彼女出来た?
――センターにある、オサレなリア充カフェにて。
鳴海さんとテーブル席に向かい合って座っている。俺の人生で、鳴海さんと二人でこんな店に入る日が来るなんて……!
俺が感激に浸っていると、鳴海さんが俺の目の前で手を振る。
「おーい、なにニヤニヤしてるのー?」
「はっ! なんでもないよ」
いかん。不気味な奴と思われたら、鳴海さんと仲良くなるチャンスが台無しだ。しっかりしろ、俺。
「とりあえず注文しようか」
テーブルに置いてあるタブレット端末を鳴海さんに手渡した。
「うわー、メニューがいっぱいだね。どれにしよっかなー」
しばらくして鳴海さんは注文を決めたようで、俺にタブレット端末を渡す。
タブレット端末には、色とりどりのケーキやパフェ、飲み物がいくつも表示されている。
何でコーヒーだけでこんなに種類があるんだ? 一通り目を通した後で、結局カフェオレと苺のショートケーキにした。
注文した飲み物とケーキがテーブルに運ばれてくると、鳴海さんは目を輝かせながらケーキを頬張る。
「んー、このケーキ、美味しい!」
どうやら、機嫌も良くなったみたいだ。
ケーキを食べながらこの世界のことや、お互いの学校生活の近況など話す。もちろん、双原の話題にならないように、気を使いながら話をした。
鳴海さんは向かい合って話をしていると、目をじっと見て話すので、俺の心臓は高鳴って仕方ない。もっとも、鳴海さんは何も意識していないのだろうけど。
ケーキも食べ終わり、二人でリア充カフェを出た。さて、これからどうしようか、と思っていると、鳴海さんが提案する。
「せっかくお金が手に入ったんだから買い物しようよ」
買い物デートのお誘い!? 俺は二つ返事で了承し、二人でショッピングモールに向かった。
* * *
この箱庭内にあるショッピングモールは、いわゆる大規模店舗ではなく、地方にありそうな程々の大きさの二階建ての店舗だ。
建物内部には、様々な服の店や食料品売り場、本屋、薬店、フードコート、ゲームコーナー等々があり現実世界とほとんど変わらない。
鳴海さんはキョロキョロと店舗内を見回す。
「それにしても、ここがゲームの中なんて信じられないね。ほとんど現実と変わらないけど?」
「そうだよね、でもあの辺りはゲームの世界って感じがするよ」
俺は武器を売っている店を指差した。ショーケースの中には剣や槍、他にも多種多様な武器が陳列されている。
数人のスタッフさんがいるが、全員美人なお姉さんだ。俺はつい目を奪われてしまう。
「へー、柳津君はああいうお姉さん系が好みなんだ?」
鳴海さんが冷やかすように声を掛けてきたので、俺は慌てて否定する。
「違うよ! 店のスタッフさんって髪や瞳の色がファンタジーな感じだから、ここはゲームの世界なんだなぁ、って思っただけだよ。それに俺の好みのタイプは、なる……じゃなくって、えっと、その……」
危うく告白しそうになり、俺があたふたしていると、鳴海さんは俺から視線を外し、ゲームコーナーを指差す。
「あ、あれやろうよ」
「……いいよ」
二人でゲームコーナーに行き、レースゲームをやることにした。ゲームの世界でゲームすることになるとはね。
いくつか並んでいる筐体のシートに二人並んで座り、ハンドルを握ってゲームスタートだ。
俺より先に最初のコーナーに侵入した鳴海さんは、手慣れた様子でドリフトをしながら声を掛けてきた。
「柳津君ってさー、彼女出来た?」
俺はドキッとして操作を誤り、派手にコースアウトしてしまった。ハンドルを大きく切ってコースに戻りつつ答える。
「出来てないよ」
「作らないの?」
「そりゃ欲しいけど、俺ヘタレだから女の子に話し掛けたりできないし。鳴海さんこそ彼氏いるの?」
「気になる?」
「いや、まあ、……うん」
「いないよ。大体彼氏がいたら、双原君を追い払ってもらってるよ」
「それもそうだよね」
鳴海さんの勝利でゲームは終了した。筐体のシートから立ち上がり鳴海さんを見ると、何やら不敵な笑みを浮かべている。
「柳津君はもっと積極的になったら、意外と上手くいくかもね」
どういう意味だ? もう一度告白したらOKしてもらえるとか? んな訳ないか。DTは好きな女子の行動とか発言を、自分に都合良く解釈するってなんかで見たな。ここは冷静に慎重にしないと……。
さて、お腹もすいたことだし、そろそろ夕食にするか。二人でフードコートに向かった。
* * *
フードコートでは、再び鳴海さんと対面で着席した。ドキドキしながらの食事になりそうだ。
「柳津君の学校には可愛い女の子とかいないの?」
先ほどに続き恋バナ関連だな。女子ってそういうものなのか?
「同じクラスに一人すごく可愛い子がいるよ」
鳴海さんの表情に、一瞬ピクっと変化があったような気がする……。
「へぇー、例えばその子と私って、柳津君的にはどっちが可愛いと思う?」
『私』が可愛いのは前提なんだね。さすがだ。
「うーん、どっちかな? 両方とも物凄く可愛いからな……」
俺は考えながら、つい本音を口にしてしまう。すると鳴海さんは半眼で俺の目をジッと視る。
「あのね、そういう時は、目の前にいる子の方が可愛いって言うべきなんだよ!」
「え? あ、鳴海さんの方が可愛いよ」
鳴海さんはまじまじと俺の目を見て「ホントに?」と確認する。そのあまりの可愛さに俺の心臓は破裂しそうだ。
俺の口から「ホントだよ。鳴海さんの方が可愛い」と言葉が漏れると、鳴海さんは「よろしい」と満足げに微笑んだ。
ふう、女子との会話は楽しいが難しいな。それにしても面と向かって可愛いとか言ってしまった。今になって顔が熱くなってきた。
* * *
食事も終わり、宿泊施設に向かった。フロントで別れ際に鳴海さんを見る。すると、俺の視線に気が付いたのか鳴海さんはこちらを向いた。
「どうしたの? 私と一緒の部屋に泊まりたいとか?」
鳴海さんはニンマリと笑顔を浮かべている。俺は慌てて首を横に振った。そして一息ついて感謝を告げる。
「鳴海さんのおかげで、今日はとても楽しかった。ありがとう」
「私も楽しかったよ。ありがとう。ゲームがクリアされるまで時間が掛かりそうだから、今後ともよろしくね」
なんて素敵な笑顔だ。俺が感激していると鳴海さんは「じゃ、おやすみ」と手を振って部屋に向かって行った。
俺も「おやすみ」と返事をして、高鳴る自分の心音を聞きながら、鳴海さんの後ろ姿を見ていた。