しようか
目が覚めると、病室のベッドの上だった。ベッドの傍らにはルイさんが立っていた。
「目が覚めたようだな。ここは箱庭内の治療用の施設だ」
「ルイさんが助けてくれたんですか?」
「いや、モンスターを倒して力尽きた君達を、私の部下がここへ運んできた」
「陽那と結月は?」
「無事だ。怪我も魔法で完治している」
俺が「良かった」と安堵の息をつくと、ルイさんは穏やかな表情になる。
「よくあのモンスターに勝てたな。あれほどの強さのモンスターが地球に転移されてしまうとは、完全に想定外だった」
「ははっ、火事場の馬鹿力って奴かな? 二人を命を懸けてでも守るって思ったら、最後の一撃は凄い威力だった」
ルイさんは俺をじっと見つめる。
「ふむ。固有スキルが成長しているようだな。『恋に殉ずる者』か……。恋人状態の者の強化量が増えている。さらに恋人状態の者の固有スキルを使用できるようだな」
「……だから最後、俺の握る虹刀に青いオーラが宿って、ドラゴンの動きが完全に見えたのか」
「君も立派なチートスキル持ちになったな。それも桁違いの」
「いや、俺の力じゃないですよ。陽那と結月の力だ。やっぱり俺はあの二人がいないと何もできない」
ルイさんは、フッと軽く笑ったように見えた。
「そうか、君がそう言うならそうなんだろう」
バタン、とドアが開き陽那と結月が部屋に入ってきてベッドに駆け寄る。
陽那は目に涙を浮かべながら、両手で俺の右手を握る。
「樹、無事でよかった……樹が死んじゃうかと思ったよ。私が命を懸けて守るって言ったのに、守れなかった。樹が私を守ってくれた」
結月も涙目で、今にも泣き出しそうになりながら、両手で俺の左手を握る。
「あの時、もう二度と樹に会えなくなるかと思った。無事でいてくれて本当に良かった。樹が死んでしまったら、私だって生きてる意味がなくなるんだから」
俺が「心配かけてごめん」と声を掛けると、二人は目に溜まった涙を溢して俺に抱き着いた。
二人の温もりを感じ、俺の視界も滲んでいくのを感じながら、そっと二人の背を撫でた。
「樹君、君の体には異常は無い。もう帰ってもいいよ。私は事後処理があるのでこれで失礼する」
そう言い残してルイさんは部屋を出て行った。
「陽那、結月、地球に帰る前に俺達の家に寄って行こうか?」
「うん、いいよ」
箱庭の治療施設から出て、俺達の家に歩いて向かう。陽那と結月はしっかりと俺の腕に抱き付いている。少し歩くといつものログハウスに着いた。
ログハウスに入り、リビングのソファーに三人並んで座る。俺は二人の顔を交互に見て話し出した。
「俺、あのドラゴンと戦っているときに、陽那と結月の血を見て思ったんだ。もうこのまま会えなくなるかもって……凄く怖かった」
二人は黙ったまま、俺の肩に頭を乗せて寄り添っている。
「で、凄く後悔した。二人はいつも俺に好意を向けてくれているのに、俺は二人にきちんと向き合って無かったな……って」
俺は話しながら二人を抱きよせた。
「陽那も結月も俺の大切な人なんだ。どっちかだけなんて選べない。二人とも大好きだ。ずっと一緒に居て欲しい……」
二人は頷きながら俺の話を聞いてくれている。
「それでね、その……しようか? 結局、俺は自分に都合のいいクズ野郎だって、自分でも思うけど……」
「いいよ。その先は何も言わなくても。私が樹としたいんだから」
陽那が俺の言葉をさえぎり、俺の手を握り優しく微笑むと、結月も笑顔で俺の手を握り、触れる程に顔を寄せる。
「そうだね。私だって樹としたいんだよ」
二人がまた俺を甘やかしてくれたのでホッとした。
「ありがとう。それでね、初めてなのに三人でするのもちょっと……」
二人はハッとして互いに顔を見合わせ、じゃんけんを始める。じゃんけんに挑む二人からは今までにない気迫を感じる。
「ジャンケン、ポン!!」
「やった!」
「くっ!」
俺はその日の夜、じゃんけんに勝った方と一緒に過ごした。今まで我慢していた分を発散するかの様に、お互いに何度も求め合い、深くつながった。
負けた方とは翌日一緒に箱庭のログハウスを訪れた。一日余分に我慢させてしまった分を取り戻すかのように求められ、俺はそれに応えた。
そんなこんなで、俺は陽那と結月としてしまったのだった。
え? どっちがじゃんけんに勝ったかって? それは秘密です……。
* * *
レジーナにあるルイの会社『エルピス』の社長室。
ルイは一人、厳しい表情で椅子に座り考え事をしている。
「7万もの魂力のモンスターを地球に転送されるとは予想外だった。我々の諜報部ですら把握できないとはな……。あの三人が奇跡的に倒していなければ、被害は甚大だっただろう」
そう言うとルイは組んだ手に力を入れて歯ぎしりをする。
「教団にあのレベルの魂力のモンスターを捕獲できるとは、到底思えない。裏で糸を引いている奴がいるのは確実か……」
「教団の戦力が、想定よりもかなり低かったのも気になる。主戦力は既に退避していた?」
「私は、何を見落としている……?」