虹刀
――翌朝。
庭の転移ゲートに入ろうと、三人揃って庭に出ると、ルイさんが転移して来た。
「空を飛べるようになったみたいだね。ご褒美を持ってきたよ」
ルイさんは、アイテムストレージから三本の刀を取り出し俺達に手渡した。
俺は受け取った刀を、鞘から少し抜いて刀身を確認した。白い刀身は、見る角度によって微妙に色合いを変える。
ミスリル刀よりずっと重いが、魂力の上昇によって力も上がっているので、振り回すのに全く不自由は無い。
「綺麗な刀だ。それに、ミスリル刀より重いんですね」
「本来、刀剣というのは軽ければいいという訳でもない。軽いと威力が出ないからな」
「それに、ミスリル刀とそれっぽい名前を付けているけど、ただのアルミ合金製なんだよ。そのままじゃすぐ曲がってしまうから『我々の技術』でコーティングして丈夫にしてある」
「しかし、その白い刀はそれなりの素材で出来ているしコーティングもずっと上等なものだ」
えっ、ミスリル刀ってアルミなんだ。それはそれで驚きだ。アルミでこんなに丈夫なら、こっちの刀はもっとすごいんだろうなぁ。
「名前とかあるんですか?」
「開発コード W7-P58だ。好きなように呼べばいい。オリハルコン刀とか天叢雲剣とかいろいろあるだろう?」
ルイさんがニヤニヤと笑みを浮かべると、結月が白い刀を手に取って、刀身を眺めながら言う。
「虹のように美しい刀身だから虹刀はどうかな?」
「虹刀か……、いいと思う」
俺がそう応えると、陽那も「私もいいと思うよ」と賛同する。というわけで虹刀で決定だな。
「そういえば、陽那にも刀なんですね」
「陽那さんは、固有スキルの効果の一つで、視覚に頼らなくても周囲を正確に把握することが出来るだろう? 結月さんの動きを常に正確に把握し続けているから、ある程度模倣ができるはずだが……試しに剣技だけでPvPしてみてくれないか?」
「そうそう、君達の魂力で虹刀を振るうと、箱庭内のセーフティー機能と端末の展開する防御フィールドを貫通しかねないからPvPの時はこっちでね」
ルイさんはそう言って、陽那にミスリル刀を渡す。陽那はそれを受け取ると、結月と庭の空いているところへ歩いていった。
陽那と結月が向かい合い、礼をして構える。
試合が始まると、まるで結月同士が戦っているかのような錯覚をしてしまう、鋭く速く、しかも美しく刀が振られている。華麗な剣技の応酬に思わず見惚れてしまう。
「陽那は魔法だけじゃなくて、刀も使えるのか、凄いな……」
俺が思わず溢した言葉に、ルイさんは二人の剣戟を見つめたまま答える。
「確かにセンスもあるようだが、あくまでも今はまだ模倣だ。その道を究めようと研鑽を続ける者には届かない」
その時、陽那のHPは0になり、結月が勝った。
「ただ、言いにくいが……樹君よりも陽那さんの方が上だね」
ルイさんは、嬉しそうに俺を見ている。
うん、そうだろうね。俺も今そう思ったところです。ガクッと崩れ落ちて、両手を地面につけた。
「まぁ気を落とすな。チームってのは役割分担だ」
「君はバフ役とMP回復役。あの二人はオールラウンダーだ」
「それ、役割分担っていうんですかね……」
「ははっ、若いんだから細かいことは気にするな! 今からモンスターと戦ってくるんだろう。新しい刀の切れ味を試しておいで」
ルイさんに言われて、俺達は転移ゲートに入っていった。
転移した先は空中だった。足場は見当たらないので、咄嗟に風魔法で宙に浮く。
陽那も風魔法で浮いていたが、結月は浮いていると言うより空中に立っていた。よく見ると結月の足元がキラキラ光っている。氷か……。
「刀を振るうには地面に立たないとね」
氷を作り、魔法で固定してその上に立つことで、地上にいるときと変わらず刀を振れるのか。さすが結月だ。
「結月は氷魔法も取ってきたんだね」
「え? 一応全部の種類の魔法を取ってきたけど」
「……俺、風魔法しか取ってない」
確かに全種類の魔法を取ってくれば良かったな。また今度取りに行くか。
遠くの方から翼を羽ばたかせて、ドラゴンの群れがこちらに向かって飛んでくる。ワイバーンかな?
ワイバーン達は一斉に火球を吐き出し攻撃してくた。大量の火球が向かってくるが、すべての火球に対して陽那が正確に火球をぶつけ相殺する。
「樹を守ってて。半分倒してくるよ。半分倒したら、残りは陽那にあげるから」
「りょーかーい」
結月はワイバーンの群れに勢いよく飛び込んでいった。風魔法で素早く自在に飛び回り、ワイバーンとの間合いを詰める。そして、瞬時に作った氷の足場に乗って、刀を振るいワイバーンを両断した。
結月が強いのか、虹刀がよく切れるのか、その両方なのかは分からないが、次々とワイバーンが真っ二つになっていく。瞬く間にワイバーンの数を減らし戻ってきた。
「この刀、よく切れる。魔刃使わなくてもすごい切れ味だったよ」
息も乱さず、余裕を感じさせる結月。
陽那は「次は私の番だね」と口にすると、暴風のような勢いで飛び出していった。
自在に宙を駆けながら、すれ違いざまにワイバーンを虹刀で切り捨てている。瞬く間にワイバーンは全滅してしまった。
陽那も「この刀よく切れるね」と喜んでいる。庭に戻ってくると、まだルイさんがいた。
やっぱり、この人暇なんだろうな。でも一応お礼は言っておく。
「虹刀、ありがとうございました。凄い切れ味でした」
「喜んでくれたようで何よりだ」
「今日も昼食をご馳走しよう。別に私も暇な訳では無いが、君達も私に聞きたいことがあるだろう?」
ルイさんの後について転移ゲートに入っていくと、レストランの個室だった。
今日のメニューは寿司、天ぷら、刺身という和食だけど、これ絶対高級なやつだ。寿司のネタは輝いて見えるし、天ぷらの盛り付けがなんかカッコいい。刺身なんかは、なぜか船の形の大皿に載っている。
「すごい豪華ですね」と陽那が目を丸くすると、結月も「美味しそうだね」と嬉しそうに呟いた。
「遠慮せず食べてくれ。楽しんでもらえたら私も嬉しい」とルイさんは笑顔で勧めてくれた。
ありがたくいただきながら、以前話を聞いた時から気になっていたことを、ルイさんに質問をすることにした。




