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箱庭のエリシオン ~ゲームの世界に転移したら美少女二人が迫ってくるんだが?~  作者: ゆさま
ゲームの世界に転移したら美少女二人が迫ってくるんだが?

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命に代えても

 8月29日の14時頃、箱庭のログハウスで三人でまったりしていると、アシストが通話の着信を知らせた。相手はルイさんだった。


「教団は制圧したが、最後に問題が発生した。教団の最後の悪あがきで、切り札の強力なモンスターを地球に転送されてしまった」


「人の近づかない秘境で発生し、長年かけて大量のマナと魔力をため込んだ個体で、魂力は7万以上だ。それほどの強力なモンスターを捕獲していたとは、完全に想定外だった」


「君達三人以外の箱庭計画の参加者では、全く歯が立たないどころか足手まといだ。君達でも勝つのは厳しいだろう。討伐隊を送るつもりだが少し時間が掛かる。それまで足止めしてくれないか」


 7万って、俺たちの二倍以上あるじゃないか。でも、陽那と結月が苦戦したり、まして負けるところなんてイメージできない。


「まあ、やれるだけやってみますよ」


 俺はそう答えて、通話を切った。


 ルイさんから送られてきたアドレスに転移すると、そこは山奥だった。近くにとんでもなく巨大な魂力の持ち主がいるのを肌で感じる。


 三人でモンスターのものと思われる巨大な魂力の方に飛んでいくと、黒く巨大な物体が、木々をなぎ倒して移動しているのを見つけた。


 空からそいつを観察する。


 異世界産の天然モンスターでも、見た目は完全にドラゴンだな。全長15mはあるだろうか、太く長い尻尾に大きな翼、黒い鱗におおわれた巨体は見ているだけで威圧感を感じる程だ。


 奴はこちらを睨みつけ、咆哮を上げる。ビリビリと凄まじいプレッシャーが襲ってきた。ここが誰も住んでいない山奥で良かった。


 あんな奴と戦えば、きっと地形が変わるだろうからな。


 ドラゴンは大きな翼を広げると、羽ばたいて俺の方に飛んできた。巨体からは想像もできないようなスピードだ。瞬く間に俺との距離を詰めた。


 ドラゴンは太く強靭な前足を俺に振り下ろす。なんとか爪を虹刀で受け止めたが、あまりの威力に受けきれず吹き飛ばされてしまった。それだけでHPが半分も減ってしまった。


 ドラゴンは追い打ちをかけるように、火炎のブレスを吐き出した。強烈な火炎が広範囲を飲み込む。俺は全速力で飛んで、ギリギリでそれを回避する。


 俺への攻撃に夢中になっているドラゴンに、結月が魔刃のオーラを込めて青白く輝く虹刀を上空から勢いを付けて振り下ろした。


 並みのモンスターなら真っ二つになるはずの攻撃だが、ドラゴンの鱗を貫通しきれなかった。それでも衝撃は大きく、ドラゴンは落下していき地面に叩きつけられた。


「樹、あいつに全MPを込めて魔法を打ち込む。飛べなくなるから受け止めて」


 陽那の言葉を聞き、俺は頷いて陽那のそばまで飛んで行く。


 久しぶりに見る陽那の全力魔法、以前見た時よりもはるかに巨大な火球が上空に出現し、一瞬で刀の形に圧縮された。


 それをドラゴンに向け放つと、直撃させることができた。大爆発が起こり衝撃波が辺りに広がる。


 陽那はMP切れで飛べなくなって落下を始めたので、俺は急いで彼女を受け止めて退避した。


 しばらくして衝撃波が収まり、陽那に軽くキスをしてMPを全回復させる。


 ドラゴンを確認するために、クレーターが出来ている場所まで飛んで行くと、地面がえぐれ一部がマグマのように赤熱して溶けている。


 クレーターの中心には、ドラゴンがゆっくり起き上がろうとしていた。かなりのダメージを負っているようだがまだ消滅していない。


「私の全力でも倒しきれないなんて……」


 今までどんなモンスターでもオーバーキルしてきた陽那の魔法に耐えるとは……。確かに桁違いに強いようだな。


「私がとどめを刺してくる」

 

 結月がドラゴンめがけて急降下して、魔刃を込めた虹刀を叩きつけた。奴は悲鳴のような咆哮を上げたが、まだ消滅しない。


 ドラゴンは苦しそうに暴れ回り、尻尾で結月を跳ね飛ばした。


「結月!!」


 俺は急いで結月の元へ飛んで行き、抱きあげてドラゴンから距離をとった。結月のHPは0になり防御フィールドが消滅している。


 彼女を抱えていると、俺の手にぬるりと温かい物が付いた。恐る恐る自分の手を見ると、血で真っ赤に濡れていた。


 それを見た瞬間、鼓動が跳ね上がった。まるで、全身の血液が逆流したかのように思えた。呼吸が荒くなり、声が上手く出せない。


 声を震わせながら「結月、大丈夫?」と口にすると、結月は辛そうに口を動かした。


「ごめん、失敗した。もう戦えそうにない」


「後は、俺と陽那で倒すから少し休んでて」

 

