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箱庭のエリシオン ~ゲームの世界に転移したら美少女二人が迫ってくるんだが?~  作者: ゆさま
謎の異空間に飛ばされたら金髪美少女が迫ってくるんだが?
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バイバイ

 この異空間に転送されてきて何日か経った。


 俺は毎日アサカと鍛錬し、彼女はどんどん技量を上げていった。


 そして毎日アサカとイチャイチャした。ミリアから「仲のいい夫婦みたいだね」とからかわれることもあったが、それがとても心地よかった。


 実際俺はアサカが好きでたまらなかったし、アサカも俺にことあるごとに大好きと言ってくれた。


 そんなある日、ミリアが俺達を制御室に呼んで説明をした。


「今日でこの異空間にきて12日目、当初の予想よりもわずかに早く時間加速を停止するためのロックの解析が終わったわ」


「既に時間加速を停止したから、あと一時間もすれば社長がここに転移ゲートを開通して来てくれるはず」


 ガルフ深くため息を吐いた。


「ようやくレジーナに帰れるのか。長かったな」


 アサカは俺の腕を抱いて、くっついて微笑んでいる。


「私はイツキと一緒なら、もう少しここにいても良かったけどね」


 転移ゲートが開通して帰れるのか……。あれ、俺どこに帰るんだ?


「俺は自分がどこに帰ればいいのかも、思い出せないんだけど……?」


 アサカは俺の手を握り嬉しそうだ。


「記憶が戻るまで私達と一緒にいる?」


 ミリアは俺の言葉を聞いて、少し考える。


「社長ならイツキのことも知っているはずだから、何とかしてくれるとは思うけど……」


 俺はアサカと仲良くすることで忘れていた不安を、再び感じてしまった。


「アサカ、今日は鍛錬せずに、迎えが来るまで二人で部屋にいよう」


「……いいよ」


 俺の言葉にアサカは一瞬戸惑った様子だったが、頷いたので二人で部屋に行った。


 そして俺達は手を繋いだまま、出会ってから今日にいたるまでのことを、思い出しながら話をした。


 一時間程そうしていると、突如この空間内に強力な魂力の持ち主が三人出現したのを感じ取った。


 それらは直感的に敵じゃなくて、知っている人だと思った。


 アサカのスマホにミリアから「社長が来たよ」とメッセージが来た。それを確認してアサカは立ち上がる。


「私達も行こうか」


 俺は部屋を出ようとするアサカの腕を掴み、抱き寄せてキスをした。


「イツキどうしたの?」


「いや、何でもない行こうか」


 俺の心の奥に、得体の知れない不安が湧き上がり、再びズキズキと頭が痛みだした。




 * * *




 ――ルイ、陽那、結月が転移ゲートを抜けた先は森の中だった。


 三人は空に浮かび周囲を確認すると、高い塀に囲まれた施設を見つけた。三人はその施設へ向かって飛んだ。


 その施設の入り口まで行くと、ミリアとガルフが待っていた。ミリアはルイに軽く頭を下げた。


「社長、来てくれてありがとう」


 ガルフも続けて礼を言う。


「ルイ姐、来てくれたのはありがたいけど、待ちくたびれた」


 ルイは苦笑いして応じる。


「すまない。ミリアとガルフは無事のようだな。アサカと樹は無事か?」


 ルイの問いにミリアが答える。


「ええ、二人とも元気よ。もうすぐ出てくると思うけど……。社長、いろいろ報告したいことがあるから制御室にきて」


 ルイ、ミリア、ガルフは制御室に向かった。ミリアは陽那と結月を見てルイに聞く。


「あの二人の黒髪の可愛い子たちは……もしかしてイツキの?」


「ああ、樹の恋人だ」


 ガルフはそれを聞いて驚く。


「さすがイツキだな。あんな美人二人が恋人とは、アサカも大変だな」


「やはりアサカと樹は仲良くなってしまったか。これは荒れるな」

  

