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箱庭のエリシオン ~ゲームの世界に転移したら美少女二人が迫ってくるんだが?~  作者: ゆさま
謎の異空間に飛ばされたら金髪美少女が迫ってくるんだが?

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器用貧乏

 今日は趣向を変えてログハウスの庭で、魔法を使ってゲームをしていた。


 俺が魔法で岩のつぶてを飛ばし、女性陣が得意な方法で撃ち落とすという単純な遊びだ。


 直径30㎝くらいの岩を飛ばすと、閃光が岩の中央を射抜いた。それに続いて青い刃が着弾し、最後に水弾が命中した。


 陽那は得意げに「私が一番だね!」と胸を張ると、アサカが「あんなのズルい!」と頬を膨らまして、結月は「もう一回!」と声をあげた。


 うーん、今日もにぎやかで楽しいなぁ。


 そんな穏やかな時間を過ごしていると、転移ゲートが現れて一人の男が転移してきた。


 なかなかの魂力の高いやつだな。ファンタジーな世界の戦士のような格好をしているので、何者なのかはなんとなく見当がつくが、一応聞いてみた。


「えーっと、どちらさんですか?」


 俺よりは年上だろうなと思える若い男は、気取った感じで自己紹介を始めた。


「私は『パンドラ』の四傑の一人リヒトと申します」


「やっぱり? 面倒くさいな……」


 俺の態度に怪訝そうな表情で言う。


「私を前にして、その余裕とは大したものですが、これを見ても落ち着いていられますか?」


 リヒトが指を鳴らすと、転移ゲートから魔導機兵が次々と現れた。100体くらいはいるかな……?


「うわ……面倒くさい。いや、考えようによっては鍛錬前のウォーミングアップくらいにはなるか」


 俺があまりに面倒くさいとぼやくので、陽那が前に出た。


「面倒なら私が全滅させようか?」


 そのやり取りを聞いたリヒトはフッと鼻で笑う。


「はったりですか? まあいいでしょう。レジーナと地球それから孤島にも、それぞれ魔導機兵を連れた四傑が一人ずつ攻撃を仕掛けています。早く私を倒さないと大変なことになりますよ?」


 結月がやれやれと肩をすくめた。


「私は地球のを切り捨ててくるね」


 アサカが手を挙げて続ける。


「じゃあ、私がレジーナのを倒して来るね」


 陽那はリヒトを指差す。


「私はそこにいる奴をかたづけておくよ」


「うん、任せた。俺は孤島に行ってくるよ。みんな気を付けてね。あんなのに負けたりはしないだろうけど。終わったらここに集合しよう」


「了解!」


 各自返事をすると、それぞれ転移して行った。




 * * *




 樹達の様子を見ていたリヒトは、こめかみをぴくぴくとさせている。


「君達は私を舐めているようですね。いいでしょう、この新型魔導機兵の力を存分に味わうがいい!」


 リヒトが言い終わると同時に、閃光が走りすべての魔導機兵が破壊された。陽那が光の魔法を放ちすべての魔導機兵を射抜いたのだ。


 陽那は構えることもせず、予備動作も無しで離れ業をやってのけ、リヒトにプレッシャーを放った。


「そんなガラクタ何体連れてきても無駄だよ」 


 想定外の出来事に、リヒトは焦燥を覚えた。


「まさか、そんな……。こうなったら……」


 リヒトは魔導器を取り出して使おうとするが、再び閃光が走りそれは破壊された。


 陽那の閃光魔法は光速で対象を攻撃するので、固有スキルか磨き上げた経験則で先読みしないと躱せない。


「どんな効果の魔導器かは知らないけど、使わせるわけにはいかない」


 陽那は魔導器を警戒していた。樹を捕らえ重傷を負わせたうえに、転移させた魔導器を目にしていたからだ。


「くっ、いいでしょう今日の所は引き分けとします」


 リヒトはそう言い残すと転移して去って行った。


「引き分けね……。まぁいいか。みんなも、あのレベルの奴らに後れを取るようなことは無いよね」


「お茶でも飲んで待ってよ」


 陽那は、ログハウスに入って行った。




 * * *




 ――地球に転移した結月。


 


