部屋に来た
――翌日。
俺は自室で陽那と結月が家に来るのを、そわそわしながら待っていた。約束の時間は8時だから、そろそろ来るはずだけど……。
部屋の中をうろうろしていると、インターホンが鳴ったので、急いで玄関に行きドアを開けた。
陽那と結月がそこには立っていた。二人とも今日も抜群に可愛い。
「おはよー樹。私が来るの、待ち遠しかったでしょ?」
陽那は笑顔で問うので俺は、コクコクと頷く。結月も「おはよ。私も早く樹に会いたかった」と微笑んでいる。
女子の声がしたので何事かと思ったのか、母親が玄関まで出て来た。二人の女子の姿を確認すると、母親はニタァと不気味に笑う。
「友達が来るって聞いてたけど、こんなに素敵なお嬢さん二人だったなんて」
「初めまして鳴海陽那です!」
「初めまして桜花結月です!」
二人はピシッと姿勢を正して、母親に挨拶する。俺はなんとなく恥ずかしい。
「二人とも上がって。俺の部屋に行こ?」
「おじゃましまーす」
二人は元気に声を合わせると、家に上がり、俺に続いて階段をトントンと上がって、俺の部屋に入った。
部屋に女の子が来たと軽く感激していると、陽那は「ここが樹の部屋かー」と部屋を見回して、結月は「樹の匂いがする」と呟いた。
俺はちょっと焦りながら二人に聞く。
「えっ、なんか臭い?」
結月は首を横に振って「違うよ。なんかドキドキする」と、俺に擦り寄って腕にくっつく。陽那も俺の腕に抱きついてきた。
まだ午前中だが、外の気温は既に30度を超える暑さだろう。エアコンを効かせたこの部屋にいても、二人の体温を感じて俺の体温も上がってしまう。
ドアをノックする音が聞こえ、ガチャリとドアが開く。二人はパッと俺から離れて、何事も無かったような顔をしている。
母親がトレイにお茶の入ったグラスを三個乗せて部屋に入ってくる。またもニヤニヤしながら二人に声を掛ける。
「私は仕事に行ってくるから、樹の事はお願いね」
二人が「はい」と元気よく返事をすると、母親はニヤニヤしたまま仕事に出かけて行った。
俺は折り畳み式の小さなテーブルを出して、グラスの載ったトレイをその上に置いた。
そしてベッドに座ると、陽那と結月が俺の横にくっついて座った。
「箱庭の生活で、樹とベタベタくっつくのが癖になってたから、離れるのが辛かったよ」
「ホントにね。寝起きに樹が抱きしめてくれないと、元気出ないよ」
二人に挟まれて抱きしめられ、俺はサンドイッチの具材状態だ。二人の豊かな膨らみを押し付けられていると、俺も膨らんでしまう。このままではまずいので「15時まで何する?」と二人に聞いた。
「そうだなー、取り合えずPCの検索履歴でも見ようか」
陽那が楽しそうな声色で答えた。
……なんでそうなる? そっと陽那の顔色を窺うと小悪魔的な笑顔を浮かべており、目が合った俺はゾクッと震えてしてしまった。
しかし、こんなこともあろうかと、すでにブラウザの検索履歴はきれいさっぱり消してあるのだ。
陽那がPCを操作して、結月は隣で画面を見ていた。
「あれ、検索履歴が一件もない。これって、最近履歴を全削除したってことだよね?」
鋭い指摘に、体がギクリと強張った。結月は目ざとくそれに気が付く。
「なんでそんなに硬くなってるの? 樹、何かやましいことでもあるの?」
「い、いや? 何もやましいことなんて、ありませんですけども」
「やましいことがあるんだね。ブラウザの検索履歴を消しても、ここをこうして、こうすればどのサイトにアクセスしてたか分かるんだよ。ほらね」
陽那がキーボードをカタカタと操作すると、エロ動画サイトが無情にも表示されてしまった。
陽那……君はなんてことをしてくれるんだ……。
二人はPCの画面を食い入るように見ている。そして陽那は、俺をからかうように声を上げた。
「凄いねこれ、口で……。樹もこういうことして欲しいの? いやらしー」
結月は平静を保ったままそれに続く。
「樹がして欲しいなら、私は何でもしてあげるけどね」
それを聞いた陽那も「私だって、樹のして欲しいことなら何でもしたい!」と力強く言った。
えっ、何でもしてくれるの? と一瞬テンションが上がるが、ゆっくり息を吐いて自分を落ち着かせてから、二人の肩にそっと手を置く。
「二人ともありがとう。でも俺の性癖が暴露されると恥ずかしいから、PCは消そうか……」
二人はそろって「えーー」と、不満げな声を上げた。
それでも、拝むように両手を合わせてお願いすると、渋々PCを閉じてくれた。
「部屋にいるとムラムラしちゃうから、箱庭で体を動かしてこようか?」
陽那と結月は目を輝かせて、俺に跳びついてきた。
「ログハウスでする!?」
二人は声をそろえて俺に聞く。どうやら、えっちな気分になってしまったらしい。
「15時になって足腰が立たないと困るから今日はやめておこう」
二人は膨れっ面で抗議してくるので、一人ずつギュっと抱きしめてキスをした。不満はあるだろうけど、ひとまずは「しょうがないなー」と言って納得してくれた。
このまま何もしないでいたら、また二人がえっちな気分になっても困るので、課題を消化することにした。陽那と結月はアイテムストレージから課題を取り出して三人で取り掛かった。
* * *
ゆるく頑張っていると、12時を回ったのでそろそろ昼食にするか。
「二人とも、お昼は素麺でもいい? 俺、茹でてくるよ」
「素麺? 食べたい!」
「樹が作ってくれるの? 食べる!」
陽那と結月の返事を聞いて、俺は一階に下りて台所に行き準備を始めた。流し台の下から大きな鍋を取り出して、水を入れてコンロに火をかけて沸騰するまで待つ。
自宅に陽那と結月が来て、昼食の準備をするとか、少し前までは想像もできなかったよなぁ。
ぼんやりそんなことを考えていると、鍋の水が沸いてきたので、素麺を湯に入れて時計を見る。
一分半ほどでざるにあげ、流水で粗熱を取ってから、氷水でしめた。めんつゆと薬味も一緒にテーブルの上に準備して完成だ。
俺は階段の下から二階にいる二人に向かって「できたよー」と声を掛けた。
階段を下りてきた陽那と結月はテーブルの上を見ると、嬉しそうに「わー、樹の手料理だー」と声を上げた。
これを手料理と言われると、ちょっと恥ずかしいので「素麺を茹でただけだけよ」と返した。すると、陽那は「茹でるのも、立派な料理だよ」と力強く説いた。
「いただきまーす」
三人揃って手をあわせて、素麺をすする。美少女二人がご機嫌で素麺を食べる様子を見て、俺は何とも言えない喜びを感じたのだった。




