楽しくショッピング?
――翌朝。
枕元のスマホがブーブブッと振動するのと同時に、音声アシストが聞こえる。
「ログインボーナス1000Crが届きました」
「鳴海久奈から新着メッセージが届きました」
目を開けると、視界の右下に新着のアイコンが表示されている。いちいちスマホを見ることなく確認できるとは、何て便利なんだろう。
って、鳴海さんからメッセージが来てる!? 俺は慌てて起き上がると、視界に映るアイコンをタップしてメッセージを確認した。
「おはよう! 起きてる? 朝ごはん一緒に食べよ。7時半にロビーで集合ね♡」
なんと、メッセージにハートマークが入っている! もしかして俺に惚れたのか!?
……いや待て、確か女子は意味なくメッセージにハートマークを入れるという。俺のようなDTは、そうとは知らずに勘違い行動をして爆死する、というのをどこかで読んだことがある。落ち着け俺。
現在時刻を確認すると7時3分か、まだ時間の余裕はある。とりあえず「了解です」と返事した。
すぐに顔を洗いロビーに向かった。まだ鳴海さんは来ていないようなので、ロビーにあるフカフカなソファーに座ってソワソワしながら待つ。
「柳津君、おはよー! 待ったー?」
声のした方向を向くと、鳴海さんが手を振っている。
「鳴海さん、おふぁよう。俺もいま来たとこ」
っく、少し噛んだ。DTは美少女を前にすると、無駄に緊張するのだ! 文句あるか!?
それはさておき、合流した俺と鳴海さんは並んで朝食バイキングに向かった。
そこは現実世界のホテルと全く変わらない光景だった。多くの種類の食べ物が所狭しと並べられている。
ご飯、みそ汁、イカの塩辛、ウインナー、のりをとって適当に空いてる席に座る。別に好物なわけじゃないけど、朝食バイキングでは何故か塩辛を取ってきてしまうな。
そんな、どうでもいいことをぼんやり考えていると、俺の向かいにご飯、みそ汁、焼き魚、卵をとってきた鳴海さんが座った。
美少女と二人で朝食……。まるで鳴海さんと旅行してるみたいだ。人生でこんな経験をする日が来るなんて! ありがとう神様!! ひそかに幸せに浸っていると、鳴海さんが話しかけてきた。
「ねぇ、柳津君、今日はモンスターと戦いに行くんだよね?」
「ああ、そのつもり。でもその前に訓練所に行って、鳴海さんもスキルと魔法を使えるようにしない?」
「スキルと魔法?」
「そう、それがあるとモンスターとの戦闘が有利になるよ」
「うーん、私に使えるかな……?」
鳴海さんは、不安そうに首をかしげる。
「大丈夫だよ。念じるとあとは勝手に体が動いて技が出たり、一言呟くだけで魔法が撃てたりするから」
「ふーん、そうなんだ。やってみるか」
そう言って鳴海さんは頷いた。たったこれだけのやり取りで俺の心臓は高鳴ってしまう。この子、可愛すぎるだろ。
* * *
朝食を食べ終わり訓練所に行く途中、ふと鳴海さんはガチャで何が出たんだろうと思い聞いてみた。
「そういえば鳴海さん、ガチャって回した?」
「うん、回したよ。なんか杖が出た」
鳴海さんがアイテムストレージから、銀色の金属製の杖を取り出だしたので、俺はそれに軽く触れた。「ミスリルロッド 魔法使用時に威力ボーナス(微)が付く」名前と簡単な説明が視界に表示された。
「じゃあ、鳴海さんは攻撃魔法を覚えようか」
「うん、分かった」
訓練場に入り、鳴海さんはATMのような端末を操作しながら呟く。
「魔法かー、どれにしようかな?」
「火とか雷とか氷とか、他にもいろいろあるよ。俺は火の魔法にしたよ」
「ふーん、じゃあ雷にしようかな……」
「じゃあ、メニューの攻撃魔法から雷系魔法をタップして。魔法の形は……、放出型でいいか」
鳴海さんは「オッケー」と答えつつ、端末を操作していく。
「この消費MPってのはどうするの?」
「鳴海さんは、最大MPっていくつ? 視界の左上に見えてると思うんだけど」
「えーっと、25だよ」
「じゃ消費MPは4にしておこうか」
「りょーかい。この発動方法ってなに?」
「特定の言葉を発したり、動作をすると魔法が発動する仕組みらしいよ。あまりに長かったり、ややこしいのは面倒だと思うから、シンプルなのがいいかと……」
すると鳴海さんは、視線を上に向け考える。
「どうしようかな……じゃ『雷撃』で」
そんなこんなで、鳴海さんは魔法『雷撃』を獲得した。スキルはいいか、鳴海さんの武器は杖だし。
現在時刻は9時過ぎか、どうしようかな……。
「鳴海さん、フィールドに行く前に、ちょっとショッピングモールに寄って買い物していってもいい? 替えの服とか買っておきたいなと思うんだけど」
「いいよー。私も替えの服とか下着ほしいし」
っく。下着だと!?
DTの俺を挑発しているのか? 妄想してしまうじゃないか! などとは極力顔に出さないようにする。
「じゃあ、いったん別行動だね。ゲームシステム上のフレンドだから、お互いの位置はアシスト機能で分かるし、メッセージも送れるから買い物が終わったら合流しよう」
「分かった、買い物終わったらメッセージ送るねー」
鳴海さんと別れて男物の衣料品売り場に向かい、適当にシャツ、ズボン、パンツ、靴下を適当に買ってアイテムストレージにしまった。
そうだ、HP回復アイテムも買っておこう。RPGの基本だからな。残金が気になるところだが、モンスターを狩って稼ぐとしよう。
女子は買い物に時間がかかるというから、メッセージが来るまでスマホに入っている攻略アプリで情報収集するか。
――そして時間は流れ11時過ぎ、鳴海さんからメッセージがきた。
「柳津君、買い物終わった? どっち買おうか迷ってるんだけど、こっちに来て一緒に考えてくれない?」
マジか……もしかして下着か? 落ち着け俺。とりあえず返事をしなければ。
「俺は買い物終わってるよ。すぐに行くね」
フレンドの現在地検索を使用して、鳴海さんのもとへ急ぐ。するとそこは、普通に服屋だった。残念……まあそりゃそうだ。
鳴海さんを発見し近寄ると、すぐに俺に気がついたのか、こちらを見た。
「柳津君、これとこれ、どっちがいいと思う?」
鳴海さんはピンク色のタンクトップと、水色のタンクトップを手に持って俺に聞く。あれ? この状況ってほぼデートじゃね? 何とも言えない感情がこみ上げてくる。
「水色のがいいんじゃないかな?」
「よし! ピンク色にしよう!」
鳴海さんはピンク色のタンクトップを手にレジに向かった。
えっと、水色って言ったんですけど……。ピンク色の方を買うなら、なぜ俺に聞いんだよっ!?
鳴海さんは会計を済まして戻ってくると「私も買い物終わったよ」と微笑みかけてくる。
くぅぅ、可愛い……。俺の心の中の葛藤などお構いなしだな。女子の考えていることは良く分からないし、切り替えていこう。
「もう昼前か……フードコートでなんか食べてからフィールド行こうか?」
俺の提案に鳴海さんは「そうだね」と頷いたので、二人でフードコートの方へ移動した。