 海上に転移して来た結月の目の前には、100体程度の魔導機兵とシェイドが空中に浮いていた。


「あ、樹に負けて捕まってた人だよね? 性懲りもなくまた来たんだ」


 シェイドは自信満々といった様子で答える。


「俺はこの前とは違うぜ……。この魔導器で魂力をブーストしているからな」


「今の俺の魂力は10万だ! 本当はイツキに礼をしてやりたかったが……、お前を痛めつけたらイツキはどんな顔をするかな?」


 いやらしい笑みを浮かべるシェイドに、結月は冷たい表情で言い返す。


「私を痛めつける気でいるということは、私に痛めつけられても文句は無いよね? 私はあなたが樹に大怪我させたことを許してないから」


「やれるものならやってみろ!」


「では、遠慮なく」


 結月は一歩足を前に出したかと思うと、一瞬でシェイドの目の前に移動した。全く反応できていないシェイドを一瞥し、青白く輝く刀を峰打ちで振り下ろした。


 悲鳴を上げることもできず、シェイドは海に落下していき海面に叩きつけられ沈んでいく。


「手加減したから死なないだろうけど……。あ、気配が消えた。転移して逃げたな……」


 結月は周りを見渡し、軽くため息をついた。


「さて、残った魔導機兵を片付けるか」


 結月は刀を何度か振るい、斬撃を飛ばして魔導機兵を全滅させると、箱庭に転移した。




 * * *




 ――孤島に向かった樹。


 たくさんの魔導機兵達の前に立っている男。あれはダロスか……。


「イツキ! 先日は不覚を取ったが……」


 ダロスが何かを言っていたが、聞くのも面倒なので黒刀に魔刃のオーラを込めて峰打ちしてやった。ダロスは吹き飛ばされ地面を転がっていく。俺はダロスに歩み寄り黒刀の切っ先を鼻先に突き付けた。


