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箱庭のエリシオン ~ゲームの世界に転移したら美少女二人が迫ってくるんだが?~  作者: ゆさま
謎の異空間に飛ばされたら金髪美少女が迫ってくるんだが?

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アサカVS結月

 ――樹たちが異空間『孤島』から帰ってきた翌日。


 陽那と結月は箱庭のログハウスにいた。二人はリビングのソファーに座り樹が来るのを待っていた。陽那が膨れっ面でぼやく。


「樹来ないねー。まだ落ち込んでるなかなー。他の女の子を好きになってるとか、こっちが泣きたいよー!」


 結月の表情も暗い。長いまつ毛を伏せ両手を握り締めている。


「記憶を無くしていたから仕方ないところもあるけど、樹には困ったものだよね。昨日の悲しそうな顔、心配だな……」


 その時、庭に転移ゲートが出現し、何者かが転移してきたのを二人は感知した。


 陽那はその気配を集中して探る。


「これは樹じゃないね。この感じ……アサカ? でも昨日より魂力が大きくなってる?」


 結月は樹ではないことにがっかりしつつ立ち上がった。


「樹に会いに来たのかな……」


 二人が庭に出ると、そこにはアサカが立っていた。


「ユヅキ、もう一度私と勝負して!」


 結月は樹のことが心配でそんな気分ではなかったし、アサカの魂力が大きく上がっているのは感じたが、それでも自分の実力には遠く及ばないと感じていた。


「……それはいいけど、あなたでは相手になるかな?」


「またバカにして!」


「ごめん、バカにしたわけじゃないよ」


 三人は鍛錬用のフィールドに転移する。アサカはアイテムストレージから黒い槍を取り出し構える。結月は青いオーラで刀を作る。


「あまり無理しないでね」


 結月は青白く輝く刀を正眼に構え、アサカと向き合う。そしてアサカに向かってプレッシャーを放った。


「くっ……!」


 アサカは結月の放つ暴風のようなプレッシャーに、ふらつき倒れそうになる。しかし歯を食いしばり槍を地面に突き立てどうにか踏ん張る。


「私は二カ月間、時間の流れを速くした孤島で必死で鍛えてきた。それでもユヅキに届かないのは分かっているんだ! その上でここに来たんだ!」


「記憶喪失のイツキをこそこそと盗むんじゃなくて、正面から奪ってやる!」


 アサカは気迫で結月の放つプレッシャーに耐えている。それを見て結月はアサカの相手をすることにした。


「……分かった。アサカの気持ち。私も本気で相手をするよ」


 アサカは柄から刃先すべてが漆黒の槍に、水魔法を込めて構え、特訓中にルイから聞いたアドバイスを思い出した。




「その黒い槍はウチの製品の中でも最上級の素材、最高の加工技術を駆使して作られた物だ。だが結月の固有スキル『魔刃の支配者』により具現化された刀はそんなものとは比較にならない強度と威力を持っている」


「結月の刀をまともに受けようとすれば、おそらくどんな物でも切断されてしまうだろう」


「槍に魔法を込められるだけ込めて強化しつつ、刃に角度を付けて受け滑らせるようにすれば、いなせるはずだ」


「結月の振るう刀は尋常じゃないほどの精度と速さだ。生半可では絶対に防げない。まずは私の振るう刀くらいは、受けられるようにならないとね」




(ルイ姐にそこまで言わせるほどの実力者……。ならば全力を出し切ってぶつかるのみ!)