 フッと笑うルイに、ミリアは不満そうだ。


「社長、楽しんでない?」


 ルイは真顔に戻って「いや、別に」と素っ気なく返す。


 ミリアは手を握りしめ「アサカ、頑張りなさい……」と呟いた。




 ルイ達が制御室に行ったのと入れ違いで、アサカと樹が出てきた。


 樹の姿を見つけ、駆け寄ろうとした陽那と結月の前に、アサカが敵意むき出しの目つきで立ちはだかった。


「私のイツキになにか?」


 アサカの様子を見て、陽那はため息を吐く。


「やっぱりこうなってるのか。しかも画像で見るより美人だね」


 結月は、樹が自分や陽那を前にしても、なんの反応も無いことに違和感を感じる。


「陽那、待って。樹の様子が変だよ」


 陽那と結月は樹の目をじっと見つめ樹の様子を探る。そして樹の現状を把握した陽那は驚き、叫び声を上げる。


「記憶喪失!? 私達のこと忘れちゃったの?」


 結月は歯を食いしばり、顔をしかめた。


「くっ、樹を守れなかったのは、私の力不足が原因だけどこれはあんまりだ」


 アサカに近づき微笑みかける陽那。


「はじめまして。私は陽那。樹の恋人だよ。樹を少し借りるね」


 そして陽那は、樹に向かって話し掛ける。


「樹が生きていてくれて良かった。でも私達を忘れちゃったのは許せないから、ちょっとお仕置するよ」


 陽那は樹に向かって、手のひらをかざした。


 その瞬間、天を衝き上げるような竜巻が発生し、樹を飲み込んで上空へ跳ね飛ばした。そして自身も、樹を追って上空へ飛んで行った。


 それを確認した結月は「任せた」と呟いた。


 目の前で樹が竜巻に飲み込まれて、アサカは呆然とするが、すぐ我に返って結月を睨みつける。


「くっ、イツキを殺す気なの?」


 アサカの問いに、結月は落ち着いた様子で応える。


「私は樹の恋人の結月。よろしくね。樹ならあの程度の魔法では、かすり傷一つ負わないよ」


 アサカは、樹が跳ね飛ばされた方に視線を向けて、慌てて「イツキを追わなきゃ!」と追いかけようとした。


 しかし、微笑みを湛えた結月が「行かせないよ」とアサカの行く手を阻んだ。


 アサカはニヤリと笑い言い放つ。


「この私を止められると思っているの?」


 結月は微笑んだまま「止めるよ?」と応える。


 結月の余裕を感じさせる表情に苛立ちを感じたアサカは「上等! なら実力行使させてもらうよ!!」と吠えた。


 アサカは虹色の槍を握り、結月に攻撃を仕掛ける。払い、突き、振り下ろす。流れるような動きで連続攻撃を繰り出すが、結月はそのすべてを軽々避ける。


 アサカは自分の攻撃が、結月にかすりもしないことに驚く。


「思っていたより強いんだね。あんなに強いイツキに守られているんだから、たいしたことないんだと思ってた」


「否定はしない。でも正しくも無い」


「美人だからって調子に乗って!!」


 アサカは槍に水魔法を込めて勢いよく突きを放つ。槍から高圧の水流が撃ち出され結月に襲い掛かるが、瞬時に青いオーラが結月の前に壁を作り完全に防がれてしまった。


「そんな……」


(イツキと二人で練習した技でさえ全く効かないなんて)


 その技を見た結月は考える。


(今の技……他の攻撃よりも数段強くて速かった。油断していたわけじゃないけど気を付けないとね) 


