陽那と結月とアサカ(後編)
俺達がレストランの個室で豪華な料理を堪能していると、ルイさんは孤島の施設の制御室での出来事を俺達に一通り説明してくれた。
パンドラか……、なるべく関わりたくないな……。
ピルロークはルイさんがレジーナに最初に転移したときに親身になって世話をしてくれた人だそうだ。また、ルイさんとともに会社を立ち上げたのもピルロークだったそうだ。
捕らえたシェイドの思考を読み取った際には、ルイさんと考え方が合わなくなって追放されたという事になっていたが、別に追放したわけではなく自分から出て行ったし、考え方が合わなくなったという点も違和感がある。
というような話を聞いた。
「まぁ、いろいろ気になる点はあるが取り敢えずは放っておこう。そのうちまた攻撃してくるだろうから適当に返り討ちにすればいいだろう」
「軽いですね……?」
「もちろん、こちらも対応できるように準備はしている」
「それに、アサカがやる気を出してくれたおかげで、戦力は大幅アップだ。うちの会社の戦力の中ではアサカが一番強くなった」
アサカは照れながらも苦笑いをする。
「でもヒナとユヅキには手も足も出ないけど……」
「陽那と結月の強さは特別だからな」
「樹と陽那と結月の魂力は6万2千。固有スキルで強化されるので実質8万程度。アサカの魂力は5万8千で樹の固有スキルで強化されると7万5千程度になる」
「これほどの魂力があればそう簡単に後れを取るとは思えない」
「ただ、アサカの魂力は上がったものの、技量は三人に比べるとまだまだ低い。三人で鍛えてやって欲しい」
アサカは俺に甘えた声で言う。
「イツキに手取り足取り優しく指導して欲しいな」
陽那が力強くルイさんに言う。
「私と結月がしっかり鍛えるので任せて下さい!」
ルイさんは「よろしく頼むよ」というとアサカは涙目で唸っていた。
昼食を終えログハウスの庭にもどって来た。ルイさんに頼まれたことだし早速アサカを鍛えるか。
「せっかく四人いるから二人ずつ組んでやってみようか。いつもは二人で手合わせしてるときは一人は見ているだけだから」
すかさずアサカは俺の腕に絡みついて来る。
「私はイツキとがいい!」
陽那は俺とアサカをグイっと引き離して間に割り込む。
「ここは公平にじゃんけんで決めよう」
陽那の提案にアサカは抗議する。
「固有スキルの性能差で、私じゃ絶対にヒナとユヅキに勝てないんでしょ!? 固有スキルが成長してからは一瞬先が見えるようになったけど、ヒナとユヅキとじゃんけんしても負けしか見えない」
アサカの抗議に陽那は軽く舌打ちをする。
「ちっ、気が付いたか……」
「やっぱりそうだったんだー! ずるいー」
言い争う陽那とアサカの間に結月が割って入る。
「まあまあ二人とも、あみだくじは? 樹に書いてもらえばズルできないし」
陽那とアサカは納得したようだ。俺は紙に三本の縦線を引きそのうちの一本の下に〇印を書いて折る。三本の線の上に陽那と結月とアサカの名前を書いて、三人に横線を入れてもらった。
三人が横線を入れた後、紙を折ったところを戻し線をたどっていくと結月が〇印の所に行った。俺は結月と手合わせだな。アサカは陽那とか。
「えー、またヒナとー?」
「文句言わないの! お互い魔法系統の固有スキルなんだしちょうどいいでしょ?」
アサカは乗り気でないようなので俺はアサカを励ます。
「アサカ、頑張ったら明日の夜は一杯しようね」
「うん! 頑張る!」
アサカは目を輝かせてやる気になったが、陽那は半眼で不満そうに俺を見ている。俺は陽那の手を引いて抱きしめキスをする。
「陽那、アサカをよろしくね」
すると途端に陽那の表情は緩む。
「やっぱり樹はずるい……」
「ヒナだけずるいー、私にもしてー」
俺は駄々をこねるアサカに近づいて、ギュっと抱きしめてキスをした。
「よーし! 頑張るぞ」
陽那とアサカは訓練用のフィールドに転移していったので結月の方を見る。
「それじゃあ俺達も始めようか」
「OK。でもその前に私にも……」
訴えかけるような目で俺を見ている結月を抱き寄せようとしたら、結月は俺の首に抱き付いてきた。