「くそ! また油断した! 次は本気出すからな!」


 ダロスはそう叫ぶと、転移して逃げて行った。


「次って……、また来るのかよ……」


 もう来なくていいのにな、などと思いつつ、俺は残った魔導機兵を見る。


 せっかくだから槍で倒してみよう。黒い槍を取り出し、アサカがいつもやっている槍術や、水流を突き出す技で魔導機兵を全滅させた。


 ちょうどいいウォーミングアップにはなったかな? 背伸びをして「さて、そろそろ箱庭に戻るか……」と独り言を呟く。


 そのときに突如転移ゲートから一人の男が現れた。男の纏っている雰囲気から、こいつはダロス達のような雑魚じゃないと感じた。


 警戒してその男を見ていると、自己紹介を始めた。


「初めまして、樹君。私がルイの旧知のピルロークだ」


 げっ、いきなりラスボスが転移してきた。どうしようかな……? とりあえず、自己紹介しとくか。


「初めまして……、柳津樹です」


「少し私と遊んでくれないか?」


 気迫を込めプレッシャーを俺にぶつけてきた。かなりの強さであることがうかがえる。関わるのは遠慮したいところだ。


「お断りします」


「つれないなぁ……」


 ピルロークは腕を上げ手のひらを俺に向ける。すると風の魔法で作られた刃が飛んできた。


 俺はそれを難なく躱した。


 ところがヤツは次々と撃ってくる。徐々に撃つペースが速くなり、連射と言えるほどの勢いで撃ってきた。


 俺は次第に避けきれなくなり、多重障壁が削られていく。


 速さ、精度、威力どれをとっても俺よりは上だな。俺は動き回りながら回避しつつ障壁を維持する。そして魔刃のオーラを黒刀に込めて、ピルロークに向かって斬撃を放った。


 俺の放った斬撃は、ピルロークが連射する風魔法の刃を打ち消しながら飛んで行く。


 斬撃は、ピルロークの纏う障壁にぶつかってかき消されてしまったが、俺は瞬時に間合いを詰めて、青いオーラを込めた居合切りを放った。


 俺の青いオーラが噴き出る刀と、ピルロークの障壁が激しくぶつかり火花が飛び散る。どうにか障壁を切り裂いたものの、ピルロークの刀に止められてしまった。


「君は器用だね。二つの固有スキルを同時に使いこなしているように見える」


「どうも」


「だが、君の魂力ではリソース不足で、どちらの固有スキルも真の力を発揮できていないようだ」


 そう言うと、ピルロークは刀に風の魔法を込めて刀を振り下ろした。俺は黒刀でそれを止めるが、風魔法の刃は防ぎきれずにダメージを負ってしまった。


「私の固有スキルをクラス分けしたなら、境地クラスだろう。だが君の多重障壁を貫くことが出来たようだな?」


「複数の魔法と魔刃のオーラで障壁を作っているのは素晴らしい技術だが、一つの魔法に込める魔力が弱くなっているのではないか?」


「君の恋人の結月という子は、魔刃のオーラだけでも強力な障壁を展開出来ているだろう。言うなれば君は器用貧乏だな。リソースの無駄遣いをしているんだよ」


 確かに結月は、魔刃のオーラだけでも俺が打ち破ることが出来ないくらい強固な障壁を作れるよな……。っていうかこいつ俺達のことを良く知ってるな。


 さすがは悪の組織のボス。その割に部下は俺達の強さをあまり分かっていない? なぜだ? いや今はそれどころじゃない、こいつに集中しなければ……。


 俺は刀を握りる手に力を込め、ピルロークの動きを注視する。ヤツは刀を片手で持ち、余裕を感じさせる構えで俺に話しかけてきた。


「どちらかの固有スキルに絞って使うようにすれば、全ての能力が使えるようになるだろうがね」


 なんだって? そんなことできるのか! 考えたこともなかったが、やってみよう。


 魔法を使うのをやめ、魔刃だけで戦うようにイメージしてみた。すると今までにない大量の魔力が魔刃のオーラとして使えるのを感じた。


 今なら結月と同じように刀を具現化できそうな気がする。


 右手に黒刀を持っているので、左手にいつも結月が具現化している刀を思い浮かべる。みるみる魔力が左手に収束していき青白く輝く刀が現れた。俺は思わず声を上げる。


「おおっ! 出来た!!」


 まだ俺の魔力には余裕があるのを感じるので、右手の黒刀にも魔刃のオーラを込めた。どれほどの威力かは分からないが、今までにないほど強力な一撃を放てるという確信があった。


 俺は無造作に両手に持った刀を振り上げた。


「うまいこと、避けるか防ぐかしてくれよ……」


 ピルロークは後ろに跳び、魔導器を取り出し障壁を発生させる。俺は力いっぱい両手を振り下ろした。


 青白く輝く二つの斬撃が周囲の木々を薙ぎ倒し、地面をえぐりながらピルロークに襲い掛かる。


 二つの斬撃は、魔導器で発生させた障壁を容易く粉砕して突き進む。ピルロークは風魔法で障壁を展開し、刀で斬撃を受けこらえながらも吹き飛ばされていった。


 ピルロークは傷だらけになりつつも、どうにか耐えることが出来たようだ。


「私の作った防御用の魔導器で発生させた障壁を貫通するとは、想像以上の威力だな。今日はここらで失礼させてもらうよ」


「まて!」


「君の可愛い恋人の一人、アサカ君がピンチのようだぞ。助けに行かなくてもいいのかな?」


 そう言い残すと、ピルロークは転移して行った。


「何だと? アサカが!?」


 俺もすぐにアサカの元へ転移した。

 

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