 アサカは水魔法を込めて槍を素早く三回突く。三連の高圧、高速の水流が結月に襲い掛かるが魔刃のオーラで作った青い壁にかき消された。結月は冷静にアサカの攻撃を分析する。


(昨日より技の威力が強くなっているな……)


「でも本当の狙いはこっちだね」


 アサカは水流を放った直後に結月の背後に回り槍を叩きつける。しかし結月に軽々と刀で受け止められる。


 アサカは槍を引き連続で突くが全て躱され、結月の刀で峰打ちされた。アサカの体の周りに展開してある水と風魔法の障壁を容易く打ち破られ、跳ね飛ばされてしまった。


 アサカは槍で体を支えつつ立ち上がる。刀身が当たる直前に後ろに跳び衝撃を緩めていたのだ。しかしそれでも、アサカにはかなりのダメージがあるようでふらついていた。


「こんなかすり傷すぐに治る!」


 アサカは自身に治癒魔法を掛け怪我を治し、再び水と風魔法の障壁を展開する。


 これで決まったと思った結月は、立ち上がるアサカに感心する。


「確かに強くなってるね」


 全身全霊の攻撃を軽くいなされ、軽く攻撃されただけで大ダメージを受けるこの状況に結月の言葉はアサカには皮肉にも聞こえた。アサカは歯を食いしばる。


「……それはどうも」


 アサカは間合いを取りつつ、槍を何度も振るう。一振りごとに水魔法と風魔法を合わせて作った刃が次々と青い壁に当たっていくが破ることはできない。アサカは険しい表情で呟く。


「くっ、なんて強力な障壁」

 

 結月は離れた間合いのまま刀を振るった。流星のように無数の青い刃がアサカめがけて飛んで行き、アサカの放つ魔法の刃を全て粉砕し押し返す。


 アサカは必死に躱し槍で防ぐが、徐々に体の周囲に展開している障壁が削られていく。


「まだこんなにも実力に差があるなんて……でも私だってイツキと一緒にいたいんだ!!」


 その言葉を聞いた結月は刀を鞘に納め、居合切りの構えを取る。


 結月から立ち込める圧倒的な魔力と気迫。アサカはその一撃が放たれたら自身では防げないだろうと思った。


「これがイツキに対してのユヅキの想いの強さ? でもそれだけは私だって負けない!」


 アサカは水と風魔法をありったけ槍に込めて結月に突進する。


 結月はその突きを紙一重で躱し、刀の柄の部分でアサカのみぞおちを打った。


 アサカは気を失いその場に倒れ込み、それを結月が抱き支える。


「確かに昨日よりも強くなってるよ。でもまだまだ。……大体、樹は強さで女の子を選んだりしないよ」


 


 結月はログハウスのリビングまでアサカを運んで行き、アサカをソファーに寝かせる。


「後は樹に任せるか……」


 陽那はソファーに横になる金髪美少女に目をやると渋い表情で口を開く。


「樹にメッセージ送る? アサカ来てるからおいでって」


 結月はその言葉に顔を顰めつつも渋々賛同する。


「うぅぅ……、不本意だけど仕方ないか」


 陽那は肩を落として苦笑いをしている。


「樹が飛んで来るのが目に浮かぶ。この子にだいぶ惚れてるみたいだったから……」


 結月は苦悩を滲ませながらも、スマホを手に取った。


「昨日の樹、すごく落ち込んで辛そうだったもんね。かわいそうだからメッセージ送るよ」




 * * *




 ――自室でうなだれる樹。


 俺はアサカが好きだ。でも同じくらい陽那と結月も好き。三人の女の子を好きになってしまうなんてクズだなぁ……。


 いや、二股も三股もたいして変わらないからいいか? でも陽那と結月は怒るよなぁ……。ならこの機会に三人の中で誰か一人を選ぶか? 三人とも大好きだから無理だ……。俺は思考のループにはまっていた。


 その時メッセージが届く。結月か……えっ箱庭にアサカがいるの!? 俺はすぐに箱庭に転移した。




 箱庭内のいつものログハウスに入り、リビングに行く。そこにはソファーに並んで座っている陽那と結月。それからローテーブルを挟んで向かい側のソファーに横になっているアサカがいた。