「フフッ、二人きりになっちゃったね。この隙にしっかりキスしよ」
俺の唇に自分の唇を押し付ける結月。俺の口の中に温かいものが入り込む。熱のこもったキスをしたので俺の身体はその気になってしまうが、結月はそれを軽く撫でた後、笑みを浮かべながら俺の耳元で囁く。
「続きは今夜しようね」
俺はゾクゾクと身震いをしてしまう。声を出せずにコクコクと頷いた。
俺と結月は手を繋ぎながら訓練用のフィールドに転移した。
訓練用のフィールドでは既に陽那とアサカが激しく魔法を撃ち合っている。二人とも頑張っているな。俺も切り替えて頑張るか。
結月が相手なら、黒い刀に魔刃を全力で込めても大丈夫だな。どんな感じか試してみよう。
アサカから貰った黒い刀は虹刀よりも手になじむ。魔刃のオーラも込めやすい気がした。この刀の名前何にしよう? 黒刀でいいか。
刀が良くなったからといって俺と結月の技量の差が埋まる訳では無いので、いつもどうり必死だということは変わらなかった。
――二時間程、結月と打ちあっていた。汗だくになったので今日はここまでにする。アサカ達の方を見るとアサカもバテているな。ログハウスに戻りシャワーを浴びリビングでティータイムにする。
二人の黒髪美少女と一人の金髪美少女がローテーブルを挟んで目の前に座っている。
三人ともキャミソールにショートパンツという露出部の多い部屋着だ。胸部の盛り上がりは三人ともほぼ互角だが、アサカが最も大きく、二番目に陽那、三番目が結月だと思われる。
当然、その部分の大きさだけで、彼女達の魅力に順位なんかつけられるわけは無い。
目のやり場に困るが、俺はコーヒーをすすりつつ三人をチラリチラリと見る。しかし当然のようにスケベ心のこもった視線はすぐに三人にばれる。
結月が頬をわずかに赤くしながら俺に言う。
「変にチラチラと見るから余計にいやらしいね。樹にそんな風に見られると身体が火照ってくるよ」
陽那も照れくさそうに続く。
「堂々と見ればいいのにね。何なら触る?」
「いっ、今はやめておくよ」
触りたいのはやまやまだけど、ここで触ったら絶対我慢できなくなるだろうからな……。
アサカは両腕を組んで、自分の胸を持ち上げるような動作をして俺に上目で視線を送る。
「じゃあ、私のを触る?」
いや、だからね、触りたいのを必死に我慢してるんですよ。陽那と結月の視線が痛いので、俺は冷や汗をかきながら笑顔を作り答える。
「アサカも明日の夜の二人きりの時に触らせてね」
「えー、今触って欲しいなぁ」
アサカは触らせる気満々なので俺は話を逸らす。
「はは……。そういえばアサカって普段何してるの?」
俺達はアサカの話を聞く。アサカもシエラスでは基本的には学生のようだ。
ルイさんからモンスターの討伐を頼まれると学校を休んで、ミリアとガルフとで討伐に行くそうだ。
ちなみにアサカの話す言葉は日本語ではない。しかし、それぞれが所持している魔導器のスマホが魂にリンクしていて、瞬時に翻訳された音声で会話をしている。
微妙な声色や声量も、高度なAIとスパコン並みの演算能力で再現されており、ほとんど違和感も無く、アサカが普通に流暢な日本語を話しているかのように聞こえる。
「アサカの学校にはかっこいい男子とかいないの? アサカは美人だしもてるでしょ?」
俺が何気なく質問すると、アサカはニヤリと嬉しそうな笑みを浮かべる。
「イツキ、心配してるんだ。でも私の学校は女子校だから男の子はいないんだよ」
「そうなのか……」
「安心した?」
「あ……。うん」
そんな感じでしばらく談笑していると、いい時間になったので解散することにした。
俺は三人にハグしてキスをした後、自宅の自室に転移した。夕食を取り風呂に入った後、自室のベッドに座り考え事をする。
結月は陽那ほど表に出して文句を言わないけど、俺がアサカのことも好きになって、色々と不満もあるんだろうな……。全面的に俺が悪いから、変な言い訳しないでしっかり話を聞かないとな……。
少しの間そんなことを考えた後、俺は箱庭に転移した。