 俺は魔法で結月のHPを全回復した。しかし防御フィールドが修復されただけで、怪我が治るわけではない。


 一撃でHPを0にしてしまうような攻撃力のドラゴンが相手では、気休め程度にしかならないだろう。

 

 モンスターとの戦いで、初めて怪我をした。


 戦って怪我をするということに俺は焦った。ゲームではなく、現実なんだということに今更気が付いたんだ。


 ドラゴンは翼を羽ばたかせ、俺に向かって飛んでくる。ドラゴンとの距離が徐々に縮んでいく。 


 ドラゴンが前足を振りかざす。次の一撃を受ければ結月は大怪我、あるいは死……。


 最悪の状況が目に浮かび、何も考えられなくなって、俺は結月を抱きしめた。


 無情にもドラゴンの腕が振り下ろされ、俺と結月に鋭い爪が襲いかかる。


 ――その時、陽那が氷の壁を作り、俺の前に立ちふさがった。しかし氷の壁だけでは、ドラゴンの攻撃を止めきれずに、陽那は地面に叩きつけられてしまった。


「陽那!!」


 俺は結月を抱えて陽那の所まで飛んで行く。陽那もHPが0になり防御フィールドが消滅しており、更には彼女の白い肌に赤い血が滲んでいた。

 

 陽那と結月は、今までどんな強そうなモンスターにだって、ほとんど苦戦することなく倒して来た。


 圧倒的な格上のモンスターとはいえ、今回も二人ならきっと倒せると錯覚していた。それなのに、こんな風に怪我をさせられてしまうなんて。


 俺が弱いから二人が怪我をした。このままでは俺達は全員……。


「樹、逃げて……」


「樹だけでも、生きていて欲しい……」


 陽那と結月は、か細い声で俺に言う。二人はこの状況でも、ヘタレな俺を心配してくれているのか……。


「陽那と結月が死んでしまったら、俺が生きていても意味がない」


 あのドラゴンを倒さなければ二人は死ぬ。そんなこと、させてたまるか。


「陽那、結月ちょっと待ってて。あいつを倒してくる」


 陽那と結月のことを、命を懸けてでも守りたいって気持ちは俺にだってある。以前、俺はそんなことを言ったのを覚えている。


 でも、実際には俺だけが命を懸けるという覚悟が、足りていなかった。


 俺は怒りを感じていた。


 二人を傷つけたドラゴンに? ……違う、無力な自分にだ。


 二人の圧倒的な強さに頼り切っていた、自分自身の弱さに……!!


 陽那と結月は、俺にたくさんのモノをくれた。俺のことを大好きと言ってくれた。いつも俺のことを甘やかしてくれた。それなのに、俺は彼女たちに何も返せていない。


 ……このままじゃ死ねない。こいつだけは俺が絶対に倒す!!


 ドラゴンは陽那と結月の攻撃で大ダメージを負っているにもかかわらず、すさまじいまでのプレッシャーを俺に叩きつけてくる。


 だが不思議と恐怖は全く感じない。


 陽那と結月がドラゴンの攻撃に巻き込まれないように軸をずらすため、風魔法を併用して駆ける。いつもより体が軽く速く動く。 


 ドラゴンが鋭い爪を振り下ろした。俺はそれを軽々と躱すことができた。


 奴の動きが予測できる、攻撃の軌道が読める。まるで俯瞰しているかのように、全体像が把握できている。


 完全に躱したにも関わらず、攻撃の余波だけで俺の防御フィールドが削られてしまう。動きは見切れても長くは持たないか。危機的状況にもかかわらず冷静に現状を分析していた。


 ドラゴンの猛攻を躱しつつ、俺は箱庭でのことを思い出す。


 イメージで魔法は自由に使えると陽那が言っていた。魔刃のオーラはイメージで自在に操れると結月が言っていた。


 俺は虹刀を鞘に納め、刀を握る手にドラゴンを両断するイメージと魔力を込めた。何よりも大事な陽那と結月を、命に代えても絶対に守るという意思を込めて。


 俺の握る虹刀に青いオーラが宿る。ドラゴンが動きを止めた。ブレス攻撃が来るな。あれが放たれれば辺り一帯は消し飛ぶだろう。


 俺はドラゴンに一気に近づき、自分の全てを懸けて居合切りを放った。その斬撃は、青白く輝くオーラを伴い、ドラゴンに襲い掛かる。


 奴のブレス攻撃より一瞬早く俺の斬撃が届き、その黒い巨体を真っ二つに両断した。


 ドラゴンが消滅したのを確認すると、俺の身体から急激に力が抜けて、立っていられなくなり、その場に倒れ込んだ。


 そして、意識は闇に呑まれていった。

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