着替え持っているよね? 着替えようか」


 鳴海さんは「そうだね」と自分のアイテムストレージから着替えを出す。


「こっち見ないでね」


「あ、うん」


 俺が鳴海さんに背を向けると、衣擦れの音が聞こえてきた。俺の後ろで鳴海さんが着替えをしている……。想像しそうになったがすぐに頭から追い払い、目をつむり耳を塞いだ。


「終わったよ」


 鳴海さんは俺の背中をつつくので振り向くと、着替え終わっていた。


「柳津君も着替えなよ。私は後ろ向いてるから」


 俺もアイテムストレージから服を取り出して、手早く着替えを済ませた。


 さて、どうやってここから出ようか? 落ちてきた穴を見上げるが、跳んでも届きそうにない。


 鳴海さんと二人で、穴の中を調べていると、どこからか風を感じる。くまなく調べると、壁に裂け目を発見した。裂け目の向こうからは光が入ってくる。猫一匹くらいなら通れそうだが、人が通るのはとても無理だ。


「ここの壁、魔法で壊せるかも。と言っても今の俺のMPは0だけど」


「私もMP切れみたい」


「MPは時間経過で回復するらしいよ。少し休憩しよう」


 壁にもたれて二人並んで座る。少しの沈黙の後、鳴海さんが口を開いた。


「柳津君って、意外と頼りになるんだね。モンスターと戦っているところ、カッコ良かったよ」


「そ、そうかな?」


「あはは、照れてる!」


 ぐぅぅ、またからかわれてしまった。そんなに思い切り笑わなくてもいいじゃないか……。少し凹んで肩を落とす。


 すると鳴海さんは「冗談だよ! ありがとね!」と俺の肩をパシっと叩いた。


 ……笑ったのが冗談で、「カッコ良かったよ」が本音か? いや、「カッコ良かったよ」が冗談で、単にからかっているだけだよな。


 鳴海さんにとっては、特に意味もない一言かもしれないけど、俺は彼女の言葉に一喜一憂してしまう。


「あ、ほら。そろそろMPも回復したみたいだよ」


 鳴海さんは魔法が使えるようになったみたいだ。俺もMPを確認すると火炎一発分のMPが回復していた。


「じゃあ、この壁に雷撃を当てるよ」


 鳴海さんは杖を壁に向けるので、俺も壁に指先を向けた。


「雷撃」「火炎」


 二人で同時に壁に魔法を放つと、壁は崩れて人が通れるくらいの穴があいた。


 穴の向こうは通路になっていて、外の景色が見えている。通路の中央には大きな宝箱が置いてあった。


 ミミックとかじゃないだろうな? と、俺がビビりながら剣の先っちょでつつくと、宝箱は開いて中から杖が出て来た。


 その直後、宝箱は崩れて消えてしまった。どうやら罠では無かったようだ。隠し部屋のクリア報酬的な感じか?


 落ちている杖を手に取って見つめると、視界に説明が表示された。


「ウィザードロッド 魔法使用時に威力ボーナス (小)が付く」


「これ、ミスリルロッドよりも性能がよさそうだから、鳴海さんが持っていて」


 ウィザードロッドを鳴海さんに差し出すと「ありがと」と受け取った。外に出ると、空は赤く染まっている。


「もう日が暮れそう。帰ろっか」


 鳴海さんが、空を見ながら言うので俺は「そうだね」と返した。


 俺達は転移ゲートまで戻り、センターに帰った。




 * * *




 ファミレス風の店で夕食を済ませ、暗くなった道を二人で宿屋に向かって歩いている。


「落とし穴はびっくりしたけど、今日も楽しかったなー」


 鳴海さんは、ご機嫌な様子で俺の少し前を歩いている。


 水浸しになったり、感電したり、モンスターに囲まれたりして、割と大変だったけど、鳴海さんと一緒だったから俺も楽しかった。


 俺が鳴海さんの後ろ姿を眺めていると、不意に彼女は立ち止まって振り向いた。


「中学の卒業式の日のこと、覚えてる?」


 俺はギクリとしたが、忘れたふりをするのもカッコ悪いので「もちろん覚えてるよ」と返す。


「柳津君は、あの時と変わった?」


 質問がなんとなく漠然としている気もするが、俺が鳴海さんに好きだと告白したことを言っているんだよな?


 この箱庭に転移するまで、鳴海さんのことは忘れていた。でも今はあの時以上に鳴海さんのことが好きになっていると思う。


「変わらないような、変わったような……」


 どう答えたものかと迷って、結局曖昧な言葉が俺の口から出た。すると鳴海さんは上目遣いで俺の顔を覗き込んでくる。


「ふーん、私は少し変わったかなー」


「えっ、それってどういう意味?」


「ふふーん、内緒」


 鳴海さんは口元に手をあてて、含み笑いをした。そうこうしているうちに宿屋についてしまい、彼女は宿屋に入っていく。


 俺も追いかけるように宿屋に入ると、鳴海さんは俺に向かって手を振る。


「じゃあ、また明日! おやすみ!」


 それだけ言い残して、部屋に行ってしまった。


 残された俺は、その場に立ち尽くして、鳴海さんの言葉を思い返す。


 告白したあの日、俺のことをあまり知らないからと振られたんだっけ。


 でも今は少し変わった? それはつまり、付き合ってもいいよってことなのか? 


 いや、まさかな。さすがにそれは自分に都合よく受け取りすぎか。


 そんな答えの出ないことをいつまでも考えていると、今日落ちた穴よりも深い何かに堕ちていくような気がするのだった。

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