箱庭の楽園
――9月1日。
長い夏休みも終わり今日から学校だ。今年の夏休みは、時間を加速した箱庭にいた日数も入れると、約三カ月だったのだから相当長かった……。
始業式が終わりクラスに戻ると、担任の先生が転校生を紹介した。
「鳴海陽那です。よろしくお願いします!」
元気よく挨拶するのは、見知ったポニーテールの美少女だ。
クラスの男子どもは沸くが、残念だったなと変な優越感を感じてしまう。転校生がくる際のお約束なのか、俺の隣に何故か空いてる席があり陽那はその席に座った。
「よろしくね! 樹!」
陽那が微笑んで声を掛けてくる。この学校の制服もよく似合っていて可愛い。
「よろしく。陽那」
俺は笑顔で応える。親しそうに名前で呼び合う俺に周りの男子からの視線が痛い。
HRが終わり陽那と結月が俺に近づいてきた。
「樹、帰ろ」
二人の美少女が同時に、それも親し気に声を掛けたことで、クラス中の男子のヘイトが俺に集まる気がした。その上二人は俺の腕に抱き付いた。
箱庭では普段からこんな感じではあるが、学校内では他の人の目があるので正直恥ずかしい。二人は全く気にしていないのか、柔らかい部分を容赦なく押し付けてくる。
俺は気を紛らわせるために、口を開いた。
「ルイさんに箱庭に呼ばれてるから、着替えたら箱庭のログハウスに集合ね」
「りょうかーい」
二人は甘えた口調で声を揃えた。
* * *
自宅に帰り、箱庭に転移するとルイさんが待っていた。
いつものように、リビングのソファーに座ると、ルイさんが高級そうなお菓子と紅茶を出してくれた。
「教団は殲滅したが、おそらくまだ全て終わっていない。これからも地球にモンスターが転送される可能性はある」
陽那は顔を引きるらせた。
「え、またあのドラゴンと同じ強さのやつとかですか?」
「いや、あれほど強大な魂力のモンスターは、レジーナ全てを探してもそう見つけられないだろう」
「それに、仮にあの強さのモンスターが転送されても、今の君達の魂力は約50000だ。魂力差の大きな格上のモンスターを倒したことにより魂力が大きく上昇している。固有スキルの成長もあるので、次は楽に倒せるだろう」
いやぁ、アレを楽に倒せると言われても、にわかには信じられませんって……。俺はドン引きしていたが、ルイさんは涼しい顔で続ける。
「そういえば、あのモンスターを倒した報酬だが……。高校生の君達にあまり高額な現金を渡すのもどうかとは思ったのだが、命がけで倒してくれたからな。100万円ずつを渡しておくよ。仮に君達が負けていれば二カ月ほどで地球は壊滅していただろう。それを考えれば安いものだ」
100万!? 凄い大金だ! 何に使おうか……。
俺の頬が緩むと同時に、ルイさんがニタリと笑った。
「将来の結婚資金の足しにでもしてくれ」
「樹、結婚資金だって」
陽那と結月は俺の方を見て笑顔で声を揃えた。この人、こうなることが分かってて言ってるよな……。
俺が言葉を出せずに苦笑いをしていると、ルイさんが話題を変える。
「君達の魂力は、今やレジーナの人々と比べても最上位の強さだ。将来、私の会社に来ないか? 大学に進学して、卒業した後でもいい」
「はい、考えておきます」
その後、多少の雑談をした後、ルイさんは転移ゲートで去っていった。
俺達は――。
陽那が待ってましたとばかりに俺に抱き着く。
「じゃあさっそくしようかー」
結月も既に上気した表情で俺に抱き着く。
「今日は、朝からずっとしたかったんだ。もう初めてじゃないから、三人でもいいよね?」
「え? あ、……うん」
呆気に取られている俺の腕を二人はガシッと掴み、俺の部屋まで引っ張って連れていった。
陽那と結月。俺の大事な人。二人はこんな俺のことを心から慕ってくれている。
この箱庭に転移させられていなければ、陽那と再会することも出来なかっただろう。結月とだってクラスメイトとはいえ仲良くなるどころか、ろくに話すことも無かっただろう。
雲の上の存在だと思っていた二人の美少女と仲良くなれた。今までの人生で……、いや、これからの人生を全部見通すことが出来たとしても、これ以上の幸運は無いだろうと思える。
だからこの箱庭は、俺にとっては本当に楽園なんだ。
この楽園で経験したいくつもの奇跡に感謝して、これからも二人の女神を、命を懸けて守っていくと俺は決意するのだった。




