結月と二人きり
自宅に戻り三人で昼食を食べていると、陽那が結月に話しかける。
「昼から樹を結月に貸すね。でも、ちゃんと帰ってきてね。夜は一緒に食べよ」
「了解」
俺と結月が声を揃えて返事した後、結月は着替えてくると言って部屋に入って行った。
この前の試着室の時のセクシーな格好だったらどうしよう、と思っていたら、フリルがかわいらしい青色のワンピースだった。結月は青系の色がよく似合う気がする。
それにしても綺麗だ。俺が無言で見とれていると結月は上目でおずおずと聞く。
「もっと露出の多い服の方がよかった……かな?」
「そんなことないよ、その服よく似合ってる。凄く可愛い」
俺が思った事を素直に言うと、結月は満面の笑みを浮かべた。
「ありがと。嬉しい」
俺と結月がログハウスから出ると、陽那が「行ってらっしゃい」と手を振り見送ってくれた。俺と結月も「行ってきます」と手を振った。
* * *
二人で腕を組み歩く。心の中では早く二人きりになれる場所に行って、抱き合ってキスしたいと思っているが、えっちな事ばかり考えていると思われても嫌なので、まずはカフェに入ることにした。
俺達はテーブル席に並んで座ると、大きいサイズのパフェを頼み二人で食べることにする。
大きめの縦長のパフェグラスからはみ出して塔の様にクリームが盛り付けられ、ブルーべリー、苺、メロン、マンゴーなど多くの種類の果物が飾り付けらている。見た目にも色とりどりで綺麗だ。
パフェ用の細長いスプーンですくって食べる。もちろん美味しいが、すくって食べるときにこぼれそうになるので、どうしてもパフェに二人の顔が近づいてしまう。
今まで何度も結月とはキスしているものの、顔を寄せていると俺の鼓動は速くなってしまう。そのせいで、パフェを味わう余裕はあまり無かった。
不意に結月と目が合う。すると結月は自分のスプーンでパフェをすくい、「あーん」と言いながら俺の口の前に差し出した。
俺が大きく口を開けると、結月は俺の口の中にスプーンを入れるて微笑む。その表情のあまりの可愛さに俺の鼓動はさらに速くなった。
「樹、顔が真っ赤だよ。あーんされたのが嬉しかった? それとも間接キスが嬉しかったの?」
「両方嬉しい……」
「フフッ、間接キスが嬉しいなんて変なのー。いつもキスしてるのに。私にもあーんして」
俺は頷き自分のスプーンでパフェをすくい、結月に差し出して「あーん」と照れながら言う。
結月はそれを食べると「確かにちょとドキドキするね」と照れた笑顔になった。間近で見る結月の笑顔はたまらなく可愛かった。
そうやって、結月とイチャつきつつパフェを食べながら話を続ける。
結月のお父さんやお兄さんの話題では、結月と付き合う男は、お父さんより強くなくてはいけないといつも言われているらしい。
他にも、最近の陽那とのやり取りや、今日のダンジョン攻略で俺の動きが良くなっていると褒めてくれたりと、いろいろな事を話した。
考えてみれば結月と二人きりで、こんなに話したことは無いかもしれない。
すごく楽しいので、キスしたいという下心も一時忘れる程、楽しい時間を過ごすことが出来た。
パフェを完食したところで店から出て、二人で腕を組みながら家の方へ歩き出した。
あれ、このまま帰っちゃうの? もっとイチャイチャしたいな……。そんな俺の心の内を読んだのかどうかは分からないが、結月が笑みを浮かべながら俺に聞いてきた。
「樹、このまま帰る?」
「その前に結月と抱き合ってキスしたい」
考えていることをそのまま口にしてしまった。結月は笑みを湛えたまま組んでいる俺の腕をギュっと抱きしめた。
「フフッ、素直でよろしい。今から二人きりになれる所へ行こ」
「どこ行くの?」
結月は空を指差して「空、飛んでこうか」と風魔法でフワリと空中に浮かんだ。結月に手を引かれながら、俺も風魔法を使い空中に浮かぶ。
「雲の上まで行こ」
スピードを上げて、どんどんと空を昇っていき雲の上まで来た。
結月はミスリル刀を取り出して、魔刃の青いオーラを込め始めた。そして雲の上にそっと置くように手を離すと、刀はその場にとどまり宙に浮いた。
ミスリル刀を中心として、直径5~6m程の円状に青いオーラが広がった。
「この上には乗れるよ」
結月が青いオーラの上に立つ。俺も結月の手を握りながら青いオーラに足を乗せ飛ぶのをやめた。
すると、フワフワした綿のような感触の青いオーラに立つことが出来た。
「魔刃に込める魔力をイメージで調節すると、鉄より固くすることも、綿のように柔らかくすることもできるんだ」
いつの間に、こんなことが出来るようになったんだろう。きっと、一人で練習していたんだろうな。
俺が感心していると、突然、結月が飛びついて来る。
俺は結月を受け止めたものの、勢いで二人とも倒れてしまう。しかし、柔らかいクッションの上に倒れたような感触だった。
青いオーラからは結月の匂いと温もりが感じられる。結月に全身を抱かれているようで、とても心地良い。
結月は俺に覆いかぶさり、抱きついたまま顔を近づけ甘い声色で言う。
「ずっと、私とキスしたかったの?」
俺は心音が高鳴るのを感じながら「うん」と頷くと、結月も「私もだよ」と顔を寄せる。
俺達はゆっくり唇を重ねた。結月は唇を動かして、俺の中に吐息を押し込む。
二人の熱い吐息が混ざり、粘膜が口腔内でも密着する。呼吸するのも忘れるほど長く深くキスをした。
蕩ける程の快感をじっくり味わい唇を離す。結月の顔は上気して色っぽい表情だ。息も乱れている。
俺は結月を抱きしめたまま転がり、結月に覆いかぶさるようにした。
「前に強引にされるのもいいって言ってたよね?」
「うん、して……」
俺の方から、自分の唇を結月の唇に押し付けるようにキスをした。
そのまま絡めると、俺を抱きしめる結月の腕の力が強くなる。時折小さな声で「ん……」と聞こえる。その声に俺も気持ちが高まっていく。
しばらく抱き合いキスをした後、二人で大の字で寝そべる。結月は俺の腕に頭を乗せている。
「はぁ、気持ちよかった」
「私も良かったよ。……できれば挿れて欲しかったけど」
結月が何か小声で言ったみたいだが、俺は聞こえないふりをして「どうしたの?」と聞き返した。
結月は微笑んだまま「何でもないよ。樹、大好き!」と抱きついてきたので、俺も「俺も結月のこと、大好き」と応え、彼女の背中に腕をまわした。
しっかりキスして満足できたので、そろそろ帰るとしますか。
結月がミスリル刀を持つと、青いオーラの足場が消えて落下し始めた。風魔法で飛びつつ地上に降りていく。
「魔刃のクッションどうだった?」
「すごく良かったよ」
「樹に喜んでもらえるように、練習した甲斐があったよ」
「わざわざ練習してくれたんだ……。結月ありがとう」
「うん、またしようね!」
* * *
地上に戻った俺達は陽那にメッセージを送り、合流してレストランで食事をしてから帰ることにした。
午前中は陽那とイチャついて、午後からは結月とイチャついたので後ろめたかったが、二人はそのことを全く気にしていない様子だった。
俺はいつものように二人に甘えて、何事も無いようなふりをしていたのだった。