 アサカは自分の切り札ともいえる技が、結月に全く通用しなかったことで自分が結月より弱と理解した。


 しかしアサカとしては、樹を奪うつもりでいる以上負けを認めるわけにはいかなかった。


「さっきから攻撃してこないけど、私が弱すぎて反撃する気にもならないとでも言うの?」


 アサカの言葉に、結月は質問で返す。


「樹って、ここに来た時大怪我していたの?」


「してたよ。頭の怪我が酷かった。でも私が治した」


「樹を治してくれてありがとう。お礼に少しだけ本気を見せてあげる」


 そう言うと結月の右手に強大な魔力が青いオーラとなって吹き出し、収束し圧縮され青白く輝く刀になった。


 ゾッと悪寒が走ったアサカは、本能的にバックステップで結月から距離を取った。


「まさか、魔力を固めて武器を具現化するなんて……支配者クラスの固有スキル持ちだとでもいうの? ありえない!」


 結月はアサカに背を向け軽く刀を振るう。すると振るった方向の地面が裂け、木々が薙ぎ倒された。地面にできた裂け目は底が見えないほど深く、はるか遠くまで続いていた。


 結月は振り返り「まだやる?」とアサカに微笑んだ。アサカは戦意を失い、その場に両膝をついてへたり込んだ。


 結月は青白く輝く刀を消して、アサカに歩み寄る。


「少し話しをしよう」




 * * *




 ――上空に跳ね飛ばされた樹と、追いかける陽那。




 目の前にいる黒髪の美少女が、手のひらを俺に向けたかと思うと突然竜巻が発生して俺を跳ね飛ばした。


 瞬時に反応して多重障壁を発生させたから無傷ではあったが、少しでも反応が遅れたら大怪我だったな。


「君は俺の恋人なんだよね?」


「本当に私のこと忘れちゃったんだね。傷つくなぁ……。樹、守ってあげられなくてごめん。でも思い出してもらうから覚悟してね」


 黒髪の美少女は銀色の刀を二本取り出した。ミリアの亜空間収納とは違うな。彼女は一本を俺に向かって差し出すので、俺はそれを受け取った。


「少し私の相手をしてもらうよ」


 彼女はそう言って間合いを取った。俺は刀を構えて様子を伺う。


 黒髪の美少女は、予備動作無しで炎の矢を5発連続で俺に撃ってきた。


 魔導機兵の放つ火球よりもはるかに速く、威力も強そうだったが全く殺気を感じない。むしろ俺に対する好意があふれているように感じる。


 俺は全ての炎の矢を躱すと、黒髪の美少女は嬉しそうに微笑んだ。


「記憶は失っていても戦い方は覚えているみたいだね。三人で必死に鍛えたもんね」


 黒髪の美少女は、銀色の刀に炎を纏わせ俺に鋭く斬りかかった。俺は刀に氷を纏わせてそれを受ける。


 それと同時に四方から電撃、炎の矢、氷の矢、岩の槍が俺に向かって飛んできた。咄嗟に多重障壁を展開するもあっさりと破壊されてしまった。


 さらに受けていた刀を力で強引に弾かれ、その一瞬で風魔法を放ち俺は吹き飛ばされてしまった。

 

 動きは速すぎて目で追えない、どんな攻撃が来るのかは感覚で分かるものの避けきれない。その上あの華奢な体躯で俺よりも力が強いとは。


 でもこの感覚、俺は良く知っている……。胸の奥がズキズキと痛む。俺は頭に左手を当て深く考え込む。


 すると、黒髪の美少女は刀をしまって俺に近づき両手で抱きしめてきた。


「樹、大好き。他の女の子に手を出したこと、怒らないから帰っておいで」


 そう言うと俺にキスをした。この感触、この温もり、この匂い。


 俺が絶対に忘れてはいけないこと、絶対に忘れてはいけない人、俺が絶対に守ると誓った人。それらが頭の中を駆け巡って、胸の痛みが治まっていく。


「陽那ごめん……。心配かけたね」


「全くだよ。あとで結月と一緒にお説教するからね!」


「えっ!? 今怒らないって言ったのに……」


「言ったっけ? とにかく結月とアサカの所に戻ろうか」


「……ああ」




 俺と陽那が戻ると、結月とアサカは話をしていた。アサカは俺を見ると一目で記憶が戻っていることに気が付いたみたいだった。


「イツキ、記憶が戻ったんだね。私のことは忘れてない?」


「もちろん忘れるわけ無いよ」


「じゃあ、これからも私と一緒にいてくれるの?」


 アサカの問いに俺が答えられないでいると、アサカは目から涙がこぼれ落ちた。


「そうだよね……」


「こんなに美人で強い子が彼女じゃ、私なんかに乗り換えてくれないよね。イツキ、ありがとう。短い間だったけど楽しかったよ」


 アサカは悲しそうに苦笑いして、時折言葉に詰まりながら俺に言う。


 それを見て胸が締め付けられたが、どう言葉を掛ければいいのか分からずに、俺は「アサカ……」と名前を呼んだ。


 アサカは俺に背を向け、細い肩を震わせて言葉を絞りだす。


「謝らないでね。最初からこうなるかもって思ってはいたんだ。でもイツキを好きになるのを止められなかった」


「もう行って……。これ以上は辛すぎるよ」


 俺がアサカに何も言えないまま突っ立っていると、陽那がスマホを操作して転移ゲートを出現させた。


 転移ゲートへと陽那と結月に引っ張り込まれる瞬間に、アサカは振り返って「バイバイ、イツキ」と言うのが見えた。




 転移ゲートを抜けて、自分の住んでいる街に帰ってきた。


 時間が加速している異空間では12日程度過ごしたが、こっちではせいぜい30分程度しか経っていないだろう。


 時間加速を停止してからを含めると魔導器で転送されてから2時間ぐらいは経っているか……。


 陽那は俺の顔を覗き込んだ。


「樹……、なんて顔してるの? 説教する気も無くなったよ」


「今日は一人にしておいてあげよ」


 結月は俺を気遣かっているようで、陽那にそう言ってから、俺の手を両手で握り目を見つめる。


「明日も箱庭に来てね。私達待ってるからね」




 俺は自宅の部屋に戻り、ベッドに倒れ込んだ。


 命より大事なはずの陽那と結月を忘れてしまったこと、そしてアサカを本気で好きになってしまいアサカに悲しい思いをさせてしまったこと。


 それらを思い、自分の不甲斐なさに失望した。


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