 陽那は恨めしそうに俺を見た


「樹、早かったね……」


 結月もどんよりと曇った表情だ。


「私達待ってたのに……。アサカがいると分かったら早く来たね。悲しいなぁ……」


「うっ……、ゴメン」


「私に挑戦してきたから、気絶させておいたよ。あの異空間で時間の流れを速くして二カ月鍛えてきたみたい」


 アサカに近づいて抱きしめたかったが、陽那と結月の視線が痛いのでできない。


 俺はソファーに横になっているアサカに寄り、床に両膝をついてアサカの頭を撫でて名前を呼んだ。


 するとアサカは目を覚まし俺と目が合った。


「あれ、目の前にイツキがいる。夢かな?」


 そう言うと、俺の首に腕を回し、自分の顔に抱き寄せる。俺は抵抗せずに身をまかせた。アサカはそのまま自分の唇に俺の唇を押し付ける。


 それを見た陽那は、俺の頭を両手でつかみアサカから引き離した。


「コラコラ、イチャつくな!」


 アサカは「何だ夢じゃないのか」と、とぼける。


 陽那は目を吊り上げて「わざとらしいよ!」とプルプル震えた。


 アサカは俺の顔をまじまじと見つめる。


「二カ月ぶり……、いやイツキからすれば昨日会ったばかりか。イツキどうしたの? やつれてるね」


「そ……それは」


「もしかして、私がバイバイって言ったから落ち込んでたの?」


 そこへ結月が割って入ってきた。


「二人きりの世界に行かないの。それで樹はどうするつもりなの?」


「俺……アサカのことも好きになってしまった。陽那と結月とアサカ、三人とも同じくらい好きなんだ」


 陽那は呆れたのか、半眼になって「うわ、言い切った。三股男だね」と声をあげた。


 アサカは間髪入れずに言う。


「私は側室でもいいよ!」


 結月はため息を吐く。


「一応言っておくけど、私達の国では一夫多妻制は認められていないからね」


 アサカは抗議するかのように言う。


「二股も三股もあんまり変わらないでしょ! 私はなんでもいいからイツキと一緒にいたいの! 日替わりで一人ずつイツキと寝ればいいでしょ!」


 陽那はアサカの言葉に反応する。


「もしかして異空間にいた12日間、毎晩してたの?」


「イツキと会って三日目に初めてしてからは、毎日朝晩してたよ」


 アサカが得意げに言うと、陽那と結月は目を丸くして声を合わせた。


「毎日朝晩!?」


 陽那は悔しそうに拳を握って震えている。


「しかも、初めてするまでたったの三日? 私なんて……」


 結月も険しい表情だが、陽那なだめた。


「陽那、落ち着いて。それで話を戻すけど、樹はどうするつもりなの?」


 俺は恐る恐る言う。


「三人と仲良くしたいって言ったら怒るよね……?」


 間髪入れずにアサカは答える。


「ううん、私は嬉しい!」


 陽那は肩を落としてぼやく。


「うう……、やっぱりこうなるのか」


 結月は眉を八の字にして俺をじっと見る。


「ダメって言ったら、樹はまた不幸のどん底みたいな顔をするんでしょ?」


 アサカは嬉しそうに目を輝かせた。


「イツキは私と会えないと悲しいんだね。仕方ないから一緒にいてあげるよ!」


 俺は三人の表情を伺う。陽那は怒っているというよりも、諦めてる? 結月もそれほど怒っていないように見えるが……。


「いい……かな?」


「良くは無いけど仕方ない」


「同じく」


 陽那と結月は渋々だがアサカも一緒にいることを許してくれるようだ。俺は嬉しくなり「ありがとう!!」と言うと、陽那の表情が緩んだ。


「やっと樹が笑ってくれた」


 結月もフッと顔をほころばせた。


「あんまり悲しそうな顔しないでよ。こっちまで悲しくなるんだから」


 二人には心配を掛けたので「ごめん」と頭を下げると、陽那は強めの口調で釘を刺す。


「樹! これ以上女の子を口説いたら駄目だからね!」


「別に口説いたわけでは……」


 さらに陽那は口調を強め一言。


「わかった!?」


「……はい」


 こうして俺は三人の美少女と、仲良くやっていくことになったのだった。


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